Neocarzinostatin (NCS) は,
Streptomyces carzinostaticus var. F-41の培養瀘液から分離精製された制癌性抗生物質である1)。多数の臨床報告によれば, 胃癌, 膵癌, 膀胱癌, 急性白血病に対して優れた治療効果を示しており2), 現在頭頸部癌3), 肝癌4), に対する臨床応用も試みられている。
しかしながら, NCSを臨床使用した際には, 白血球減少, 血小板減少, 発熱, 悪心・嘔吐, 食欲不振などの副作用の発現が報告されており5, 6), このことは多くの制癌剤と同様癌細胞に対してだけ選択的に作用することなく, 正常細胞にも障害を及ぼすためであると考える。これらの副作用が重篤な場合には投与を中止せざるを得なく, 十分な治療効果が期待できないこともあり得るので, 副作用を防止し抗腫瘍効果を発揮させるために種々の投与方法の検討が行われている7~12)。松本ら13)は膀胱癌に対しNCSを内腸骨動脈内に注入し, 石原ら14)は皮膚癌に対しNCSを腫瘍内に局注することによつて, 全身性の副作用の発現なしに有効な治療を行つている。
一方, 馬場, 西川15)及び魚住ら16)はラット転移性腫瘍に対し, 薬物を肝動脈内に注入し, その拮抗剤を全身投与する2経路注入化学療法によつて, 副作用の発現を抑え抗腫瘍効果増強を認めている。すなわち, ラット肝転移性腫瘍に対しNitrogen mustard
N-oxideを肝動脈から局所的に投入し, 大腿静脈から拮抗剤L-Cysteine monohydrochloride monohydrateを全身的に投与することによつて副作用の発現なしに抗腫瘍効果を得ている。更にその後, 馬場らは制癌剤
cis-Platinumに対しSodium thiosulfateが非常によい拮抗剤であることを研究し, ラットの癌性腹膜炎17)及びラットの膀胱腫瘍18)に対して優れた治療効果を見出している。この2経路注入化学療法は現在, 臨床的にも末期癌性腹膜炎, 肝癌等で成果が認められており, この方法の価値が高く評価されてきた19)。
このように, 薬物を局所適用する方法も副作用の発現を防止する有力な1つの方法であると考えられる。そこで今回, われわれはNCSを腫瘍組織に対し局所適用する際に, 腫瘍組織外に漏出したNCSを不活化することにより正常組織に対する毒性を抑制し副作用を防止することを目的として,
in vitro及び
in vivoにおいてNCSの毒性を軽減させる薬物の検討を行つたのでその成績を報告する。
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