脳神経外科手術後の重篤な合併症である頭蓋内感染症の予防および治療を目的として, 比較的大量の抗生物質の全身投与がおこなわれているのが現状であろう.
今日まで, 種々の抗生物質の脳および髄液移行について多数の報告がなされているが, 従来の報告の大部分は2, 3, 6, 7, 13, 17, 19), 正常脳あるいは髄膜炎時の観察結果であり, 正常な髄液循環動態では, Chaoramphenicol, Sulfonamide, Tetracycline以外の抗生物質は, 全身投与された場合, 血液, 脳および脳脊髄液関門のために, ほとんど髄液中に移行しないか, 移行しても少量であるとされている3, 5, 18). 髄膜炎がみとめられる場合は, 全身投与の抗生物質も比較的多量に髄液中に移行することが知られている12, 14, 18).
一方, 脳神経外科領域で何らかの侵襲 (開頭術, 脳腫瘍, 脳血管障害など) が加わつた場合の髄液内移行についての報告は散見されるにすぎない4, 6, 8, 9, 10, 15) 手. 術後においては, 手術侵襲, 疾患などの条件が, 血液, 脳および脳脊髄液関門の破綻の程度に影響し, 抗生物質の髄液内移行の程度にも反映することが考えられる. そこで, われわれは, 脳神経外科領域で髄膜炎の合併が比較的高頻度に発生する11, 20) 脳室腹腔短絡術 (V-Pシャント) を施行した症例に, 経時的に髄液を採取し, 抗生物質の種類, 疾患別による髄液内移行度と全身投与の意義につき検討したので報告する.
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