1987年から1990年の間に北野病院 (大阪市) において, 無作為に臨床材料から分離されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) 117株のアミノグリコシド剤及び弗化キノロン剤への感受性の推移とこれらの薬剤への交差耐性を究明した。
アミノグリコシド剤は, ゲンタマイシン (GM), トブラマイシン (TOB), シソマイシン (SISO), ミクロノマイシン (MCR), アストロマイシン (ASTM), アミカシン (AMK), アルベカシン (ABK), イセパマイシン (ISP), ネチルマイシン (NTL) を使用した。弗化キノロン剤はオフロキサシン (OFLX), シプロフロキサシン (CPFX), トスフロキサシン (TFLX) を用いた。
感受性検査は昭和ディスク拡散法を用い, 使用マニュアルに従つて施行した。Mueller-Hinton寒天培地「日水感性ディスク用培地N」平板に103~4CFU/cm2の菌量を塗布し, 35℃18時間培養を行った。阻止円直径は4分類システムに従つて分類, 評価した (Table1)。
アミノグリコシド剤のGM, TOB, SISO, MCR, ASTMへのMRSAの感受性分布はBimodal2峰性パターンを示し, かなりの耐性菌がみられた (Table1)。これら薬剤の中, TOBへの感受性は最も低かった。しかし, ABK, AMK, NTL, ISPへの感受性はMonomoda11峰性で, 耐性菌はごくわずかであった。MRSAの感受性は, 検討した薬剤中ABKに対して最も良く, 3μg/ml以下の濃度で1987~1990年分離菌株すべての発育が阻止された。
GM, TOB, SISO, MCR, ASTMの間にMRSAの交差耐性がみられたが (Table2), これら薬剤とABK, AMK, NTL, ISPとの間に交差耐性はみられなかった (Table2)。
MRSAの弗化キノロン剤, OFLX, CPFX, TFLXに対する感受性はBimoda12峰性を示した。MIC≤4μg/mlの菌株は1987年80~84%であつたが, 1988年にはいずれの薬剤にも63.3%, 1989年30.0%, 1990年1.3%と年次的な感受性の低下を示した (Table1)。TFLXは1990年に臨床利用が開始された。しかし, 臨床利用前の1987, 1988, 1989年にTFLXに対する耐性菌株が年ごとに増加し, OFLX, CPFXとの間に交差耐性がみられた。
TFLXは黄色ブドウ球菌 (MRSAを含めた) にOFLX, CPFXなどより強力な抗菌力を示すと言われているが, MIC≥4μg/mlを耐性とした場合, 以上のような頻度の交差耐性がみられた (Table2)。MIC≥1μg/mlを耐性とした場合にも同様の結果を得た。
一方, これらの弗化キノロンと上記アミノグリコシドとの間のMRSAの交差耐性はわずかの菌株にみられただけであった (Table2)。
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