新規注射用セフェム系抗生物質塩酸セフェピム (以後, CFPMと略) の安全性評価の一環として, 雌雄Crj: CD (SD) ラットを用いて150,500, 1,500mg/kg/日の3用量で1ヵ月間反復皮ド投与毒性試験を実施した。同時に生理食塩液及びCFPM製剤中にpH調整剤として含まれているL-アルギニンの投与群 (以下, 生理食塩液対照群, 溶媒対照群と略) を設定し, 比較・検討した。投与に際しては, 1日投与量の半量を約5時間間隔で1日2回投与した。又, 生理食塩液対照群と1,500mg/kg/日群には休薬群を設け, 投与期間終了後の回復性を検討した。結果と結論は以-ドのとおりである。
1. 投与・観察期間中にいずれの投与群でも死亡例はなく, 500mg/kg群の雌及び1,500mg/kg群の雌雄で脱毛, 痂皮形成が投与部位に認められたが, これ以外に一般状態に変化はみられなかった。
2. 投与期間後期に, 1,500mg/kg群の雄で軽度な体重増加の抑制が認められた。
3. 投与1週目に, 500mg/kg及び1,500mg/kg群の雄で摂餌量の軽度な減少がみられた。
4. 投与期間巾, 主として1,500mg/kg群の雌雄で飲水量の軽度な増加がみられた。
5. 血液学的検査においては, 1,500mg/kg群の雄でリンパ球百分率の軽度な減少及び分節核球百分率の軽度な増加がみられたが, いずれも投与部位の炎症性変化と関連するものと判断された。
6. 血液化学的検査においては, 1,500mg/kg群の雌雄でGOT及びGPTの軽度な上昇が, 150,500mg/kg及び/又は1,500mg/kg群の雄で総蛋白, アルブミン, トリグリセリドの軽度な低ドがみられた。このうち総蛋白, アルブミンの低ドは投与部位の変化と関連するものと判断された。
7. 尿検査においては, 溶媒対照群及び1,500mg/kg群で低pH値を示す動物の出現頻度が高かった。
8. 投与期間終了時剖検において, 500mg/kg及び1,500mg/kg群の雌雄で投与部位に皮下出血を呈する動物の出現頻度が高かった。1,500mg/kg群の雌でみられた盲腸の肥大は抗生物質の腸内細菌叢に対する影響に基づく変化と考えられた。
9. 投与期間終了時剖検において, 1,500mg/kg群の雌雄で腎臓の絶対及び/又は相対重量の軽度な増加がみられ, 1,500mg/kg群の雄で肝臓の絶対及び相対重量の軽度な減少がみられた。
10. 病理組織学的検査において, 500mg/kg及び/又は1,500mg/kg群の雌雄で投与部位に観察された出血, 細胞浸潤, 痂皮形成, 線維化及び表皮の肥厚等の炎症性変化は本薬投与に起因するものと考えられた。但し, 同様の所見は溶媒対照群の雄にもみられた。又, 500mg/kg及び1,500mg/kg群の雌数例で, 盲腸の拡張が観察され, 本薬投与に起因する所見と考えられた。
11. 亀顕的病理組織学的検査において, 1,500mg/kg群の肝臓, 腎臓で本薬投与に起因すると思われる異常所見はなかった。
12. 上述の本薬投与に起因すると思われた異常所見は休薬期間終了時には正常範囲内に回復し, 可逆的変化と考えられた。
以上のように, 体重増加抑制が1,500mg/kg群の雄で, GOT及びGPTの軽度な上昇が1,500mg/kg群の雌雄でみられたため, ラットにCFPMを1ヵ月間反復皮下投与した場合の無影響量は, 投与部位での局所刺激性変化を除外して, 500mg/kg/日と推定された。
塩酸セフェピムはブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社研究所において創製された新規な注射用セフェム系抗生物質であり, 7位側鎖にα-Methoxyimino-aminothiazole基が導入され, 3位のN-Methylpyrrolidinium基と2位のCarboxy1基との間で分子内塩をつくるベタイン構造により特にグラム陰性桿菌に対する抗菌活性が増強され, 又, マウスを用いた感染治療実験においてもその効果が確認されている量)。
今回, 本薬の安全性評価の一環として, ラットを用いて1カ月間の反復皮下投与による毒性を検討したので, その結果について報告する。
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