近年, 外科領域における, 手術手技, 麻酔, 術前術後の管理などの長足な進歩にともない, 外科手術の対象範囲が拡大された。それにともなつて, 感染に対する防禦能力の低下した患者に対しても, 手術するばあい, も多くなり, その感染症の病態も, ますます複雑多岐となつている。
外科領域における感染症の起炎菌としては, グラム陽性菌からグラム陰性桿菌に変わつているのが一般的傾向であり1~5), それらのうちでも, いわゆる弱毒菌とされているPseudomonas, Klebsiella,Serratiaなどの分離頻度が増加している。
これらの起炎菌に対して, 治療効果を期待しうる抗生剤としては, やはり, Gentamicin (GM), Tobramycin (TOB), Dibekacin (DKB), Amikacin (AMK) などアミノ配糖体系抗生物質が中心になると思われる1)。
一方, 各種抗生剤は, その薬理学的性格が異なるために, その薬剤の生体内動態も異なることはい, うまでもない。そしてその解明のために, 抗生剤の細菌に対する作用機序, 抗菌スペクトラムおよび抗菌力についての検討とともに, 抗生剤の各種体液中濃度を測定することは, 重要である。
従来, 抗生剤の菌に対する感受性と血中濃度の関係からその抗生剤の臨床面での有効性を判定しようとする傾向がみられていた。しかし, この考え方の前提には, 血中濃度と同じ濃度レベルが生体内の各組織内に維持されているという仮定がなくてはならないが, この仮定は, すべての抗生剤に必ずしもあてはまらず, 血中濃度と組織内濃度の関係は必ずしも一様ではない。
組織そのものは, 細胞, 血液, リンパ液および問質液から構成されるものである以上, これらの各構成成分における抗生剤の移行濃度の検討は, 抗生剤の治療を考えるうえで, 重要な役割をはたすものと考えられる。
著者は, 外科領域において使用頻度の高いアミノ配糖体系抗生剤のうち, Tobramycin, DibekacinおよびAmnkacinの3剤について, 比較的組織内濃度を反映すると思われるリンパ液中抗生剤移行濃度を, 雑種成犬を用いて, 経時的に測定することを企てた。また, 体液中移行の面において, 今日まで報告の比較的少ない膵液中への移行についても, 雑種成犬を用いて主膵管に直接カニュレーションすることによつて, 膵液中移行濃度の経時的測定をおこない, 一連の成績を得ることができたので報告する。
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