S-1108は抗菌活性を有するS-1006の4位のカルボン酸にPivaloyloxymethyl基をエステル結合することによつて吸収を良好にした新しい経口Cephem剤である。本剤は経口投与後, 腸管から吸収され, 腸管壁のエステラーゼにより加水分解を受け, 活性体としてS-100bは体液中に存在し, このS-1006は広範囲な抗菌スペクトルを有し, 一部の細菌が産生するβ-Lactamase以外は極めて安定である。この度, 本剤の小児用として新しく細粒が製剤化されたことから, その基礎的・臨床的検討を行ったところ, 次のような成績が得られた。
1. 薬剤感受性試験ではグラム陽性球菌中
Staphytococcus aureusの保存株456株に対するS-1006のMIC
80は6.25μg/mlで, Cefaclor (CCL) とMethicillin (DMPPC) のMICに類似の傾向にあり本剤投与症例から分離の
S. aureus 20株でのS-1006のMICは保存株と同じく1.56μg/mlを示した株が最も多く, CCL, Amoxicillin (AMPC), DMPPCのMICに類似の傾向を呈した。
Streptococcus pyogenesの保存株449株と本剤投与症例から分離の7株に対するS-1006のMICは全株が0.025μg/ml以下で, Cefteram (CFTM) のMICと同じであった。本剤投与症例から分離の
Streptococcus pneumoniae 5株に対するS-1006のMICは0.025μg/ml以下, 0.10μg/mlか0.39μg/mlでAmpicillinのMICとほぼ類似, CFTMのMICに類似した。グラム陰性桿菌では本剤投与症例から分離した
Haemophilus influenzae 4株についてのみのMICであるがS-1006のMICは0.05μg/mlか0.10μg/mlで, CFTMのMICに類似した。
2. S-1108細粒を1例に4.0mg/kg, 2例に6.0mg/kgを投与してのS-1006の血漿中濃度は, 前者では投与3時間後, 後者では投与3時間後か投与4時間後に最高濃度を示し, 各々1.25, 2.43, 2.23μg/ml, 半減期は前者では1.11時間, 後者ではいずれも1.28時間, AUCはそれぞれ4.06, 8.37, 7.73μg・hr/mlで, 両投与群間にDose responseが認められた。
3. 血漿中濃度を測定した同一の症例における尿中濃度は4.0mg/kg投与の1例では投与後4~6時間, 6.0mg/kg投与の2例は投与後0~2時間か投与後4~6時間が最高濃度で, 各々258.0, 602.0, 500.0μg/ml, 投与後8時間までの回収率はそれぞれ38.9, 38.3, 23.1%であった。
4. 臨床効果は13疾患93症例中88例が有効以上で, 有効率は94.6%と優れた成績を示した。
5. 細菌学的効果8菌種48株中43株が消失し, 消失率は89.6%と優れた成績であった。
6. 副作用はふらふら感が1例1%, 下痢が2例2.1%に出現した。
7. 臨床検査値では末梢血の好酸球増多が47例中1例2.1%に出現した。
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