新生児領域におけるAztreonam (AZT) についての基礎的, 臨床的検討を行った。
1.生後1~30目の新生児18例 (在胎週数36~40週, 生下時体重1,890~4,300g) にAZT10mg/kg (7例) あるいは20mg/kg (11例) を, 又, 生後54, 60日の乳児2例 (在胎週数36~40週, 生下時体重2,300~3,300g) に20mg/kgをOne shot静注した際の血清中濃度推移と尿中排泄について検討した。なお, 新生児の20mg/kg投与例のうちの5例はAZTと同時にAmpicillin (ABPC) を25mg/kgOne shot静注した際のもので, これらについてはABPCの血清中濃度推移についても検討を加えた。
新生児におけるAZT10mg/kg投与後の血清中濃度は静注後0.5時間が11.5~27.6μg/ml (平均20.3±5.5μg/ml) で, その後は2.72~5.7時間 (平均3.81±1.28時間) の半減期をもつて推移し, 8時間では3.3~8.7μg/ml (平均5.8±2.5μg/ml) であった。又, 20mg/kg投与では, 0.5時間値が12.4~48.8μg/ml (平均35.9±11.6μg/ml) で, 半減期は1.69~4.14時間 (平均2.94±0.76時間), 8時間値は1.1~10.6μg/ml (平均5.6±3.6μg/ml) であった。更に, 静注後8時間までの尿中回収率については, 前者では15.5~61.9% (平均37.8±21.8%), 後者では16.3~62.2% (平均435±16.2%) であった。
又, 乳児におけるAZT20mg/kg投与後の、血清中濃度については, 0.5時間値が33.0~35.6μg/ml (平均34.3±1.8μg/ml) で, 半減期は1.76~3.77時間 (平均2.77±1.42時間), 8時間値は1.4~5.8μg/ml (平均3.6±3.1μg/ml) であり, 尿中回収率は35.4~64.8% (平均50.1±20.8%) であった。
これらの成績から, AZTは新生児期においても用量に依存した高い血清中濃度が得られ, しかも早期から良好な尿中排泄を示す薬剤であると考えられた。又, 血清中濃度ピーク値 (0.5時間値) 及び半減期については個体差がかなり大きかったのが, 前者は日齢と共に低くなり, しかも未熟児において若干高い傾向がみられ, 又, 後者については日齢と共に短縮し, しかも成熟児においてより速やかな傾向がうかがわれた。
なお, AZT単独投与例と, AZTとABPCとの併用投与例においてAZTの血清中濃度推移, 尿中回収率を比較した結果では, ABPCの併用によってAZTの吸収, 排泄は大きく影響を受けることはないと考えられた。
又, ABPC併用投与例においてAZTとABPCの血清中濃度推移を比較すると, ABPCはAZTに比べて低く推移し, しかも半減期がかなり短い傾向にあった。
2.細菌感染の存在が推定されるか, もしくはその発症が予想された新生児56例にAZTを単独で, あるいは菌判明まではABPCを併用で投与し, AZTについての臨床効果, 細菌学的効果, 副作用について検討した。
AZT単独投与の急性肺炎6例, 急性尿路感染症6例, 計12例に対する臨床効果はすべて著効であった。又, AZT, ABPC併用投与の18例については, 化膿性髄膜炎1例は有効, 急性肺炎7例及び急性上気道炎2例はすべて著効, 子宮内感染8例は著効3例, 有効5例で, 全例において有効以上の成績であった。なお, 併用投与例のうちの2例はABPC耐性のグラム陰性菌による症例であった。従つてAZTについての有効性を評価できた症例は, 単独投与例の12例に上記2例の併用投与例を加えた計14例となり, これらに対してはすべて有効以上の臨床効果が得られた。
又, 細菌学的効果については, AZTについての臨床評価が可能であった14例の原因菌に限って行ったが,
Escherichia coli5株,
Klebsiella pneumoniae2株,
Klebsiella oxytoca1株,
Haemophilus inftuemae1株,
Pseudomonas aeruginosa1株,
Acinetobacter calcoaceticus1株についてはすべて消失と判定された。
副作用については, 評価の対象となった56例において認められた症例はなかった。又, 臨床検査値異常については, 血小板増多が1例, GOTの上昇が3例, GOT及びGPTの上昇が1例, 好酸球増多が1例に認められたが, すべてABPC併用例で, AZTに起因するものとは断定できなかった。
以上の成績から, AZTは新生児期においても有用であり, しかも安全性の高い薬剤であると考えられた。
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