日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 12 号
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原著
  • 生内 由佳, 本田 貴紀, 陳 涛, 楢﨑 兼司, 陳 三妹, 熊谷 秋三
    2016 年 63 巻 12 号 p. 727-737
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/19
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,地域在住高齢者における社会的活動への参加と,総合的な体力,および体力測定の各項目との関連を明らかにすることである。

    方法 本研究は2011年から追跡中の縦断研究である篠栗元気もん研究のベースラインデータを用いた横断研究である。福岡県糟屋郡篠栗町在住で65歳以上の要介護認定を受けていない全高齢者4,913人のうち,すべてのデータが得られた1,365人を解析対象とした。社会的活動への参加は,質問紙により 8 項目の活動について参加の有無の回答を得た。体力測定では,筋力として握力と脚伸展力,下肢の動作実行能力として開眼片足立ち時間と 5 m 最大歩行速度,および 5 回椅子立ち上がり速度を計測した。性,年齢,BMI,社会経済的要因,同居家族の有無,運動習慣,飲酒・喫煙習慣,客観的測定による中高強度活動,低認知機能,手段的日常生活機能低下,ディストレス,ソーシャルネットワーク,および既往歴を調整変数とし,重回帰分析と多重ロジスティック回帰分析を用いて,社会的活動への参加の有無と体力との関連性を検討した。

    結果 本研究の対象者において,8 項目の社会的活動のうち何らかの活動に 1 つでも参加する者の割合は83.6%であった。多変量解析から,社会的活動への参加と体力の総合評価得点,5 m 歩行速度,椅子立ち上がり速度,および開眼片足立ちとの間に有意な関連性が認められた(それぞれ P=0.008,P=0.030,P=0.034,P=0.009)。

    結論 社会的活動への参加は社会経済的要因や既往歴と独立して,総合的な体力および下肢の動作実行能力と関連した。

  • 宇野 薫, 武見 ゆかり, 林 芙美, 細川 モモ
    2016 年 63 巻 12 号 p. 738-749
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/19
    ジャーナル フリー

    目的 妊娠前 BMI 区分やせの妊婦の妊娠中期の栄養状態,食物摂取状況が,他区分と比較し違いがあるかを確認すること。

    方法 2015年 1 月~3 月,群馬県 T 市 S 病院において妊婦健診,母親学級に訪れた妊婦(妊娠14週~20週)に対して研究参加を呼びかけ,書面にて同意が得られた141人に対して調査を実施した。妊娠20週の妊婦健診の際に不連続 2 日間の食事記録(目安量法),質問紙による食生活に関する調査を実施し,カルテより現病歴,身長,妊娠前体重,採血データを得た。そのうち,悪阻がひどい者 9 人を除いた132人を妊娠前 BMI 区分(やせ28人,標準93人,肥満11人)ごとに栄養素等摂取量,食品群別摂取量および料理摂取量の分析を行った。統計解析は χ2 検定,Fisher の正確確率検定,Kruskal-Wallis 検定,一元配置分散分析を用い,さらに,年齢,総エネルギー摂取量,就業状況等で調整し共分散分析を行った。

    結果 妊娠前 BMI 区分やせの妊婦には,就業者が多く,ヘモグロビン,ヘマトクリット値が有意に低く貧血のリスクのある者が多くみられた。栄養素等摂取状況は,やせにおいて,たんぱく質,鉄,マグネシウム,葉酸が BMI 他区分と比較し有意に少なかった。食品群別摂取状況においては,肉,魚,卵,大豆製品などでやせにおいて少ない傾向がみられたが,有意差はみられなかった。一方で料理摂取状況では,やせにおいて主菜が有意に少なかった。(P=0.002,やせ4.7SV,標準6.1SV,肥満6.1SV)。

    結論 妊娠前 BMI 区分やせの妊婦の課題として,貧血と関連する血液検査項目の数値が低く,さらに栄養素等摂取状況ではたんぱく質,鉄,葉酸など造血に関与する栄養素が他区分に比べて少ないこと,料理摂取状況では主菜が少ないことが示された。これらは低出生体重児のリスク要因または関連要因であり,妊娠前やせの妊婦に対し,適切な体重増加と食物摂取,特にたんぱく質や鉄の供給減となる主菜の摂取を支援することが重要であると示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 眞崎 直子, 松原 みゆき, 林 真二, 福泉 麻衣子, 森本 千代子, 森 マツヱ
    2016 年 63 巻 12 号 p. 750-757
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/19
    ジャーナル フリー

    目的 都市型準限界集落の地域づくりのあり方を検討するため,「阿品台いきいきプロジェクト」を立ち上げ,取り組んできた。その経緯と活動内容を紹介するとともに,今後の課題を検討した。

    方法 1.既存資料の収集,地区踏査,フォーカスグループインタビューを行い地域の健康課題を抽出した。2.地域住民を含めたワークショップを開催し,行動計画を立案した。3.地域のリーダー的人材育成に向けて,健康ボランティア育成教室を開催した。4.看護学実習や学生ボランティア活動を通して,地域住民と学生が交流した。

    結果 地域の健康課題として,①世代を超えた住民相互のつながりが少なく,助け合う体制が整っていない。②独居高齢者や高齢世帯が多く,老老介護や高齢者のひきこもりがみられる。③坂や階段が多く,高齢者の移動が困難であること等が明らかになった。これらの結果より,目指す姿(QOL)を「世代を超えてつながり,助け合う地域」,「あいさつが飛び交う健康な地域」とし,健康目標・行動目標・環境上の目標を設定した。健康ボランティア育成教室では,自分の健康を守る必要性だけではなく他者や地域に働きかけていく必要性を見出すきっかけとなった。

    結論 健康ボランティア育成教室を通して自主的活動の立ち上げには至っていないものの,地域づくりに向けた住民主体のモチベーションの向上につながった。今後も継続して評価を行い,自主的活動をサポートすることが重要である。

  • 長谷川 浩二, 尾崎 裕香, 小見山 麻紀, 高橋 裕子, 中村 正和
    2016 年 63 巻 12 号 p. 758-768
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/19
    ジャーナル フリー

    目的 たばこ規制枠組み条約(FCTC)第14条のガイドラインでは,たばこ対策と禁煙治療を支える土台整備のため「すべての医療従事者は,タバコ使用習慣をたずね,短時間の禁煙アドバイスを行い,禁煙を励まし,必要な場合専門治療施設に紹介する必要がある」と述べられている。禁煙による疾病予防効果,予後改善効果のエビデンスが確立されている疾患分野においては,明瞭に診療ガイドラインへ記載することにより禁煙指導を標準化した治療指針の一つとして位置付ける必要がある。そこで本研究では各学会の診療ガイドラインにおける禁煙の位置づけについて調査研究を行った。また受動喫煙防止活動を積極的に推進しているかという観点から,専門医・認定医が非喫煙者であることを条件にしている学会の調査を行った。

    方法 2014年のアメリカ公衆衛生総監報告書「The Health Consequences of Smoking. 50 Years/ A Report of the Surgeon General Executive Summary」において,喫煙と因果関係ありと判断する上での証拠が確実と判定された疾患を喫煙関連疾患と定義し,喫煙関連疾患に関係する学会を対象に,2016年 4 月現在,ホームページにおいての禁煙宣言や診療ガイドラインにおける禁煙推奨の位置づけを検討した。また受動喫煙防止活動推進の観点から2016年 4 月現在,ホームページで専門医・認定医が非喫煙者であることを条件としていることを公表している学会を調査した。

    結果 調査した24学会中,禁煙宣言を行っているのは 9 学会(38%),診療ガイドラインにおいて喫煙と疾患との関連性を記載しているのは18学会(75%),禁煙推奨に関して記載しているのは15学会(63%)であった。また専門医・認定医が非喫煙者であることを規則で明記している学会は 5 学会であった。

    結論 心血管分野のガイドラインと日本麻酔科学会周術期禁煙ガイドラインは他の分野より禁煙の重要性が強調されているが,それでも米国に比べれば遅れていることが判明した。

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