新しく開発されたTazobactam/Piperacillin (TAZ/PIPC, YP-14) の小児科領域各種感染症に対する基礎的・臨床的検討を目的として研究会を組織し, 全国17基幹施設とその関連施設による共同研究を行い, 以下の成績を得た。なお, 患児はその親権者よりすべてInformedconsentを得てある。
1. 血中濃度, 尿中排泄
TAZ/PIPCの小児での体内動態を25mg/kg及び50mg/kgを静注または点滴静注し検討した。静注ではTAZ及びPIPCの最高血中濃度 (C
max) は共に投与終了後最初に測定を行った5分後にみられ, TAZは25mg/kg投与で26.9μg/ml, 50mg/kg投与で45.1μg/ml, PIPCはそれぞれ131.0μg/ml, 199.6μg/mlを示した。また, 血中濃度下面積 (AUC) についてはTAZが25mg/kg投与で14.2μg・hr/ml, 50mg/kg投与で26.1μg・hr/ml, PIPCがそれぞれ64.0μg・hr/ml, 112.8μg・hr/mlとなり, TAZ, PIPC共, 用量依存性を認めた。PIPCの活性代謝物であるDesethyl piperacillin (DEt-PIPC) は25mg/kg及び50mg/kg共に投与終了60分後にCmaxに達しそれぞれ1.2μg/ml, 2.0μg/mlであり, AUCはそれぞれ2.6μg・hr/ml, 4.2μg・hr/mlであった。
血中半減期 (T1/2) はTAZがそれぞれ0.60時間, 0.54時間, PIPCがそれぞれ0.62時間, 0.65時間であった。
累積尿中回収率は, 静注開始後6時間までにTAZがそれぞれ46.7%, 56.0%, PIPCがそれぞれ46.1%, 57.2%, DEt-PIPCがそれぞれ5.9%, 3.0%であった。
点滴静注ではTAZとPIPCのC
maxは共に投与終了直後にみられ, TAZは25mg/kg投与で12.1μg/ml, 50mg/kg投与で28.9μg/ml, PIPCはそれぞれ54.6μg/ml, 137.9μg/mlを示した。また, AUCについてはTAZが25mg/kg投与で11.6μg・hr/ml, 50mg/kg投与で25.6μg・hr/ml, PIPCがそれぞれ49.0μg・hr/ml, 117.2μg・hr/mlとなり, TAZ, PIPC共, 用量依存性を認めた。PIPCの活性代謝物であるDEt-PIPCは25mg/kg及び50mg/kg共に投与終了60分後にC
maxに達し, それぞれ0.9μg/ml, 1.7μg/mlであり, AUCはそれぞれ2.0μg・hr/ml, 3.8μg・hr/mlであった。
T1/2はTAZがそれぞれ0.59時間, 0.62時間, PIPCがそれぞれ0.58時間, 0.57時間であった。
累積尿中回収率は, 点滴静注開始後6時間までにTAZがそれぞれ43.3%, 56.9%, PIPCがそれぞれ39.9%, 56.4%, DEt-PIPCがそれぞれ2.1%, 2.3%であった。
化膿性髄膜炎患児における髄液中濃度は, 1回投与量が70mg/kg~108mg/kgの範囲で1病日から15病日の投与後2時間~4時間に採取し, TAZが0.26~3.88μg/ml, PIPCは0.29~3.89μg/mlであった。
2. 臨床成績
総症例332例から除外・脱落例32例を除いた300例を有効性解析対象例として検討した。ただし, 2疾患合併した2例については各疾患毎に重複集計し, 有効性延べ解析対象症例としては300例に2例を加えた302例で解析した。
起炎菌検出例 (A群) の臨床効果は178例中177例が有効以上となり, 有効率は99.4%であった。起炎菌非検出例 (B群) 124例では117例が有効以上で有効率は94.4%であった。
起炎菌別臨床効果は, β-ラクタマーゼ産生菌分離症例のうち単独菌感染では58例中57例が有効以上で98.3%, 複数菌感染では14例全例が有効以上であった。β-ラクタマーゼ産生菌分離症例全体での有効率は98.6% (71/72) であった。
A群での1日投与量は>60~150mg/kgで全体の74.7% (133/178) を占め, その有効率は99.2%であった。
細菌学的効果はグラム陽性菌63株中58株 (92.1%), グラム陰性菌131株中126株 (96.2%) が消失した。起炎菌全体に対する消失率は94.9%であった。その内, β-ラクタマーゼ産生菌株ではグラム陽性菌12株中9株 (75.0%), グラム陰性菌61株中57株 (93.4%) が消失した。β-ラクタマーゼ産生菌株全体に対する消失率は90.4%であった。
3日以上先行投与された他抗菌剤に全く反応を示さなかった無効例に対する本剤の有効率は100% (46/46) で, 内β-ラクタマーゼ産生菌分離症例の有効率は100% (22/22) であった。細菌学的効果はグラム陽性菌に対し84.6% (11/13), グラム陰性菌に対し91.4% (32/35) の消失率を示した。内β-ラクタマーゼ産生菌に対しては, グラム陽性菌に対し66.7% (2/3), グラム陰性菌に対し895% (17/19), 全体では86.4% (19/22) の消失率を示した。
3. 副作用・臨床検査値異常
副作用の検討は総症例から8例を除いた324例で行った。副作用は28例 (8.6%) に認められ, 下痢が主で, 発疹, 発熱, 下痢・腹痛, 悪心・背部異常感, 意識レベルの低下であった。臨床検査値異常の検討は総症例から14例を除いた318例で行い, 臨床検査値異常は42例にみられ, 血小板数上昇, 好酸球増多, トランスアミナーゼ上昇が主であった。副作用, 臨床検査値異常とも特に重篤なものはなく, 本剤の投与中止または投与終了後, 消失もしくは正常に復した。
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