2000年10月~2001年9月の間に全国16施設において, 下気道感染症患者410例から採取された検体を対象とし, 分離菌の各種抗菌薬に対する感受性および患者背景などを検討した。これらの検体 (主として喀痰) から分離され, 原因菌と推定された細菌499株のうち493株について薬剤感受性を測定した。分離菌の内訳は
Staphylococcus aureus 78株,
Streptococcus pneumoniae 73株,
Haemophilus influenzae 99株,
Pseudomonas aeruginosa (nonmucoid株) 64株,
P. aeruginosa (mucoid株) 14株,
Klebsiella pneumoniae 25株,
Moraxella subgenus Branhamella catarrhalis 21株などであった。
S. aureus 78株のうちOxacillinのMICが4μg/ml以上の株 (Methicillin-resistant
S. aureus: MRSA) は53.8%を占めた。MRSAに対してVancomycinとArbekacinは強い抗菌力を示し, 1999年と同様に良好な感受性が認められた。
S. pneumoniaeのなかで, ペニシリンに低感受性を示す株 (Penicillin-intermediate resistant
S. pneumoniae: PISP+Penicillin-resistant
S. pneumoniae: PRSP) の分離頻度は1999年の34.7%とほぼ同じ38.4%であったが, PRSPの占める割合が1999年の3.0%に比較して11.0%と増加した。
S. pneumoniaeに対してはカルバペネム系薬剤の抗菌力が強く, 特にPanipenemは0.125μg/mlで全73株の発育を阻止した。
H. influenzaeに対しては全般的に抗菌力は強く, いずれの薬剤もMIC
80は8μg/ml以下であった。
H. influenzaeに対して最も強い抗菌力を示した薬剤はLevofloxacinで, 0.063μg/mlで99株中94株 (94.9%) の発育を阻止した。
P. aeruginosaに対してはTobramycinの抗菌力が強く, MIC
80は1μg/mlであった。ムコイド産生株の分離株数は14株と少なかったが, 非産生株に比べ各薬剤に対する感受性は良好であった。
K. pneumoniaeに対しては, Ampicillinを除く各薬剤のMIC
80が2μg/ml以下であったが, 中でもCefpirome, Cefozopran, Levofloxacinの抗菌力が強く, そのMIC
80は0.125μg/mlであった。又, 第二世代のCefotiamのMIC
80は0.25μg/mlと良好な感受性を示した。
M.(B.) catarrhalisに対しても全般的に抗菌力は強く, いずれの薬剤もMIC
80は2μg/ml以下であった。最も強かった薬剤はImipenemおよびLevofloxacinであり, 0.063μg/mlで全21株の発育を阻止した。
呼吸器感染症患者の年齢は, 70歳以上が全体の44.4%とほぼ半数を占めた。疾患別では細菌性肺炎と慢性気管支炎の頻度が高く, それぞれ38.0および31.7%であった。細菌性肺炎患者から多く分離された菌は
S. aureus (18.3%) および
S. pneumoniae (16.1%) であった。一方, 慢性気管支炎患者からは
H. influenzae (20.4%) および
P. aeruginosa (16.7%) が多く分離された。抗菌薬投与前に呼吸器感染症患者から多く分離された菌は,
S. pneurnoniaeおよび
H. influenzaeで, その分離頻度はそれぞれ24.3%および26.7%であった。
S. pneumoniaeの分離頻度は抗菌薬の投与日数に従い減少する傾向にあったが,
H. influenzaeではそのような減少傾向は認められなかった。また,
P. aeruginosaの分離頻度は抗菌薬の投与日数に従い増加する傾向にあった。検体採取時に既に投与されていた抗菌薬の種類と分離菌の関連を調べたところ, ペニシリン系およびセフェム系薬剤投与症例では, 分離菌分布が類似していた。アミノグリコシド系, マクロライド系, ならびにキノロン系薬剤投与症例では,
P. aeruginosaが33.3~40.0%と高率で分離された。
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