症例は70歳台女性.慢性腎不全に対して当院通院加療中.3年前に撮像した腹部単純CTで上行結腸に35mm大の巨大憩室を指摘され,CT検査で経過観察されていた.憩室炎を繰り返し,憩室が増大傾向にあったため,手術目的に当科紹介となった.憩室は50mm大まで増大しており,待機的に腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術後は合併症なく経過し,術後11日目に退院した.巨大憩室症は比較的な稀な疾患ではあるが,穿孔や膿瘍形成などの病態を呈すると重症化するリスクが高い.本邦では巨大憩室症の報告は少なく,予防的切除の適応や術式について定まったものは存在していないが,海外の報告では,無症候性であっても診断した時点で予防的切除が望ましいとの報告も存在する.今回,巨大憩室症に対して待機的に腹腔鏡下回盲部切除術を行った1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
われわれは内肛門括約筋から発生し,坐骨直腸窩を主体に肛門を取り囲むように発生し排便機能障害をきたした平滑筋腫を経験したので報告する.患者は56歳女性.2年前より便が細く,近医より痔核を指摘された.1年前より水様便の失禁が発生したため,その痔核が原因と考え,加療目的に当院を受診した.右肛門縁に弾性硬の腫瘤を体表より蝕知し,その皮膚の色調は暗褐色であった.指診にて肛門の約半周性の腫瘍が疑われ,エコー検査では,3時から8時にかけて比較的境界明瞭なくびれのあるひょうたん型の腫瘍として描出された.CTでは後方主体に肛門を取り囲むように腫瘍を認め,MRIではT1で低信号,T2でやや高信号を呈し周囲との境界が比較的明瞭な腫瘍を両側坐骨直腸窩主体に認めた.生検では平滑筋腫であった.会陰切開にて腫瘍を摘出した.腫瘍は6時方向でくびれを伴い,その近傍の内肛門括約筋と連続し内肛門括約筋由来と思われた.病理結果はSMA, desminともに陽性であり,C-kit, DOG-1は陰性,Ki-67標識率は2%であり多発性平滑筋腫との診断となった.術後1ヵ月で,水様便の漏れは消失しQOLは改善した.内肛門括約筋を原発とすると考えられる排便機能障害を伴った平滑筋腫を経験した.
症例は70歳,男性.前医で多発大腸ポリープを指摘され,精査加療目的に当院紹介となった.大腸内視鏡検査では,S状結腸に3つの0-I病変が近接して存在し,いずれも内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.病理結果はすべてSM癌で,そのうち2つはSM深部浸潤,かつ脈管侵襲陽性,また1つは低分化成分も含んでいた.追加腸切除の適応と判断し,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.切除標本では,2つのSM深部浸潤癌のEMR瘢痕に挟まれるように,10mm大の粘膜下結節を認めた.粘膜下結節では,高~中分化管状腺癌を主体とし,一部に低分化な成分を含む腺癌が,粘膜下から漿膜下まで広がっていた.また,中等度の脈管侵襲を伴っていた.以上の結果から,EMRを施行したSM深部浸潤癌の壁内転移と診断した.大腸癌の壁内転移は少なく,しかも早期癌に伴って起きることは極めて稀であるので,若干の文献的考察を加えて報告する.
Persistent descending mesocolon(PDM)は,左側結腸が壁側腹膜と癒合せず,下行結腸が内側に偏位する固定異常である.症例は76歳女性.直腸S状部癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術(D3郭清)を予定した.腹腔内を観察したところ,左側結腸が右側へ偏位し,小腸間膜および虫垂と癒着していたことから,PDMと診断した.腹腔内にて下腸間膜動脈(IMA)根部,下腸間膜静脈,左結腸動脈(LCA)の順に切離し,体外操作へ移行したところ,LCAとS状結腸動脈第1枝とをつなぐ辺縁動脈が欠損し,LCAから直動脈が分岐していることが判明した.腸管壊死を防ぐため,左結腸動脈を処理した高さで下行結腸を切離し,脾彎曲を授動後に吻合を実施した.PDMを有する症例では血管分布異常を認めることがあり,辺縁動脈欠損の可能性も含めた解剖学的特徴を理解し,慎重な手術操作を心がけることが肝要である.
〈目的〉異時性大腸腫瘍の累積発生率を性別年齢で比較した.〈方法〉サーベイランス患者3,164例(期間82.3月,回数3.90回)をM群(男性)1,982例,F群(女性)1,182例とY群(65歳未満)1,381例,O群(65歳以上)1,783例に分類した.〈結果〉Logrank検定にて低異型度腺腫の累積発生率はM群はF群より著しく高く(p<0.001),O群はY群より高かった(p<0.01).高異型度腺腫または癌の累積発生率はM群とF群の間に有意差はなく(p=0.07),O群はY群より高かった(p<0.001).初回所見により正常大腸または微小腺腫放置,20mm未満腺腫切除,粘膜内癌,粘膜下浸潤癌,20mm以上腺腫切除に細分類しても異時性腫瘍の累積発生率には同様の傾向を認めた.〈結論〉男性と高齢者は異時性腫瘍が発生しやすく,男性は女性より低リスク病変,高齢者は若年者より高リスク病変が発生しやすい.