The Japanese Journal of Antibiotics
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39 巻, 6 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
  • 小林 智, 井上 顕信, 出口 隆志
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1443-1452
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Astromicin (ASTM, Fortimicin®)は,協和醗酵工業株式会社で発見され開発された, MfcromoπoSpora olivasterospora MK70の産生する新規アミノ配糖体抗生物質である1)。本剤は, グラム陽性菌, グラム陰性菌に広範な抗菌スペクトルを有し, 特にSerratia marcescensやアミノ配糖体抗生物質耐性菌に強い抗菌力を示す2~4)。ASTMの吸収, 分布, 代謝, 排泄についてはすでに多くの報告5~7)がみられる。今回, 著者らはイヌを用いて筋注, One shot静注及び点滴静注時におけるASTMの体内動態について検討したので報告する。本実験は1984年6月から1984年12月の間に行われた。
  • 中島 光好, 滝口 祥令, 井上 顕信, 小林 智
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1453-1472
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Astromicin (ASTM, KW-1070) はFig. 1に示すような構造式を有するアミノ配糖体系抗生剤であり, グラム陽性球菌, グラム陰性桿菌に対し強い抗菌力を示し, Aminoglycoside 3-Nacetyltransferase-I [AAC (3)-I] 以外のアミノ配糖体系抗生剤を不活化する酵素のほとんどに安定であり, Gentamicin (GM), Dibekacin (DKB), Amikacin (AMK) などと交叉耐性を示す菌はない1~4)。腎毒性はAMKより弱く5, 6), 又, 聴器障害はアミノ配糖体系抗生剤の中で最も弱いことが知られている7)。
    従来アミノ配糖体系抗生剤は筋注だけに用いられてきたが, 筋注は注射部位の硬結, 出血性素因のある患者における注射部位の皮下出血などの問題があつて, 点滴静注で使用される例も少なくなく, Tobramycin (TOB), DKB, AMKは点滴静注の適応が認められている。
    今回, われわれは健康成人志願者を対象にASTM点滴静注時のヒトにおける安全性とその吸収, 排泄動態の検討を行つたので, 以下その成績を報告する。試験期間は昭和59年9月から10月である。
  • 山作 房之輔, 小林 智, 井上 顕信
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1473-1479
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    平均体重62kgの4名の健康成人被検者にAstromicin (ASTM) 200mg (I群) と400mg (II群) を1時間で, 200mgを2時間(III群)で持続注入器を用い, 定速度で静脈内に注入した際の血清中, 尿中濃度をHPLCにより測定した. 注入終了時の平均最高血清中濃度はI群13.32μg/ml, II群22.12μg/ml, III群9.89μg/mlで用量依存性を認め, 8時間後には各群とも1μg/ml以下となつた. 尿中回収率は8時間後までに90%, 24時間後までに95%であつた. Two-compartment open modelによるT1/2 (β) は1.64~1.72時間, AUCはI, III群は33.1μg・hr/mlと31.6μg・hr/ml, II群は57.6μg・hr/mlで用量依存性であつた.
    Amikacin (AMK) の使用時に最高血清中濃度が35μg/mlを越えず, 次回注射前の最低濃度が5μg/ml以下であることが勧められているが, ASTMの毒性はAMKより低く, 400mgを1時間で静脈内に注入したII群の最高血清中濃度, 8時間値ともそれぞれの上限までには充分の余裕があつて安全性には問題はなく, 文献に示されたS. aureusや各種グラム陰性桿菌に対するMIC分布に対比すると200mg, 及び400mg1日2回のASTM点滴静注療法の有効性が示唆された.
  • 森口 隆一郎, 山越 剛, 根本 総, 名出 頼男, 鈴木 恵三, 井上 顕信, 小林 智
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1480-1486
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    新しいアミノ配糖体系抗生物質Astromicin (ASTM) を腎障害患者に投与し, 血中濃度測定とこれに基づく薬動力学的解析を行つた。症例数は7例で, 投与は200mg (1例は100mg) を1時間かけて点滴静注した。腎機能は内因性クレアチニンクリアランス (Ccr) によつた。
    ASTMは, 腎機能の障害の程度に応じて高い血中濃度と血中滞留時間の延長が認められた。本剤は既存の同系剤と比べて, 安全性が最も高いものの一つとされているが, 腎障害例では投与にあたり, 症例ごとに慎重な配慮が必要である。
  • 佐藤 清, 山下 錦也, 岡地 諒
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1487-1493
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    緑膿菌に対するアミノ配糖体系抗生物質Astromicin (ASTM) とβ-Lactam系抗生物質 (Latamoxef, Cefoperazone, Piperacillin, Cefsulodin) の併用効果について, 実験的感染症モデルを用いて検討した。実験動物は正常及び免疫低下 (感染4日前Cyclophosphamideを250mg/kg腹腔内投与) マウスを使用し, 併用薬剤の配合比はASTM-β-Lactam剤を1:5とした。感染及び治療法の経路はそれぞれ腹腔内, 皮下で行つた。
    正常マウスを用いた緑膿菌感染症に対して, ASTMと上記β-Lactam剤のいずれの組み合せにおいても著明な併用効果が認められた。併用時における各薬剤それぞれの投与量は, 単独投与時に比ベ大幅に減量がみられた。併用相手のβ-Lactam剤の種類によつては, そのin vivo効果は有意な相乗作用を示した。免疫低下マウスを用いた緑膿菌感染症の場合にも正常マウス時に比較し, 対応する投与の治療効果は減弱傾向にあるものの併用では相乗効果が認められた。
    今回のin vivo試験において, ASTMとβ-Lactam剤の併用により緑膿菌に対し相乗的に作用することが確認された。
  • 米山 裕, 岡地 諒
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1494-1503
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    アミノ配糖体系抗生物質であるAstromicin (ASTM) の生体防御機構に及ぼす影響について検討を行つた。
    その結果, マウスの腹腔浸出多核白血球 (PMN) の貪食殺菌作用をASTM (100μg/ml) 存在下で調べたが影響はなかつた。又, ASTM (100μg/ml) 前処理PMNの貪食殺菌作用及び貪食作用にも影響は認められなかつた。ルミノール依存性化学発光によるPMNの活性酸素産生系に及ぼすASTMの影響を調べたところ, 100μg/ml及び50μg/mlのASTM (あるいはAMK) の存在下で発光強度の若干の低下が認められたものの20μg/mlではASTM (あるいはAMK) の存在下で発光強度に変化は認められなかつた。
    又, ASTM及びAMK 100μg/mlあるいは20μg/ml存在下でマウスPMNのChemotaxisを検討したが全く影響を及ぼさなかつた。
    ヒト血清及びマウス血清とASTMとの併用によるin vitro殺菌効果について検討した結果, グラム陰性桿菌 (E. coli, P. aeruginosa, S. marcescens, K. pneumoniae) 及びグラム陽性球菌 (S. aureus) に対して著しい併用効果が認められた。
    以上の成績から, ASTMは細菌感染初期に重要な生体防御因子であるPMNの諸機能には悪影響は及ぼさず, 血清中の殺菌因子とは相乗的に作用する安全で有効な抗生物質であると考えられる。
  • 山元 貴雄, 保田 仁介, 冨岡 恵, 金尾 昌明, 岡田 弘二
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1504-1508
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Ceftizoxime (CZX) は, 我が国で開発されたいわゆる第3世代CePhem系抗生剤である。
    本剤は, グラム陽性菌からグラム陰性菌にまで広範な抗菌スペクトラムを有し, 特に, インドール陽性Proteus属, Serratia, Eenterobacter, Citrobacterに対し, 優れた抗菌力を示す。又, Bacteroides fragilisをはじめとする嫌気性菌に対しても良好な抗菌力を示す1)。
    本剤をヒトに静脈内投与した時のβ相における半減期は1.3~1.5時間であり, 体内で代謝を受けることなく, 投与後8時間までに70~90%が尿中に排泄される1)。
    CZXの投与法は, 現在のところ静注あるいは筋注であるが, 最近, 京都薬品工業株式会社及び藤沢薬品工業株式会社で, 本剤の坐剤化が行われ, Ceftizoxime suppositoryとして開発された。
    今回, われわれはCZX坐剤の婦人科領域における組織移行性について検討を行つたので報告する。
  • 岩城 雅範, 佐藤 博, 牧野田 知, 出店 正隆, 田畑 雅章, 山口 辰美, 高岡 波留人, 新開 奈保子, 大久保 仁, 佐藤 春美, ...
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1509-1513
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は, 1976年米国メルク社研究所のJ. S. KAHANらによつて発見されたStreptomyces cattleyaによつて産生され, 従来のペニシリン系及びセファロスポリン系抗生物質とは基本的に化学構造を異にするカルバペネム系抗生物質ThienamycinのN-Formimidoyl誘導体である。構造式は図1に示す, 分子量317.37の白色又は黄白色の結晶性の粉末である。MK-0787はグラム陽性及び陰性の両菌種に対し優れた抗菌力を示す。いわゆる第3世代セファロスポリン剤と抗菌力を比較すると, グラム陰性菌に対しては同程度, グラム陽性菌に対しては, はるかに強い抗菌力を示す。加えてPseudomonas aeruginosaをも含めた抗菌スペクトラムに特徴を持つ。又, 嫌気性菌に対しても第3世代セファロスポリン剤に比べ, はるかに優れた抗菌力を有する。
    MK-0787はこのように優れた抗菌力を持ち,且つ細菌のβ-ラクタマーゼ阻害活性を有する優れた抗生物質であるが, 残念ながら体内の主として腎尿細管上皮のDehydropeptidase-Iにより水解不活性化されるという弱点を持つ。このため, この酵素の特異的阻害剤として開発されたのが, Cilastatin sodium (MK-0791) である。MK-0791は分子量380.44で構造式を図2に示す。MK-0791自身には抗菌活性は全くないが, MK-0787の単独投与時の未変化体尿中回収率は約23%であるのに対し, MK-0787とMK-0791を1:1に配合し投与した場合は, 未変化体尿中回収率が約70%と高率になり, in vivoにおけるMK-0787の抗菌力を高めると共にMK-0787の腎毒性を軽減するという作用を持つ。なお, Dehydropeptidase-Iを阻害することによる重篤な副作用は現在まで特に認められていない。
    今回, 北海道大学産婦人科教室において, MK-0787/MK-0791を婦人科感染症に使用する機会を得, その有効性を確認できたのでここに報告する。
  • 田口 圭樹, 斉藤 良治, 関 晴夫, 村田 誠, 設楽 芳宏, 佐山 猛, 佐藤 康美, 磯部 京悦
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1514-1518
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は米国メルク社研究所において開発された新規のカルバペネム系抗生物質であり, Streptomyces cattleyaから得られたThienamycinのN-Formimidoyl誘導体である (Fig. 1)。本剤はPseudomonas aeruginosaを含む広範囲の菌種に対し強い抗菌力を示し, β-Lactamaseに対し極めて安定で且つβ-Lactamase阻害活性を有する。しかしながら, 本剤は腎尿細管上皮に存在するRonal dipeptidaseによる代謝のため尿中回収率や, 更には動物実験における腎障害に問題があつた。そこで選択的Renal dipeptidase阻害剤であるCilastatin sodium (MK-0791)(Fig. 2) を開発,MK-0787と併用投与することによりこの腎代謝の問題改善に成功した1)。
    今回我々はMK-0787/MK-0791の産婦人科領域感染症における有効性を裏付ける目的で, 点滴静注後の肘静脈血, 子宮動脈血及び各性器内組織中へのMK-0787の移行を検討, 更に広汎性子宮全摘出術後の死腔液中への移行をも検討し, 以下の結果を得たので報告する。
  • 千村 哲朗, 森崎 伸之, 松尾 正城
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1519-1525
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    新しく開発されたCarbapenem系抗生物質であるImipenem/Cilastatin sodium (MK-0787/MK-0791) は, ThienamycinのN-Formimidoyl誘導体MK-0787とRenal dipeptidaseの特異的阻害剤 (MK-0791) を1:1に配合した製剤で, 各種細菌産生のβ-Lactamaseに対し安定で, グラム陽性菌, グラム陰性菌の広範囲の菌種に対し強い抗菌力を示す1~3)。特にPseudomonas aeruginosa, しかもGentamicin (GM) 耐性P. aeruginosaや, 従来のCephem系抗生物質が無効であつたEnterococcus faecalis, Bacteroides fragilisを含む各種の嫌気性菌に対し強力な抗菌力を示すと言われている。
    すでに本剤の臨床各科領域での約1,300症例が検討報告され, 本剤の有用性が示唆されているが1), ここでは本剤の産婦人科領域での組織移行性と感染症に対する効果を検討したので報告する。
  • 岡村 州博, 中紬 正明, 山田 和徳, 池野 暢子, 渡辺 正昭, 高橋 克幸, 村口 喜代, 斎藤 晃, 涌坂 俊明, 村井 秀夫, 鈴 ...
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1526-1530
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は, 米国メルク研究所において開発された新しいカルバペネム系抗生物質であり, グラム陽性, グラム陰性の広範囲の菌種に対し強い抗菌力を示す。この抗菌力は殺菌的に作用し, 特にPseudomonas aeruginosa, Enterococcus faecalisに強い抗菌力を示し, βラクタマーゼに対し極めて安定であると同時にβラクタマーゼ阻害活性を有する。又, 動物実験ではCephaloridineより弱いが腎毒性を示す。
    本剤の大きな特徴は, 腎尿細管上皮のRenal dipeptidaseにより分解されることであり, この結果尿中回収率が低い。この点を補うためにRonal dipeptidaseを選択的, 可逆的に阻害するCilastatin sodium (MK-0791) が開発された。MK-0791は抗菌力を持たないが, これをMK-0787と併用することにより, MK-0787の尿中回収率を高め, 同時に腎毒性を軽減することができた1~3)。Fig. 1にMK-0787とMK-0791の化学構造式を示す。
    今回我々は婦人科感染症患者にMK-0787とMK-0791の1: 1の配合剤であるMK-0787/MK-0791を使用する機会を得たので若干の検討を加え報告する。
  • 小幡 功, 今川 信行, 横山 志郎, 小池 清彦, 森本 紀, 蜂屋 祥一
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1531-1554
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    近年, 各種の抗生物質が開発, 臨床応用されているが, 抗菌Spectrumが広域である点や作用機構から安全性が認められる点などから, その主体はβ-Lactam系抗生物質が占めていると言えよう。しかし, β-Lactam剤にも細菌細胞外膜の透過性, β-Lactamaseによる加水分解又は結合, Penicillin binding Proteinの変異等の耐性発現機構が存在するため, その使用頻度, 使用量の増加に伴い耐性菌が出現することは一般的に容認あるいは推定可能である。そこで, これらの耐性機構を考慮して, 今日のβ-Lactam剤の研究開発はその母核や側鎖の改良や炉Lactamase inhibitorの検討が主として指向されている。
    Imipenem (MK-0787) は米国Morck社のMerck Institute for Therapeutic Researchで開発され, 1976年J. S. KAHAN等により報告されたFused β-Lactam環を有するβ-Lactam剤の新しいCategoryに属するCarbapenem系のThienamycinのN-Formimidoyl誘導体である1~3)(Fig. 1)。本剤はβ-Lactamase inhibitorであるためPenicillinase (PCase) 型やCephalosporinase (CEPase) 型のβ-Lactamaseに阻害的に作用するのは無論であるが, Sulbactamとは異なり, 抗菌SpectrumもGram陽性菌, Gram陰性菌, 嫌気性菌と広範囲で, 平均して強い抗菌活性を有すると報告されている4~6)。しかし, MK-0787単独ではDehydropeptidase-Iで水解不活化され尿中回収率が低値を示す点や, 動物実験で腎毒性を示すなど臨床応用に際して不適当な要因が認められた7, 8)。こうした点を軽減あるいは解消する目的で種々の薬剤との配合が検討されたが, Cilastatin sodium (MK-0791) との配合が適当と考えられた2, 9)(Fig. 2)。MK-0791は構造的にMK-0787と同様にAmide結合を有し, 抗菌力はないがDehydropeptidase-Iを選択的に, 可逆的に阻害する作用が認められた。又, MK-0787/MK-0791の配合比についても検討されたが, 尿中回収率の増加や腎毒性の軽減効果から1: 1の配合比が適当とされた9)。
    今回, 著者らは日本メルク萬有 (株) からMK-0787/MK40791の提供を受け, 基礎的には末梢血, 子宮動脈血, 子宮組織及び子宮附属器組織への経時的濃度移行性について検索すると共に, 臨床的には産婦人科領域感染症例に投与し, 有効性並びに安全性について検討したので, その成績について報告する。
  • 林 保良, 中村 英世, 林 茂
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1555-1564
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    米国メルク社で開発されたImipenem (MK-0787) は新規のカルバペネム系抗生物質であり, 図1のような構造式を持つている。本剤はグラム陽性, グラム陰性の広範囲の菌種に対し強い抗菌力を示す。特にPseudomonas aeruginosa, Serratia, Enterobacter, Enterococcusなどの菌に対し強い抗菌力を有する1)。β-ラクタマーゼに対する高度の安定性2) と同時にβ-ラクタマーゼ阻害活性を有する優れた抗生物質である3)。
    一方, 新たに開発されたMK-0787の腎内代謝に関与するRenal dipeptidaseに対して選択的阻害作用を有するcilastatin sodium (MK-0791) を本剤と併用することにより, MK-0787の尿中回収率を改善し, 更にMK-0787の腎毒性をも軽減できる事実が確認された4)。
    MK-0787とMK-0791の合剤は国内外ですでに基礎的, 臨床的検討が多数行われ, 有効性及び安全性共に良好な結果を得ている5~7)。今回, MK-0787/MK-0791の婦人科領域における基礎的及び臨床的検討を行う機会を得たのでここに報告する。
  • 伊藤 邦彦, 伊藤 俊哉, 松波 和寿, 高田 恭宏, 早崎 源基, 野田 克已
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1565-1582
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は米国メルク社によりStreptomyces cattleyaから得られた, 第3のβ-Lactam系抗生物質とも称すべきThienamycinのN-Formimidoyl誘導体 (Fig. 1) であり, 次のような5つの特性を有する。1. グラム陽性菌, グラム陰性菌の広範囲の菌種に対し強い抗菌力を示す。2. 各種β-Lactamaseに安定で且つ阻害活性を有する。3. 強い殺菌作用を示す。4. 腎尿細管上皮のRenal dipeptidaseで分解されるため尿中回収率が低い。5. 動物実験では弱い腎毒性を示す。
    Cilastatin sodium (MK-0791)(Fig. 2) は同じくメルク社によつて開発され, 次のような3つの特性を有する。1. 抗菌活性はない。2. Renal dipeptidaseを選択的, 可逆的に阻害しMK-0787の分解を抑える。3. MK-0787の腎毒性を防御する。なお, MK-0791自身, 低毒性である。
    最近, MK-0787及びMK-0791を1:1で配合した薬剤が製剤化された。この配合剤の特長は, MK-0787の強い抗菌力を温存しつつ分解が抑えられるため, 高い尿中回収率が得られ, 且つ腎毒性が軽減するという都合のよいものである1)。
    以前われわれは, 本剤についての基礎的検討及び臨床的検討を行い, 有用な薬剤との結論を得た2)が, その後, 症例数も増加したため, 基礎的検討においては以前のデータに今回のデータを加えて, Compartment modelによる解析を行い, 臨床的検討では新たに9症例を報告する。
  • 山元 貴雄, 保田 仁介, 冨岡 恵, 金尾 昌明, 岡田 弘二
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1583-1594
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem/Cilastatin sodium (MK-0787/MK-079五) は米国メルク社で開発された新しいカルバペネム系抗生剤である。
    本剤の基礎的並びに内科, 外科領域における臨床成績は1984年12月の日本化学療法学会西日本支部総会新薬シンポジウム1) において報告されている。報告によると本剤はグラム陽性菌及びグラム陰性菌に対し広範な抗菌スペクトラムを有し, 又, Bacteroides fragilisを始めとする各種の嫌気性菌に対してもClindamycinより優れた抗菌力を示す。更に各種細菌由来のβ-Lactamaseに対しても極めて安定であると同時にβ-Lactamase阻害活性をも有する。
    臨床的検討においても各科感染症に対する本剤の有用性が認められており, 我々もその成績を報告した2)。
    今回, 我々は産婦人科領域における本剤の追加検討を行う機会を得たので報告する。
  • 舘野 政也
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1595-1600
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    産婦人科領域における内性器感染症や骨盤内感染症に関しては特別な場合を除き, その臓器の位置的な関係から起炎菌の証明が困難な場合が多く, 従つて抗菌性のある抗生物質の選択にあたつて迷う場合がしばしばで, これら感染症の治療にあたつては広範囲抗菌スペクトラムの抗生物質の使用を余儀なくさせられる。今回, 我々はグラム陽性, 陰性菌に対し広範囲な抗菌性を有し, 特にPseudomonas aeruginosa, Enterococcus faecalisに対して強い抗菌性があり, 更にBacteroides fragilisを含む各種の嫌気性菌に対しても強い抗菌性を示し, β-Lactamaseにも安定であるとされるImipenem (MK-0787) と, 抗菌性はないが, 尿中へのMK-0787の回収率を高め, 更に腎毒性を軽減するとされるCilastatin sodium (MK-0791) の合剤という特殊な抗生物質の提供を鳥居薬品株式会社から受けたので, 若干例ではあるが産婦人科感染症に応用する機会を得たので以下これらの成績について報告する。
    使用した薬剤の化学構造式は図1のとおりであり1, 2), 分子量はそれぞれ317.37及び380.44である。
    MK-0787はStreptomyces cattleyaによつて産生されたThienamycinのN-Formimidoyl誘導体でカルバペネム系抗生物質である。又, MK-0791はRenal dipeptidase阻害活性を有する化合物である。
    本剤の薬理学的特徴は表1のとおりであり, 広範囲抗菌性を有し, グラム陽性, 陰性菌を問わず, 嫌気性菌にも有効で, β-Lactamaseにも安定であり, Renal dipeptidaseを選択的に阻害してMK-0787の分解を抑え, その抗菌力を発揮させ, しかもその腎毒性をも軽減させる効果がある薬剤を配合してあるという極めて理想的な特徴を有している。
  • 堀井 高久, 野田 起一郎
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1601-1606
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は米国メルク社において新しく開発されたカルパペネム系抗生物質で, 細菌の産生するβ-ラクタマーゼに対しては安定性を示すが, 体内の主に腎においてDehydropeptidase-Iにより水解され不活化される。体内での安定化をはかるため, この酵素の特異的阻害剤としてCilastatin sodium (MK-0791) が同じくメルク社により開発された。両剤の化学構造式をFig. 1に示す1, 2)。
    今回われわれは, MK-0787及びMK-0791を等量に配合した合剤MK-0787lMK-0791の女性性器組織内, 静脈血及び骨盤死腔液中の濃度を測定し基礎的検討を行うと共に, 産婦人科領域感染症5例に本剤を投与し臨床的検討を行つたのでその結果を報告する。又, MK-0787単剤についても同様の濃度測定を行い, 合剤との比較検討を行つた。
  • 藤本 宣, 池田 景子, 山本 和喜, 田口 星, 白川 光一
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1607-1611
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imiponem (MK-0787) 1, 2) はStreptomyces cattleyaで産生されたThienamycinのN-Formimidoyl誘導体で, 化学的に全合成されたカルパペネム系の抗生物質である。その構造式はFig. 1-1に示すとおりである。
    Cilastatin sodium (MK-0791) 1, 2) は2-Benzamidocrotonateを原型とし, Fig. 1-2に示すとおりの構造を有し, MK-0787の分解酵素Renal dipeptidaseの作用を選択的, 可逆的に阻害し, MK-0787の尿中回収率を高め, 腎毒性を軽減して安全性を高める作用を有する化合物である。
    今回, われわれは本剤投与後の血中濃度, 子宮を主体とする内性器の組織内濃度を測定し, 検討を加えると共に, 産婦人科領域の感染症に対する臨床的検討を行う機会を得たので, その成績を報告する。
  • 畑瀬 哲郎, 河野 勝一, 深川 良二, 平井 ひろみ, 大蔵 尚文, 赤木 隆博, 綱脇 現, 加藤 俊
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1612-1619
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    産婦人科感染症に対する抗生剤の開発はより安全性の高く, 抗菌力の増強, 抗菌スペクトルの拡大をめざしてβ-Lactam剤, β-Lactamase阻害剤などの開発が進んでいる1)。Imipenem/Cilastatin sodium (MK-0787lMK-0791) は米国メルク社において開発された新しい抗生物質であり, カルバペネム系抗生物質であるMK-0787と腎におけるDehydropeptidase-Iの選択的阻害剤であるMK-0791を1: 1に配合している。Fig. 1にその構造式を示す2)。MK-0787はStreptomyces cattleyaから得られたβ-Lactamaseに対し安定なThienamycinのN-Formimidoyl誘導体であり, グラム陽性, グラム陰性の広範囲の菌種に対し強い抗菌力を有し, 更に近年問題となつてきているBacteroides fragilisなどの嫌気性菌に対しても優れた抗菌力を有すると言われている3, 4)。MK-0791はこのMK-0787の分解酵素であるRenal dipeptidase阻害剤でありMK-0787との1: 1の配合において血中における安定性とその腎毒性をも軽減するとされている。今回, 本剤の産婦人科領域における体内移行性及び臨床的有効性, 安全性を検討したので報告する。
  • 高村 慎一, 秦 知紀, 熊谷 淳二, 山辺 徹
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1620-1625
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem (MK-0787) は米国メルク社研究所において開発された物質で, Streptomyces cattleyaから得られるThienamycinのN-Formimidoyl誘導体でβ-ラクタム環を有し, Fig. 1のような構造式で示される。細菌のβ-ラクタマーゼに対しては安定であるが, 体内において主として腎においてDehydropeptidase-I (Renal dipeptidase) により水解不活化される。動物への投与試験においては, 常用量では影響は認められないが, 多量投与の場合, 腎尿細管の壊死が生じ, 腎毒性が問題となることがある。しかしMK-0787の腎毒性はCephaloridineより弱く単剤としても充分に使用できる程度のものである。
    Cilastatin sodium (MK-0791) は同じく米国メルク社において開発され, Fig. 2の構造式を有する。本剤はDehydropeptidase-Iの特異的阻害作用を有し, 又OMK-0787の腎毒性を軽減する。これら2剤を配合剤として便用した結果, 1. 両剤を1: 1に配合した揚合, MK-0787の尿中回収率が最高に達し, 動物への多量投与においても腎毒性 (Tubular necrosis) が消失した。2. MK-0791自体は低毒性でありDehydropeptidase-Iを選択的, 可逆的に阻害し, MK-0787の抗菌活性に全く影響を与えなかつた。3. Dehydropeptidase-I阻害による生理的影響にも問題がなかつた。MK-0787はグラム陽性菌及び陰性菌, 又, 好気性菌及び嫌気性菌にかかわらず, 幅広く現存する薬剤と同等以上の優れた抗菌力を有する1-3)。MK-0791との1: 1の配合剤の場合, MK-0787の血中の半減期は, 約1時間であり投与後6時間以内で約70%が尿中に排出され, 胆汁, 喀痰中にも移行する。一方, MK-0791の半減期はMK-0787同様約1時間であり, 投与後6時間以内に約60%が尿中に排出される。
    MK-0787/MK-0791の基礎的検討及び臨床成績は主として内科, 泌尿器科を中心として, すでに昭和59年12月14日, 第32回日本化学療法学会西日本支部総会の新薬シンポジウムで報告されている4)。今回我々はMK-0787/MK-0791の提供を受け, その産婦人科領域における有用性を検討する目的で, 薬剤の内性器への移行を測定し, 又, 実際の臨床例について投与を行つたので, その結果を報告する。
  • 松田 静治, 鈴木 正明, 長谷川 幸生, 二宮 敬宇, 清水 哲也, 前田 康子, 一戸 喜兵衛, 牧野田 知, 佐藤 博, 佐藤 春美, ...
    1986 年 39 巻 6 号 p. 1626-1655
    発行日: 1986/06/25
    公開日: 2013/05/17
    ジャーナル フリー
    Imipenem/Cilastatin sodium (MK-0787/MK-0791) は, 米国メルク社研究所において新しく開発されたカルバペネム系抗生物質であるMK-0787と, Renal dipeptidaseの選択的阻害作用を有するMK-0791との1: 1の配合剤である1)。
    MK-0787はFig. 1に示す構造式を持ち, 各種β-ラクタマーゼに対して極めて安定で2), グラム陽性菌からPseudomonas aeruginosaを含むグラム陰性菌, 更に嫌気性菌に至る幅広い抗菌スペクトルを有している3)。しかし, MK-0787は腎に存在するRenal dipeptidaseにより分解を受け, 尿中の回収率は著しく低い。MK-0791はそのRenal dipeptidaseを阻害するために開発された1)(Fig.2)。
    本剤の基礎的検討並びに臨床的検討については, すでに内科, 泌尿器科, 外科等各科領域で報告されているが, 産婦人科領域での検討は未だ少数例にすぎない4~11)。
    今回, われわれはMK-0787/MK-0791の産婦人科領域感染症に対する有用性を検討する目的で, 全国規模の研究会を組織し, 28施設において, 産婦人科領域感染症患者分離菌に対する抗菌力, 及び性器組織への移行性などの基礎的検討を行うと共に, 25施設において, 産婦人科領域感染症に対する臨床試験を行つたので, その成績を報告する。
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