日本畜産学会報
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43 巻, 8 号
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  • V. 精子の低温衝撃ならびに凍害に対する卵黄中の保護成分
    枡田 博司, 西川 義正
    1972 年 43 巻 8 号 p. 417-423
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    精子の低温衝撃ならびに凍害に対する卵黄中の保護物質を明らかにすることを目的として実験を行ない,つぎの知見を得た.
    1. 卵黄のアセトン可溶性部からエーテル抽出によって得られた中性脂質は低温衝撃に対し,強力な保護作用をもっていることが認められた.アセトン不溶性でアルコール• エーテル(3:1)可溶性部,主として粗リン脂質には低温衝撃に対し,強い保護作用が認められた.しかし,精製レシチンは粗リン脂質より作用がいく分弱いようであった.α-およびβ-リポビチリンの両リポ蛋白質も低温衝撃に対し強い保護作用を示した.
    2. リポビテリンおよびリポビテレニンは山羊あるいは牛精子の凍結による生存性低下の防止に有効であり後者は前者よりいく分保護作用が強い傾向が認められた.
    3. α-およびβ-リポビテリンはいずれも山羊,牛および馬精子を凍害から保護し,後者の方が前者よりいく分すぐれた作用をもつ傾向が認められた.水溶性蛋白質であるリベチンは山羊,牛および馬のいずれの精子の凍結に対しても有効性は認められなかった.
  • I. 飼料の物理的消化の過程における熱量増加
    桜井 斉
    1972 年 43 巻 8 号 p. 424-431
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    飼料の熱量増加は,種々の要因により影響される.したがって,鶏の飼料を考える上に熱量増加も重要な問題となる.そこで,本研究においては,まず飼料の物理的消化の過程-飼料の筋胃における磨砕と不消化物の消化管輸送-と熱量増加について明らかにした.
    飼料の筋胃における磨砕と熱量増加の試験には,飼料中トウモロコシが90%をしめ,その粒子が0.5mm以下のもの,数個に荒砕きしたもの,および種子そのものより成るものを給与し,熱発生量を測定し,筋胃活動にもとづく熱量増加を検討することにした.不消化物の消化管輸送と熱量増加の試験には,基礎飼料と,飼料中0~40%になる量の微粉の砂ならびにポリエチレンとを混合したものを,基礎飼料分で同量給与し,熱発生量を測定し,砂ならびにポリエチレン粉末の消化管輸送と熱量増加を検討することにした.なお,上記2試験には,50日令で体重1.0kgのブロイラー準専用種(ロード系♀×白色コーニッシュ♂)雄が用いられた.
    その結果は,つぎのごとく要約される.
    1. 飼料中トウモロコシの形態の差による飼料通過速度は,給与後4時間においては,その粒子が大きくなるにしたがっておそくなった.しかし,8時間後では通過速度はおおむね等しくなった.
    2. 飼料給与後8時間にわたって測定した熱発生量は,飼料中トウモロコシの形態による差異を認めなかった.このことは,飼料の筋胃磨砕には熱量増加を伴わないことを示している.
    3. 不消化物を基礎飼料に混合し増給した場合に,熱発生量および摂取代謝エネルギーに対する熱発生量の割合には,統計的に有意な差を認めなかった.
    4. 熱発生量より熱量増加の実量を求め,それを摂取不消化物1g当りで示すと,不消化物が,20%を含む飼料により体重(kg)0.75当り19g増給された場合でも,0.05~0.09kcalにすぎず,また40%を含む飼料により50gを増給しても,0.16kcalにすぎなかった.すなわち,不消化物1gの輸送に消費されるエネルギーは,飼料容積には関係なく,不消化物給与量が増すにしたがって加速的に増加はしたが,それはほとんど無視し得る量にすぎなかった.
  • 堀米 隆男, 中山 法親, 池田 雅憲
    1972 年 43 巻 8 号 p. 432-437
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    甘藷から脱汁方式により殿粉を製造する際,最初に分離される汁液より蛋白質(汁液蛋白質)を調製し,その化学的性質および栄養価をしらべ次の結果を得た.
    1. 汁液蛋白質試料は約50%の蛋白質を含み,そのアミノ酸組成を鶏卵蛋白質のアミノ酸に比較するとメチオニンが第一制限アミノ酸で,つづいてリジンが少なかった.
    2. 汁液蛋白質は約8%前後の粗脂肪を含みリノール酸が全脂肪酸の45%に達し,パルミチン酸が次に多く35%を占めていた.また,アゼライン酸などは認められず脂肪酸の酸化分解はほとんどないものと考えられた.
    3. 汁液蛋白質は緑褐色あるいは暗緑色に着色し,収クペクトルから推察して,クロロゲン酸類の酸化重合物が吸着あるいは結合しているものと考えられた.同じく吸収スペクトルから汁液蛋白質には核酸が含まれることが推察された.
    4. 白ネズミに対する汁液蛋白質の蛋白効率は1.9で植物蛋白質としては良好であるが,メチオニンおよびリジンを補足した場合はメチオニンを補足した大豆蛋白質の蛋白効率に匹敵した値を示した.
    5. 白ネズミで測定した汁液蛋白質の消化率は79%~83%でやや低いが生物価は72%~75%で,ほぼ大豆蛋白質の生物価に等しかった.また,製造の際の乾燥方法の種類による汁液蛋白質の栄養価の差異はほとんどないかきわめて小さかった.
    以上の結果から,甘藷汁液蛋白質は植物蛋白質として良好な栄養価を有し,家畜の蛋白質資源として充分利用し得るものと認められる.
  • IV. 牛乳脂質のトランス酸含量
    土屋 文安, 山本 良郎, 岡部 後道, 相沢 和子
    1972 年 43 巻 8 号 p. 438-445
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    全国22地区の1年間の牛乳脂質試料264点につき,赤外分光法によってトランス酸含量を測定し,トリエライジン含量として表わした.その結果,平均値は8.38%,標準偏差は1.45%であった.
    北海道および岩手においては,トランス含量の季節的変動が明瞭であって,夏季は11%以上となり最高13.7%のものもみられ,冬季は6~8%に低下する.大都市近郊な近し専業地域においては季節的変動がほとんど認められず,常に含量が高い.その他の地域においては,季節的変動がやや認められて夏季に高くなるものと,ほとんど変動の認められないものとがあるが,いずれも6~9%の範囲にある.
    二重結合のうちトランス化したものの割合を示す指標として,沃素価から換算したトリオレイン含量に対するトランス酸含量の比率T/U(%)を求めた.T/U率の平均値は20.6%,標準偏差は10.0%であった.T/U率はトランス酸含量と強い正の相関があり,その地域的季節的変動はトランス酸含量と同じ傾向にある.ただし,大都市専業地域においてはトランス酸含量が高いにもかかわらず,T/U率は必ずしも高くない.
    乳脂肪中のトランス酸は,飼料中の多価不飽和脂肪酸が反芻胃内で水素添加される際に生じたトランス酸に由来するものといわれているので,北海道のように夏季に牧草が多量に供与される地域においては,トランス酸の含量およびその不飽和酸中の割合が上昇するが,農産製造粕•濃厚飼料が多く与えられる地域では季節的変動が小さく,かつ不飽和酸中の割合もほぼ一定しているものと考えられる.
    上昇融点とトランス酸含量の間には,相関係数0.172の有意な単相関が認められる.また,上昇融点に対する沃素価とトランス酸含量の重相関は有意であるが,上昇融点とトランス酸含量の間の偏相関は有意でない.したがって,トランス酸が乳脂肪の上昇融点に影響をもっていることは明らかであるが,その影響の仕方は単純なものではなく,更に検討が必要である.
  • リジン欠乏とひな体内のアミノ酸の動き
    庄司 圭吾
    1972 年 43 巻 8 号 p. 446-456
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    リジン含量の異なる飼料(0.76%,0.91%および1.06%)をそれぞれ給与したひなに14C-アミノ酸混合物を注射して,体内アミノ酸の動きを追跡し,既に報告したリジン含量とエネルギー蓄積率および蛋白質蓄積率との関係を,体内各部成分への14C-アミノ酸の取り込みから検討するべく実験を行ない次の結果を得た.
    1. リジンが著しく欠乏した飼料を給与したひなの呼気二酸化炭素への14Cの移行は,リジンがわずかに欠乏,または要求量を満している場合に比し明らかに高い値を示した.
    2. リジンが著しく欠乏の場合にはひなの屠体,胸筋の蛋白質合成速度は,リジンが要求量を満たしている場合に比して低下の傾向が認められたが,肝臓では逆に蛋白質合成速度が上昇している傾向が認められた.
    3. リジンがわずかに欠乏の場合には,鶏体脂肪への14Cの取り込みが促進され,他の両区に比し,体内アミノ酸からの脂肪合成が明らかに大きいことが認められた.
    以上のことより,本実験によって前々報14)に報告した飼料中のリジン含量の増加に伴いひなのエネルギー蓄積率および窒素蓄積率が増加する関係をほぼ裏付けるとができたものと考えられる.
  • III. 特に等電点(pH4.6)可溶性画分について
    高橋 富士雄
    1972 年 43 巻 8 号 p. 457-462
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    α-カゼインの抗原性におよぼすトリプシン分解の影響について検討する目的から,その分解物のpH4.6における可溶性画分(F-S画分)のα-カゼイン抗原特異性について,前報で述べた微量確認法により,その他の諸性質とあわせて検討した.得られた結果は次のとおりである.
    1. F-S画分はSephadexカラムクロマトグラフィー(Sephadex G-25とG-15との連結カラム)により7画分(F-1,F-2,---F-7画分)に分割され,F-1画分の分子量が5,000以上,その他の画分は5,000以下と推定した.
    2. 分割画分のビウレット反応性,ペーパークロマトグラフィーおよびアミノ酸分析により,いずれの画分とも2から11個のペプチド混合物であることが推定された.なお,それら各画分において,窒素含量ではF-1,F-2およびF-3画分,ヘキソース含量ではF-3画分が著しく多く,シアル酸はF-1およびF-2画分のみに含まれることを認めた.
    3. 沈降抑制反応,間接血球凝集抑制反応およびPCA抑制反応により,F-1からF-6までの画分に明らかな抗原活性を有することを確認した.特に,F-6画分に抗原活性が認められたことより,α-カゼイン抗原活性ペプチドがかなり低分子であると推定される.
  • 石橋 晃
    1972 年 43 巻 8 号 p. 463-469
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    Pheが窒素出納を正に維持するのに成鶏では可欠であることおよび先に短期間の出納試験で求めたアミノ酸要求量の正当性を長期間にわたって調べる目的で,白色レグホーン種の雄に1日体重kg当り30g(265mgN,120kcal gross energy/kg/日)または自由摂取させ体重および窒素出納への影響を調べた.Pheの可欠性が成鶏に特殊なものであることを示すため,白ネズミにもPhe欠乏飼料を給与し,次の結果を得た.
    1. Phe欠乏飼料を給与した鶏は3ヵ月間N出納を正に維持することができた.Phe含有飼料では鶏は体重を維持できたが,Phe欠乏飼料では平均4.4%減少した.
    2. 成鶏2羽にPhe欠乏飼料を1年間1日体重kg当り30g給与すると,N出納は正に維持されたが,体重は平均11.7%減少した.N出納試験終了後Phe欠乏飼料を自由摂取させると,2羽とも7ヵ月後に死亡した.
    3. Phe欠乏飼料を2羽の鶏に自由摂取させると成鶏は1年間に12.7%の体重を減少した.この間,鶏は軽い換羽をしたが,生え換った羽毛は貧弱であった.Phe含有飼料では体重は維持された.
    4. 白ネズミにPhe含有飼料を給与した場合には,摂取量も,体重も,窒素平衡も維持されたが,Phe欠乏飼料およびPhe-Tyr欠乏飼料を自由摂取させると,摂取量は減少し,それにともなって,体重も,窒素平衡も維持できず23日間にそれぞれ初体重の7.3%,8.8%を失なった.
    以上の成績は,先に短期間のN出納試験で求めた要求量の正当性を示すとともに,成鶏では,正のN出納の維持のためにはPheは可欠であり,体重の維持のためには必須であるが,白ネズミでは正のN出納の維持にも必須であることを示すものである.
  • 彦坂 治
    1972 年 43 巻 8 号 p. 470-478
    発行日: 1972/08/25
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    視床下部とその周辺には,ノルアドレナリン(NA)やセロトニン(5-HT)などが高濃度に分布し,これらを合む作動神経の存在が報じられている.そこで,直接視床下部内にNAと5-HTを微量注入して,盲腸運動に対する作用を長期的に装着したバルーン法をもちい観察記録した.さらに,視床下部の支配が盲腸に分布する交感神経終末部の受容体でどのような関連をもって遂行されるものか究明を試み,次の結果を得た.
    1. 5-HT(20μg)を視床下部の前部領域のnucl. hypothalamicus anterior medialis, nucl. paraventri-cularius magnocellularis, nucl. preopticus medialisおよびdecussatio supraoptica dorsalisに注入すると,盲腸運動の促進および緊張がみられた.またnucl.hypothalamicus anterior medialisおよびdecussatiosupyaoptica dorsalisにNA(40μg)を注入すると盲腸運動の抑制がみられた.
    NA(40μg)を視床下部の後部領域のnucl. hypo-thalamicus lateralisおよびnucl. hypothalamicus posterior medialisに注入すると,盲腸運動の一過性の抑制とこれに続く促進がみられた.この領域に5-HT(20μg)を注入すると盲腸の収縮数の減少がみられた.
    この5-HT注入時の応答は,即時性興奮反応であり,NA注入時の応答は,遅延性興奮反応であった.これらの応答は,NAおよび5-HT感受性領域の活性化によってひき起されると推定した.
    2. NAの視床下部内注入による盲腸運動の-過性抑制から促進にうつる反応は,アドレナリン作動性神経末梢のα-受容体とβ-受容体を介する変化であり,α-受容体が運動の促進をβ-受容体が運動の抑制または弛緩をもたらすのを確認した.
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