新しく開発されたセファロスポリン系抗生物質
Cefpirome sulfateの小児科領域における基礎的, 臨床的検討を目的とし研究会を組織し, 全国19基幹施設とその関連施設による共同研究を実施し, 以下の成績を得た。
1.抗菌力
本臨床試験から分離され起炎菌と判定された菌のうち, グラム陽性菌71株, グラム陰性菌110株についてMICを測定した結果MRSAを含む
Staphylococcus aureusを初あとするグラム陽性菌に対してCeftazidimeに比較し2~16倍の優れた抗菌力を示した。グラム陰性菌では
Branhamell acatarrhalisにおいてはMICはやや幅広く分布していたが,
Escherichia coli,
Haemophilus influenzaeではそれぞれ0.10, O20μg/ml以下で全株発育が阻止された
.血漿中濃度及び尿中排泄率
小児での体内動態は1回量20mg/kgを主として静注並びに30分, 60分点滴静注で検討した。10, 20, 40mg/kg静注15分後の平均血漿中濃度はそれぞれ, 51.2, 70.5, 123.5μg/ml値で, 半減期はそれぞれ1.21, 1.39, 1.53時間であった。投与後6時間までの尿中排泄率は63.6, 66.0, 71.6%であった。同一用量を30分あるいは60分点滴静注後も同様に用量依存的な血中動態を示した。
3.髄液中濃度
髄液への移行は, 1回投与量39~79mg/kgを静注投与後45~60分で1.85~24.2μg/mlの濃度を示し, 他のセファロスポリン系抗生物質に比べ中等度の移行性を示した。
4.臨床成績
各種細菌感染症に対する本剤の効果判定解析症例は総症例499例から除外例を除いた454例で, 1患児に複数の疾患を合併する3例を加え457例で行った。
臨床効果は457例中, 有効以上が430例 (94.1%) で, 起炎菌の判明した群は255例で, 有効以上243例 (95.3%), 起炎菌が検出されなかった群は202例で, 有効以上187例92.6%と高い有効率を示した。
起炎菌別臨床効果はS. aureusを含むグラム陽性菌感染症では有効率95.0%とグラム陰性菌の95.7%と同様高い有効率を示し, 複数菌感染症においても94.4%の有効率が認められた。
起炎菌別細菌学的効果は起炎菌と判定された延べ276株中266株が消失し, 消失率は96.4%であった。グラム陽性菌ではS. aureusは89.5% (38株中34株),
Streptococcus pneumoniaeは97.4% (38株中37株),
Streptococcus pyogenesは100% (15株中15株) と高い消失率を示し, グラム陽性菌全体では95.1%の消失率を示した
グラム陰性菌では
H. influenzaeは96.6% (88株中85株),
B. catarrhalis (12株中12株),
E.coli (43株中43株),
Klebsiella pneumoniae (5株中5株) はいずれも100%の消失率を示し,
Pseudomonas aeruginosaにおいても3株いずれも消失した。
他剤無効例に対するCPRの臨床効果は135例中有効以上が126例で93.3%の高い有効率を示した。
.副作用及び臨床検査成績
安全性に対する検討は総投与例499例から併用薬違反, 投与日数不正等の7例を除いた492例について検討した。
発現した副作用の症状は下痢, 軟便, 発疹など計20症例, 23件に認あられ, 主な症状は消化器症状であった。
臨床検査値異常はGOT, GPT, 総ビリルビン, クレアチニン上昇, 血小板, 好酸球増多及び白血球, 血小板減少が101症例 (20.5%), 142件に観察され, その中ではトランスアミナーゼの異常変動がやや多かった。
副作用, 臨床検査値異常は, いずれも投与中止後又は投与継続中に正常化し, 重篤なものはなかった。
以上の成績から, 本剤は小児科領域の適応感染症に有効な薬剤であると考えられる。
剤の標準的な用法・用量については, 体内動態の検討成績及び臨床成績から1回20mg/kgを1日3~4回静注又は点滴静注で十分な治療効果を期待できる。更に, 軽症例においては1回10mg/kg1日3~4回投与でも臨床効果が得られることが期待できるものと考えられた。なお, 症状によつては倍量まで増量するが成人用量を越えないものとした。
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