感染症の治療は, 原因菌の決定とそれに適合した化学療法剤の選択が理想であるが, 実際問題としては, 原因菌の検出が方法論的に困難なことが少なくなく, それにまた複数菌による感染のばあいもある。
昨今の化学療法剤の開発が, 広スペクトルムのものに方向づけられる傾向があるのは当然であるとしても, これらの薬剤は特定の細菌には抗菌作用が弱いことが少なくない。たとえば, 敗血症, 心内膜炎患者の血液から分離した黄色ブドウ球菌7株に対するアミノベンジルペニシリン (AB-PC) とメチルクロロフェニルイソキサゾリルペニシリン (MCI-PC) の試験管内抗菌力を比較すると, 後者がより強力であつた (表1)。
AB-PCは広スペクトルムトいう点では最初のPC系製剤であり, その臨床効果はきわめて高く評価されている。しかし, 表1の成績のように, 球菌, ことにブドウ球菌に対する抗菌力がやや弱く, したがつて本菌に最も有効とされているMCI-PCなどをAB-PCに配合することは, 少なくとも理論的には, きわめて有用であると考えられる。
呼吸器感染症, ことに肺化膿症, 気管支拡張症などでは, 球菌, たとえば肺炎球菌, ブドウ球菌, 連鎖球菌などと桿菌, たとえばインフルエンザ球菌, 肺炎桿菌, 大腸菌など, さらには嫌気性菌との混合感染に遭遇することが多く, このような症例にはAB-PCとMCI-PCのような合剤はとくに有効と考えられる。
AB-PCとMCI-PCの配合比率については困難な問題はあると思うが, 今回は両者が同比率であるピクシリンS‘明治’を呼吸器感染症, 敗血症など多くが重症感染症と考えられている20例に使用したので, その成績を報告する。
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