目的 医療資源の適正配分・適正配置を考える上で,地域における医療資源と死亡との関連を評価することは重要である。前報にて,福岡県内の市区町村を対象に「経験的ベイズ推定に基づく標準化死亡比」(EBSMR)に基づき医療資源と死亡との関連を評価したところ,医師数および入院や救急に関する医療資源を充実させることの重要性が示唆された。この結果をふまえ,全国の市区町村を対象として,医療資源と死亡との関連について評価することを目的とした。
方法 本研究では医療資源に着目し,これまでの研究で主な医療資源の指標とされてきた医師数,一般診療所数,一般病床数に加え,脳血管疾患や心疾患死亡に影響すると考えられた救急告示病院数を取り上げた(いずれも対人口)。死亡指標は,平成 9 年~平成13年の全国の市区町村(札幌市清田区,三宅村を除く)における全死因および脳血管疾患,心疾患,悪性新生物の 3 大疾患,および急性心筋梗塞の EBSMR を取り上げた。社会経済指標として,人口総数,出生数,高齢者世帯数,婚姻件数,離婚件数,1 人課税対象所得,完全失業者数,第二次産業就業者数,第三次産業就業者数および都道府県を取り上げた。EBSMR と医療資源指標および社会経済指標との関連性を,重回帰分析により検討した。
結果 医師数と一般病床数は相関(ピアソン,r=0.776)が高く,一般病床数を分析から除外した。重回帰分析より得られた主要な結果として,対人口の医師数(男性全死因標準偏回帰係数 β=−0.042(
P=0.024),女性全死因−0.150(
P<0.001),女性脳血管疾患−0.074(
P<0.001),男性心疾患−0.066(
P<0.001),女性心疾患−0.087(
P<0.001),女性急性心筋梗塞−0.061(
P=0.003),女性悪性新生物−0.064(
P=0.001))が多いほど EBSMR は低く,逆に,一般診療所数(男性全死因0.053(
P=0.001),女性全死因0.115(
P<0.001),男性脳血管疾患0.047(
P=0.002),女性脳血管疾患0.070(
P<0.001),女性心疾患0.061(
P<0.001),女性急性心筋梗塞0.048(
P=0.006),男性悪性新生物0.036(
P=0.018),女性悪性新生物0.046(
P=0.005))が多いほど EBSMR が高い傾向が認められた。医療資源指標として救急告示病院の有無のみを投入し,重回帰分析を試みたところ,救急告示病院(女性全死因−0.085(
P<0.001),男女の脳血管疾患それぞれ−0.032(
P=0.031), −0.059(
P=0.001),女性心疾患−0.052(
P=0.008))があると,EBSMR が低い傾向がみられた。
結論 全国の市区町村を事例として,市区町村レベルでの医療資源と死亡との関連を EBSMR で評価したところ,医師数および救急医療資源を市区町村レベルで充実させることの重要性が示唆された。
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