Tetracyclineの治療応用が知られて以来, その溶解度が低いため, 適用法はおもに経口投与に限定され, 注射剤としての利用は困難であつた。Tetracycline塩酸塩は, 最初の可溶性塩であるが, その水溶液は生理的pHの範囲で容易に解離してTetracycline塩基の沈殿を生ずる。したがつて, 溶解性をさらに高めるためにクエン酸, アスコルピン酸, グルコサミンなどの添加, またはメタ燐酸塩などがつくられたが, 注射局所の副作用の発生にたいする解決とはならなかつた。
その後, 中性附近できわめて溶解度が高く, 吸収も速やかなTetracycline誘導体としてPyrrolidinomethyl tetracycline1, 2) やTetracycline-L-methylenelysine3) が開発され, 経口投与のみならず筋注または静注による投与法に改善がみられた。
ところで, PEDRAZZOLI, GRADNIKら4, 5, 6) は, 水溶性のTetracycline化合物を求める目的で, Aminomethylation法によつて多数のTetracylineのaminomethyl誘導体の合成を試みたが, そのなかで溶解性のもつともすぐれたものとして4'-(β-Hydroxyethyl)-diethylenediaminomethyl tetracyclineを発見した。その水にたいする溶解度は,次のとおりである。
4'-(β-Hydroxyethyl)-diethylenediaminomethyl-tetracycline 1g/0.7ml
Tetracycline 塩基 1g/2,500ml
Tetracycline 塩酸塩 1g/10ml
この水溶液のpHは7.4~7.6で, 広範囲のpH域で沈殿を生じない。そして抗菌活性と抗菌スペクトルは, テトラサイクリンとほとんど同じである。
一方, GRADNIK & FERRERO7) は新らしいTetracycline塩であるTetracycline phenoxymethylpenicillinateを酸・塩基結合の形でつくり, このものはPenicillin耐性菌およびグラム陽性菌にたいしてTetracycline塩酸塩よりも高い抗菌力を示すことがみとめられたが, 水に難溶性で注射用としては不適当であつた。この難溶性は, 明らかにTetracycline塩基の性質に由来するものである。そこでPEDRAZZOLI, GRADNIK & CIPEllETI4) は上述の水溶性Tetracycline誘導体にPhenoxymethylpenicillinを結合させて表記の化合物すなわちPenimepicyclineを創製した。この化合物は,4'-(β-Hydroxyethyl)-diethylenediaminomethyl tetracycline (HDTと略) を62.6%, Phenoxymethylpenicillin (PC-Vと略) を37.4%すなわち両物質を等モル含み, 水にきわめて易溶性 (1g/0.7ml) であり, 毒性はTetracycline塩酸塩と大差ない。
抗菌スペクトルは, CERVlNI, ANGELINI & VELLI8) の報告によると, だいたいの傾向として含有する両抗生物質の活性を兼備した広域スペクトルを示すが, Penicillin耐性のグラム陽性球菌のいくつかのものにたいしてPC-VのReactivationが観察され, またグラム陰性桿菌の数例においては, HDTのPotentiationがみとめられ, さらにまたPC-VとHDTのReciprocal potentiationがみられた菌もあつた。彼等は実験に使用した19株の各種細菌にたいする本剤およびその成分であるPC-VとHDTの各個の活性を比較した結果を次のように解釈している。
(1) Reciprocal potentiation がみられたもの 5株
(2) Potentiation of HTD 4株
(3) Reactivation of PC-V (PC-V耐性菌において) 2株
(4) No potentiation (PC-VまたはHDTの強いほうと同等 4株
(5) Slight antagonism 4株
このうち(5)のAntagonismにおいても, その量的な差は僅少で, 問題とするほどのものではないとしている。
要するに, 本剤の狙いとするところは, Tetracycline分子にHydroxyethyldiethylenediaminomethyl側鎖を導入することによつて水溶性とし, これにPC-Vを結合させて, 筋注または内服による吸収拡散を速やかにするとともに, 両剤の相加的または相乗的効果によつて抗菌スペクトルの拡大をはかり, Penicillin耐性菌にも使用しうる利便を求めたものである。
著者らは, 本剤の効果についていささか興味を覚え, その抗菌スペクトルについて追試検討したので報告する。
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