目的 個人レベルのソーシャル•キャピタル(Social Capital,以下SC とする)と主観的健康感,抑うつとの間には,関連があるとする結果が多いものの一致した結果は得られていない。また,関連に男女でどのような違いがあるのかを明らかにした研究も十分とはいえない。そこで本研究では,地域在住高齢者の個人レベルの SC が,いくつかの交絡要因を調整したうえでも主観的健康感および抑うつと関連するか,男性と女性では関連は異なるかという 2 つを明らかにすることを目的として検討を行った。
方法 対象は要介護認定を受けていない65歳以上80歳未満の高齢者2,400人である。東京都 A 市の住民に実施した郵送自記式質問紙調査のデータを利用した。主観的健康感と抑うつを目的変数とし,説明変数である SC 指標は,認知的 SC(他者に対する信頼と互酬性の規範)と構造的 SC(地区組織への参加)を用いた。調整因子として年齢•経済的ゆとり•教育期間•慢性疾患の既往•高次活動能力•婚姻状況•在住期間を投入した多重ロジスティック回帰分析を行い検討した。
結果 1,776人(男性887人,女性889人,有効回答率74.5%)のデータを分析した。
主観的健康感と関連する認知的 SC 要因は男性では信頼であり,主観的健康感不良に対するオッズ比は,「信頼できない」1.58(95%CI;1.07–2.34,
P=0.022)であった。女性では信頼は主観的健康感に関連せず,互酬性の規範の低さが主観的健康感不良と関連し,オッズ比1.63(95%CI;1.10–2.41,
P=0.014)であった。
抑うつに関しては,男女共通して「信頼できない」,「互酬性の規範が低い」ことが関連した。
「地区組織への不参加」は女性のみの主観的健康感不良と抑うつに関連し,それぞれのオッズ比は1.68(95%CI;1.16–2.44,
P=0.007)と2.24(95%CI;1.49–3.38,
P<0.001)であった。
結論 男性では「信頼できない」が主観的健康感不良と関連し,「互酬性の規範が低い」が抑うつと関連した。女性では「信頼できない」が抑うつと関連し,「互酬性の規範が低い」,「地区組織への不参加」が主観的健康感不良と抑うつの両健康指標と関連した。男女とも関連する SC が低いことが主観的健康感不良•抑うつを促進する方向に働くことが示唆され,関連する SC の要因には男女で違いがみられた。SC と健康には相互の因果関係があると考えられることから,縦断的調査を実施することによって SC が人々の健康にとって望ましい効果をもつかどうかを明らかにすることが今後の課題である。
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