日本公衆衛生雑誌
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51 巻 , 5 号
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論壇
  • 宇野 日出男, 宇井 志緒利, 青山 温子
    2004 年 51 巻 5 号 p. 305-310
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
     ドメスティック・バイオレンス(domestic violence; DV)とは,夫など親密な関係にある男性から女性に対する暴力のことである。DV は女性の人権侵害であるとともに健康に関わる問題であるが,複雑な背景要因の存在する DV に対して,公衆衛生の視点からいかに介入していくかが課題である。
     本稿の目的は,日本および世界各地でこれまでに実施されてきた,多方面からの DV 対策について概観し,日本における,今後の保健医療分野からの取り組みの方向性を展望することである。
     これまでに,DV 対策法の整備,緊急支援としてのシェルターの提供,NGO による支援活動,あるいは暴力加害者への介入など,多方面から DV に対する取り組みがなされてきた。保健医療分野では,欧米での医療従事者に対する体系的 DV 教育や,アジアや南米での医療機関を中核とする DV 被害女性支援ネットワーク形成などが実施されてきた。
     保健医療分野からは,幅広い DV 対策のなかでも,DV 被害女性の早期発見と治療,DV 再発の予防に貢献できると考えられる。しかし,これまでは,保健医療従事者に対する体系的 DV 教育が不足しており,医師と被害女性の認識にずれがあったり,DV に対する理解不足のため発見できなかったり,他の関連機関との連携不足により対応困難であったりした。
     日本でも,今後は,保健医療分野からも DV 対策に積極的に取り組むべきであると考えられる。たとえば,母子保健事業の一環として,児童虐待と DV に対して包括的に取り組んでいけるのではないであろうか。また,欧米の医療従事者教育を参考に,マニュアルやガイドラインを整備し,第一線の医療者の意識を変えていく必要がある。さらに,これまでの各方面からの取り組みを評価・検証して,より有効な対策法を検討していくべきである。
原著
  • 吉岡 二三, 東 恵美子, 中島 孝江, 橋本 正史, 豊島 協一郎, 林田 道昭, 大湊 茂, 小町 喜男
    2004 年 51 巻 5 号 p. 311-321
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 非喫煙成人女性および小児で,気道アレルギー発症の主要なリスク要因であるヤケヒョウヒダニ(Dp)のアトピー(Dp 感作)に対する住宅の気密性や受動喫煙の関与の態様を検討する。
    方法 ①対象:平成 7~9 年に大阪府下の成人病検診を受診した健康成人女性(主婦)のなかから非喫煙者382人と,大阪府下の小学校に通う学童で,平成12年 4 月に保健所で実施されたアレルギー性疾患予防健診を受診した 9~12歳までの健常小児214人を対象に,Dp 感作に対する住宅の気密性や受動喫煙の関与を検討した。また,平成 5 年12月~平成 6 年 5 月に病院小児科を受診した小児のなかから家族に喫煙者がいると答えた原則として12歳までの小児170人を対象に,住宅の気密性と受動喫煙量との関係を検討した。
     ②方法:アンケート調査により,①住宅の気密性に関連して住宅構造(鉄筋住宅/木造住宅),②受動喫煙に関連して家族喫煙の状況,③室内での吸入アレルゲンへの曝露状況に関連して室内(台所)でのカビの発生,の三要因を調査した。Dp 感作の状況については,血清 Dp 特異的 IgE 陽性でもって Dp 感作ありとし,受動喫煙については,尿中コチニン量が 6 ng/mgCr を超えると受動喫煙ありとした。
    成績 1. 生活環境要因のうち,室内でのカビの発生と家族喫煙は Dp 感作に関与し,その効果は相乗的であった。
     2. 鉄筋住宅居住群の受動喫煙量は,木造住宅居住群に比べ主婦では多く,独立した子ども部屋を持っている学童では少なかった。
     3. 受動喫煙の Dp 感作に対する影響は,主婦では主に鉄筋住宅居住群に,学童では主に木造住宅居住群に発現した。
     4. 台所でのカビの発生の Dp 感作に対する影響は,主婦では主に木造住宅居住群に発現し,学童ではみられなかった。
    結論 生活環境要因の中で,鉄筋住宅居住,受動喫煙,室内でのカビの発生の三要因について,Dp 感作への影響を主婦と学童とで疫学的に検討したところ,Dp 感作は,住宅の気密性などによる吸入アレルゲンの負荷の増大か,抗体産生反応の亢進(タバコ粒子によるアジュバント効果)によって促進されることが確かめられ,三要因の関与の態様は,家庭内での生活状況の違う主婦と学童とで異なることが分かった。
  • 金 貞任, 新開 省二, 熊谷 修, 藤原 佳典, 吉田 祐子, 天野 秀紀, 鈴木 隆雄
    2004 年 51 巻 5 号 p. 322-334
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 中・高年者の社会参加の各指標に影響を与える要因に焦点を当てて分析する。
    方法 調査対象者は,埼玉県鳩山町に居住している55歳以上79歳の中高年者である。調査期間は,2002年 3 月20日から 4 月 2 日までである。調査の方法は,平成14年 1 月 1 日現在55歳から79歳の住民の選挙人名簿リストから層化無作為抽出法により選択された1,568人を対象に郵送式自己式質問紙調査を行った。得られた回答票の中から家庭内と隣近所または遠距離へ不自由なく活動できる者のみを対象とし,964票(61.5%)が分析の対象となった。
    結果 社会参加のドメインは,仕事,社会・奉仕活動,個人活動,学習活動から構成されている。性と年齢は,社会参加の 4 つのドメインを規定する要因であり,配偶者の有無は個人活動と学習活動に有意であった。学歴と暮らし向きは,個人活動に影響を与えていたが,学歴は仕事に,暮らし向きは社会・奉仕活動を強く規定する要因であった。ニュータウン居住者は,仕事,社会・奉仕活動と学習活動に負の関連を示していた。地域共生の認知と社会参加の継続の意思は社会・奉仕活動を規定していたが,社会参加の継続の意思のみ学習活動を規定していた。公的支援の認知は学習活動のみを規定していた。
    結論 埼玉県鳩山町における中・高年者の社会参加には,地域に対する共生の意識と社会参加を継続的に行うための動機付与などの方策が重要であることが示唆された。また,地域における社会参加を促進するに当って,地域住民個々人の社会参加に対する認知と公的機関の関与がどのように整合していくかが重要な課題であることが示唆されたといえよう。
  • 武田 俊平, 田村 一彦
    2004 年 51 巻 5 号 p. 335-346
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 市町村における高齢者の要介護状況を示す指標を用いて,介護予防事業の評価方法を確立する。
    方法 仙台市太白区における要介護等認定者数および死亡数に基づいて,14の中学校区別(以下,地区別)に,65歳男女の要介護未認定期間,年齢調整要介護認定等基準時間(以下,要介護時間),および,年齢調整オッズ比(以下,オッズ比)を算出し,2000年と2001年,2001年と2002年,および,2000年と2002年を比較し,かつ,2000年,2001年,および,2002年の各年における 3 指標相互の関係を分析した。また,平成13年度における地区別年齢調整介護報酬(以下,地区別介護報酬)を算出し,2001年における地区別要介護未認定期間,地区別要介護時間,および,地区別オッズ比との関係を分析した。
    成績 1) 2000年,2001年,および,2002年の各年末において,地区別要介護時間と地区別オッズ比の間に有意の相関があった。地区別要介護時間および地区別オッズ比に関して,2000年末と2001年末の間,2001年末と2002年末の間,および,2000年末と2002年末の間に有意な相関関係があった。しかし,男女の地区別要介護未認定期間に関しては,2000年と2001年の間,2001年と2002年の間,および,2000年と2002年の間に有意な相関関係がなかった。
     2) 平成13年度の地区別介護報酬に関しては,2001年末における地区別要介護時間および地区別オッズ比との間に明らかな比例関係があったが,男女の地区別要介護未認定期間との間には有意の相関関係がなかった。
     3) 地区別要介護時間に関する年末間の相関関係によって,要援護高齢者の要介護認定申請割合を推定したところ,2000年末には65%,(2001年末には87.5%),および,2002年末には101%だった。したがって,2002年末において,ほぼ要援護高齢者全員が要介護認定を申請したと考えられる。このときの地区別オッズ比は,D 地区が有意に低く,H 地区が有意に高かった。
    結論 要介護時間とオッズ比は,互いに相関するとともに,介護保険サービス費用を表す介護報酬と相関し,少なくとも2002年末以降,地域に在住する要援護高齢者数,要介護度および介護費用をほぼ正確に表した。したがって,市町村における介護予防事業においては,要介護時間とオッズ比を事前と事後で比較することにより,事業効果の判定が可能となる。
  • 大坪 浩一, 山岡 和枝, 横山 徹爾, 高橋 邦彦, 丹後 俊郎
    2004 年 51 巻 5 号 p. 347-356
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 医療資源の適正配分・適正配置を考えるうえで,地域における医療資源の死亡への影響を評価することは重要である。死亡指標として用いられることの多い標準化死亡比(SMR)は,市区町村単位のような小地域レベルでの比較に用いる際には人口サイズの相違の影響を受けやすく,わずかな死亡数の変化が見かけ上の指標を大きく変化させるという問題がある。そこで,本研究では,「経験ベイズ推定に基づく SMR」(EBSMR)に基づき医療資源の死亡に及ぼす影響について,社会経済要因の影響を調整したうえで評価することを目的とした。
    方法 本研究では医療資源が適正配置されているかという点に着目し,これまでの研究で主な医療資源の指標とされてきた医師数,一般診療所数,一般病床数(いずれも対人口)に加え,脳血管疾患や心疾患死亡に影響すると考えられた救急医療体制参加施設数などを取り上げた。死亡指標は,平成 5 年~平成 9 年の福岡県における全死因および脳血管疾患,心疾患,悪性新生物の 3 大疾患,および急性心筋梗塞の性別の EBSMR を取り上げた。社会経済要因として,出生数,転入・転出者数,高齢者世帯数,婚姻件数,離婚件数,課税対象所得,完全失業者,第一次産業就業者,第二次産業就業者数,第三次産業就業者数,刑法犯認知件数を取り上げた。EBSMR と医療資源変数および社会経済変数との関連性を,正規分布を呈しない変数については対数変換後,重回帰分析により検討した。
    結果 重回帰分析より得られた主要な結果として,人口対医師数(男性急性心筋梗塞 P=0.047,女性急性心筋梗塞 P=0.012),人口対救急医療体制参加施設数(女性急性心筋梗塞 P=0.001),人口対一般病床数(女性全死因 P<0.001,女性脳血管疾患 P=0.007,女性心疾患 P<0.001,女性悪性新生物 P=0.049)では,それが多いほど EBSMR が低くなる傾向が認められた。逆に,人口対一般診療所数では,それが高いほど死亡が高まる傾向を示していた(女性全死因 P=0.025,女性急性心筋梗塞 P=0.006)。
    結論 以上より,福岡県を事例として,市区町村レベルでの医療資源の死亡に及ぼす影響を EBSMR で評価したところ,医師数の充実と男女の急性心筋梗塞死亡の低下,一般病床数の充実と女性の全死因・女性の脳血管疾患・女性の心疾患・女性の悪性新生物死亡の低下,救急医療体制参加施設数の充実と女性の急性心筋梗塞死亡の低下の関連が認められ,医師数および入院や救急に関する医療資源を適正配分することの重要性が示唆された。
  • 木下 朋子, 中村 正和, 水田 一郎, 大島 明
    2004 年 51 巻 5 号 p. 357-370
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 通信制禁煙プログラム「禁煙コンテスト」は,禁煙キャンペーンとして実施され,決められた期間の禁煙に成功すると抽選で賞品が贈呈されるという Quit & Win 方略に基づいて開発されている。この方略は1980年代前半に米国で開発され,現在は世界的に活用されている。プログラムの概要は,数種類の教材を用い,最初の 2 週間はたばこを吸わない生活習慣を徐々に身につけ 4 週間の完全禁煙に挑戦するものであった。本研究では,成績の評価,禁煙に関連する個人特性の分析を通して,Quit & Win 方略のわが国への適用可能性を検討することを目的とした。
    方法 1998年から2000年に(財)大阪がん予防検診センターが開催した 3 回のコンテストの申込者4,221人を対象とした。申込者のうちプログラムへの参加意志を表した者を参加者と定義し,成績評価の母数として用いた。成績は 4 週間,6 か月間,1 年間の禁煙率で評価した。禁煙状況は参加者から提出されるレポート(本人と 2 人の証人の申告)で,個人特性はアンケート調査で把握した。個人特性の分析には多重ロジスティック回帰分析を用いた。
    結果 成績は 4 週間が46%,その後 6 か月間,1 年間がそれぞれ20%, 15%であった。なお,申込者のうち60%がプログラムに参加していた。個人特性の分析の結果,4 週間では,男性,年齢が高い,配偶者がいる,ニコチン依存度が低い,禁煙への準備性が高い,禁煙に成功する自信をもっている,健康への不安を感じていないという特性が,禁煙成功と有意な関連を示した。これらの特性のうち,性別と禁煙に対する心理的側面の評価,すなわち準備性と自信は 6 か月間,1 年間の両期間の禁煙継続とも有意な関連を示した。4 週間の禁煙とは有意な関連を示さなかった 1 か月以上の禁煙経験がある,慢性疾患があるという特性は,その後の禁煙継続とのみ有意な関連を示した。
    結論 通信制禁煙プログラム「禁煙コンテスト」は,諸外国で実施された Quit & Win 方略を用いたプログラムとほぼ同等の成績を示した。また本プログラムはセルフヘルプ法であったにも関わらず,わが国の禁煙プログラムとしても比較的よい成績を示した。したがって Quit & Win 方略は文化や社会的背景が欧米とは異なるわが国においても有効な禁煙サポート方略であると考えられた。
資料
  • 山本 覚子, 藤本 眞一, 神尾 友佳, 小窪 和博, 稲葉 静代, 藤原 奈緒子
    2004 年 51 巻 5 号 p. 371-376
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 全国の保健所およびその統合組織の実態を把握し,保健所の重要な任務である健康危機管理の体制を今後とも推進するためのより良い組織および権限付与のあり方を提言していくことを目的とした。
    方法 全国の保健所設置主体,合計123都道府県市区(以下,「県市区」という。)に郵送による自記式調査を実施し,平成14年10月現在の,各地方自治体の保健所と福祉事務所等の統合組織(以下,「統合組織」という。)の実態,および名称等について情報を得た。それらの調査資料をもとに,各県市区の健康危機管理対応のあり方を考察した。
    結果 112県市区(全都道府県,48市,17区)から回答(回収率91.0%)があった。統合組織は,市区では 7 市 1 区,都道府県では31府県存在していた。統合組織の長は,統合組織全体では医師34.7%,事務吏員63.5%,医師以外の技術吏員1.6%であった。統合組織の長と保健所長との間の情報提供のルールをあらかじめ作っているところはなかった。外部からの電話による問い合わせや,文書送付時の名称は,統合組織名を使用しているところが多かった。統合組織名は様々であったが,富山県や横浜市では,法律上の保健所の名称として「保健所」の名称は使用せず,それぞれ統合組織名である「厚生センター」,「福祉保健センター」を使用していた。
    考察・結論 保健所と福祉事務所の組織統合については,市区ではあまり進んでいなかったが,都道府県では31府県で,組織統合があり,約 7 割を占めており,単独の組織として保健所を考えることはもはや無意味である。統合形態としては,今後「ミニ県庁型」の組織統合が流行するものと予想される。また,統合組織の長からみた保健所長の位置付けから,健康危機発生時に,敏速な対応ができるのか疑問が残る。さらに,「○○保健所」と名乗らない「保健所」もあり,重大な問題があると考える。
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