条虫は, かつては比較的駆除し難い人体寄生虫の1つで, 綿馬エキス, またはその有効成分のフィルマロン, ザクロ根皮などが用いられたが, その効果は不確実なばあいもすくなくなく, 副作用もかなりの頻度にみられるといわれている。
その後, アテブリン (Quinacrine hydrochloride) が本症にきわめて有効なことが知られ, 広く用いられるようになり, われわれも本剤同様の抗マラリア剤であるCamoquinによる治験をも経験した。アテブリン系薬剤は, かなり有効な薬剤であるが, 年少者に用いたばあいに, やや副作用が多いといわれている。また, 吸虫の治療剤として使用されているビチオノール系薬剤も, 本症に有効で, とくにその誘導体であるニクロスアミド (Niclosamide: Yomesan) は, 駆虫率がきわめて高いという。しかし, 本剤による駆虫のさいは, 虫体が変性されて排出されるので, 完全駆虫の早期判定には困難を感ずることもあり, また副作用の点からも, なお問題が残されているという。
1959~1960, エチオピアのWAGNER1) 等は, アメーバ症治療にパロモマイシンを用いると, 同時に寄生していた条虫が排出されることを経験した。, ついで, イタリヤのULIVELLLI2)(1963) は, 本剤による条虫駆除の有効性について記載し, 本治療法の有効性についての報告3) がつぎつぎとみられるようになり, 1967のParke Davis4) 社の集計では, 388例中339例, 87%,駆虫に成功し, またその効果は1回服用と5日間服用で差がみられなかったという。また, そのさいの副作用は, 軽微なものが一過性にみられただけであるという。
著者5) は, さきにParomomycin (Humatin“Parke Davis”) による条虫駆除の1例を経験し, その作用機序として, 本剤は人腸管から吸収され難い一方, 条虫体によく吸収され, なにか抗神経様作用を呈するのが本剤の作用点であろうとした。ついで, 大鶴ら6) は, 18例の広節裂頭条虫症について全例に駆虫が成功したと報告した。これらの報告に使用されているParomomycin製剤は, すべてHumatin (Park Davis) に限られていた。
一方, 同一Aminoglycoside系抗生剤Paromnomycin群には, 現在わが国でも入手しやすい製剤としてAminosidine7)(協和醗酵工業 (株)) がある。本剤は, 1959, イタリアFalmitalia Laboratoryで, Humatin産生菌とは異なる
Streptomyces crestomyceticus培養液から抽出されたAminoglycoside剤で, Paromomycin群に含まれるといわれているが, 生物活性を含めて, Humatinに完全に一致するかは多少問題が残されているようである。本剤は, 抗緑膿菌, 抗変形菌を含めて広い抗菌スペクトラムをもち, 臨床的には, おもに内服2一部筋注で投与されている。本剤のマウスに対する急性毒性LD
50は, 静注で106mg/kg, 皮下1,062mg/kg, 慢性毒性としては, 大量を長期に使用したばあいには, 他のAminoglycoside剤と同様, 腎および聴器, 前庭機能を主とする神経毒性が発現するという。
われわれは, 最近, 広節裂頭条虫症の1例に, Aminosidineを使用し, 容易に完全駆虫の目的を達することができたので報告し, 前回同様, その作用機序についても観察したので報告する。
抄録全体を表示