1984年及び1985年の外科感染症由来の分離菌について, 全国6大学病院による共同研究を行い, 以下の成績を得た。
1. 対象患者総数は1984年172例, 1985年211例で, このうち細菌が検出された症例数はそれぞれ147例及び174例であり, 細菌検出率は両年とも80%以上であつた。
2. 分離された総菌株数は1984年267株, 1985年293株で, 材料別では両年とも腹腔内滲出液が最も多かつた。
3. 一次感染由来の分離菌は両年度とも大腸菌が15~21%と最も多く, ついでバクテロイデス, ブドウ球菌の順である。
一方, 術後感染症由来の分離菌としては腸球菌が増加して16~22%と最も多く, ついで緑膿菌が占めるが, 大腸菌と嫌気性菌は減少し, 分離菌種の多様化と, 分離頻度の均等化, 平均化の傾向が認められる。
4. 術式別の術後感染症分離菌としては, 無菌手術ではブドウ球菌, 準無菌手術では腸球菌と緑膿菌が上位を占めている。汚染手術では腸球菌>大腸菌>クレブシエラ=緑膿菌=バクテロイデスの順で多く分離されている (1985年)。
5. 宿主抵抗性減弱因子のない症例における分離菌は大腸菌, バクテロイデスなどが上位であるのに対して, 減弱因子を持つ場合は術後感染症由来菌の場合と同様に, グラム陰性桿菌の増加による分離菌種の多様化と, 分離頻度の均等化の傾向が認められた。
6. 抗生剤投与の前後で層別した場合の分離菌は, 投与前では大腸菌, ブドウ球菌, バクテロイデス, クレブシエラなどが上位を占めたが, 投与後では腸球菌が最も多く, 1985年ではついで緑膿菌が第2位を占めており, 最近のセフェム系抗生物質の繁用結果であると考えられる。
7. 1982~1985年の4年間のグラム陽性菌及びグラム陰性菌及び嫌気性菌の分離頻度については, グラム陽性菌には著変はみられず, グラム陰性菌の減少傾向と嫌気性菌の増加傾向がうかがわれた。
8. 黄色ブドウ球菌, 腸球菌, 大腸菌, 肺炎桿菌, 緑膿菌及び
Bacteroides fragilis groupの6菌種の, 主要抗生剤に対する感受性の変化を1982年から1985年までの4年間について検討した。緑膿菌以外の5菌種ではMIC
80の変動は小幅で, 明らかな耐性化傾向は認められなかつた。緑膿菌ではAmikacinを除くと年度によるMIC
80の変動が大きく, 今後注意を要するとみなされた。
なお, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) については検討中であるが, Cefazolin及び Gentamicinに対する感受性の動向から, 十分な注意が必要と考えられた。
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