1997年6月から翌年5月までの間に全国9施設において尿路感染症と診断された患者から分離された菌株を供試し, それらの患者背景について性別・年齢別と感染症, 年齢別感染症別菌分離頻度, 感染症と菌種, 抗菌薬投与時期別の菌と感染症, 因子・手術の有無別の菌と感染症などにつき検討した。
年齢と性および感染症の関連についてみると, 男性の症例は50歳以上で年齢と共に増加し, 感染症については複雑性尿路感染症の割合が増加した。女性では60~69歳の症例が最も多く, 加齢に伴い複雑性尿路感染症の占める割合が緩やかに増加した。これらの傾向は経年的にみてもほとんど変化はなかった。年齢別。感染症別の菌分布は単純性およびカテーテル非留置複雑性尿路感染症では,
Escherichia coliの分離頻度が最も高く, それぞれ53.0~68.0%, 19.1~31.6%分離された。次に
Enterococcus faecalisの分離頻度が高く, それぞれ4.0~13.6%, 11.5~16.3%分離された。カテーテル留置複雑性尿路感染症では, 50歳以上の症例で
E. faecalisと
Pseudomonas aeruginosaの分離頻度が高く, それぞれ16.3~23.6%, 19.4%分離され, 年齢による分離菌の違いは認められなかった。感染症と菌分布および抗菌薬投与前後の感染症別菌分布をみると,
P.aeruginosaは感染症が複雑になるに従い, また抗菌薬投与後の症例で分離頻度が高かった。
E. coliは感染症が複雑になるに従い分離頻度が減少する傾向は例年通りであった。また抗菌薬の投与前後でみると, 単純性尿路感染症では最近の抗菌薬の有効性も関連して, 投与後の分離頻度がかなり減少している。しかし複雑性尿路感染症では投与後での分離頻度の増加傾向が認められ, 特にカテーテル留置例では投与前の7.3%に対し, 投与後は12.9%と多く分離され,
E. coli耐性化の傾向が懸念される。分離菌を因子・手術の有無別, 感染症別にみると, 単純性およびカテーテル非留置複雑性尿路感染症では
E. coliは無で多く分離され,
E. faecalisは有で多く分離された。カテーテル留置複雑性尿路感染症では
E. coliおよび
E. faecalisは有で多く分離され, P. aeruginosaおよび
Staphylococcus aureusは無で多く分離された。
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