日本公衆衛生雑誌
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60 巻, 2 号
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原著
  • 山口 のり子, 尾形 由起子, 樋口 善之, 松浦 賢長
    2013 年 60 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/26
    ジャーナル フリー
    目的 地域社会全体で子育てに取り組む意識としての「子育ての社会化」の構成概念を明らかにし,その「子育ての社会化」意識・行動と「地域に対する評価」,「ソーシャル・キャピタルの認識」との関係について明らかにする。
    方法 調査Iでは,「子育ての社会化」に関連する文献検討により 7 つの構成概念を仮説として考え,その構成概念を表す58項目を作成し,A 町の20~60歳未満の女性227人を対象に自記式質問紙調査を行った。分析方法は,最尤法,バリマックス回転を用いた因子分析を実施し,クロンバックの α 係数を算出した。調査IIでは,調査Iで得られた「子育ての社会化」意識・行動を示す32項目と「地域に対する評価」15項目,「ソーシャル・キャピタルの認識」10項目について,B 市内の C 中学校区に居住する,就学前の子どもを持つ母親353人,小学生を持つ母親325人,45~60歳未満の壮年期女性383人,計1,061人を対象に自記式質問紙調査を行った。3 つの指標の関係を重回帰分析と共分散構造分析を用い検討した。
    結果 調査Iでは,有効回答148件を分析対象とし,「子育ての社会化」意識・行動の構成概念として,「地域共同子育て意識」,「子育て支援行動」,「子育て交流意識」,「ボランティア意識」,「公的扶助意識」,「子ども育成態度」,「地域へのまなざし」,「支え合い意識」の 8 因子32項目が抽出された。調査IIでは,有効回答375件を分析対象とし,「子育ての社会化」意識・行動を従属変数とし,「ソーシャル・キャピタルの認識」,「地域に対する評価」を独立変数とした重回帰分析の結果,「ソーシャル・キャピタルの認識」が「子育ての社会化」意識・行動に与えている影響は,有意であった。共分散構造分析の結果,「ソーシャル・キャピタルの認識」と「地域に対する評価」は,独立した関係であると仮定したモデルの適合度が高かった。「子育ての社会化」意識・行動を従属変数とし,「ソーシャル・キャピタルの認識」の下位尺度である「信頼」,「社会参加」,「つきあい・交流」を独立変数とした重回帰分析の結果,「つきあい・交流」が「子育ての社会化」意識・行動に与えている影響が有意であることが明らかになった。
    結論 「子育ての社会化」意識・行動に影響する要因として,母親や地域住民の「ソーシャル・キャピタルの認識」が関連していることが示され,その中でも「つながり・交流」が影響していることが明らかになった。
研究ノート
  • 原井 美佳, 大浦 麻絵, 吉川 羊子, 森 満
    2013 年 60 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/26
    ジャーナル フリー
    目的 尿失禁(Urinary Incontinence)は,排尿障害の中でも QOL (Quality of life)に大きく関る疾患といわれている。超高齢社会のわが国において,長い老年期の生活の質(QOL)を保ちつつ生きていくことは,重要な課題のひとつである。そこで本研究は前期高齢者の女性の尿失禁有病率とそのリスク要因を明らかにすることを目的として行った。
    方法 2010年10月,札幌市に居住する65歳以上74歳以下の1,600人の女性を住民基本台帳から無作為抽出し,自記式調査票を郵送した。調査票は,基本的属性,健康状態,現病歴,既往歴,ICIQ–SF (International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form)など24項目群の質問から構成し,郵送法による断面調査を行った。本研究における尿失禁ありの定義は,ICIQ–SF の尿失禁の頻度で,週 1 回以上と回答したものとした。統計解析にはロジスティック回帰分析を用いた。
    結果 802人から同意を得た(回答率50.1%)。対象者の平均年齢±標準偏差は69.8±2.6(歳),自己申告による尿失禁有病率は29.7%であった。ICIQ–SF の平均値(±標準偏差)は全対象者で1.7±2.9,尿失禁あり群で5.6±2.5,尿失禁なし群で0.1±0.5であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,尿失禁ありのオッズ比(95%信頼区間)は,過去の最大体重60 kg 以上で1.94(1.32, 2.85),喫煙指数300以上で1.98(1.18, 3.32),健康状態がよくないほうで2.54(1.47, 4.39),膀胱疾患の既往で2.05(1.36, 3.10),痔疾患の既往で1.62(1.09, 2.40),母の尿失禁の既往で1.72(1.11, 2.69)であった。
    結論 本研究の対象者である前期高齢者の女性802人(65歳以上75歳未満)の自己申告による尿失禁有病率は29.7%であった。今後は追跡調査研究を実施し,尿失禁のリスク要因をさらに解明していく予定である。
  • 田中 惠子, 池田 順子, 森 美奈子, 坂本 裕子
    2013 年 60 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/26
    ジャーナル フリー
    目的 40, 50歳代女性を対象に栄養成分表示(以下成分表示と略す)のナトリウム量や食塩相当量(以下併せて塩分表示と記す)を参考にしている者の特徴を明らかにして,減塩の推進につながる塩分表示の普及と制度のあり方を検討するための基礎的な知見を得ることを目的とした。
    方法 平成23年 5 月に関西在住の短期大学自宅生の保護者に調査を依頼して,有効回答者347人を解析対象者とした。主な調査項目は,塩分表示に関わる知識と態度および塩分摂取に関わる食生活の状況であった。塩分表示の参考状況から対象者を 3 つに区分して,各質問項目との関連性を検討した。
    結果 1)ナトリウム(以下 Na と記す)量か食塩相当量のいずれか一方以上をいつも,あるいは時々参考にしている割合は18.7%であり,どちらもほとんど参考にしていない割合は61.4%であった。2)Na 量と食塩相当量の関係を理解している者は極めて少なく,食塩相当量が Na 量より多いことは知っている割合は4.6%に留まった。また,女性の一日食塩目標量を 6~9 g の範囲と回答した者の割合も8.4%と低かった。3)本人および同居家族に高血圧症の指摘や治療経験が無い者に,塩分表示を参考にしている割合が高かった。また,塩分の取りすぎに気を配り,食卓の調味料をあまりかけないなど,塩分摂取に関わる好ましい食習慣を有する者で塩分表示を参考にしているという関連がみられた。一方,塩分表示を参考にしている者は,干物や煮物,汁物などの摂取頻度が高く,塩分摂取状況を総合的に評価する指標としての塩分スコアは塩分表示の参考のしかたによる差は認められなかった。
    結論 塩分に関わる表示の情報は,十分に参考にされていない結果が示された。塩分表示のあり方として,食塩相当量の併記の必要性が示され,併せて,塩分表示の数値情報を実際の減塩につなげていくための教育の必要性が改めて示唆された。
  • 曽我 洋二, 白井 千香, 伊地智 昭浩
    2013 年 60 巻 2 号 p. 98-106
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/26
    ジャーナル フリー
    目的 生活習慣病は,保健指導等による適切な生活習慣改善により予防可能といわれており,またより早期での予防対策が重要である。若年者において普段の生活習慣とメタボリックシンドロームに係わるリスクの保有との関連を,神戸市若年期健康診査のデータを用い分析,検討を加えた。
    方法 神戸市若年期健康診査を受診した4,912人,30~39歳のデータを用いた。生活習慣病にかかわるとされている内臓脂肪蓄積リスク,血圧リスク,血糖リスクおよび脂質リスクは「標準的な健診•保健指導プログラム;厚生労働省」に基づいて判定した。メタボリックシンドロームに係わるリスクとして内臓脂肪蓄積リスクを保有しかつ,血圧リスク,血糖リスク,脂質リスクのいずれか 1 つ以上保有するものを「メタボリックシンドローム予備群以上保有者(MSR)」それ以外を「非保有者(nMSR)」とした。検診で用いられる質問票のうち生活習慣に関連していると思われる11問を抽出し,これらの設問と MSR/nMSR との関連を調べた。また MSR 群における行動変容のステージと保健指導の希望の有無についても調べた。
    結果 男性,女性ともに人と比較して食べる速度が「速い」と答えた群は「ふつう」もしくは「遅い」と答えた群に比べ MSR の割合が有意に高かった。また,女性においては喫煙習慣,朝食を抜くことが週に 3 回以上ある,就寝前の 2 時間以内に夕食をとることが週に 3 回以上あるに「はい」と答えた群は「いいえ」と答えた群に比べ MSR の割合が有意に高かった。ほかの生活習慣で調整しても,女性においては食べる速度,遅い夕食,朝食抜きはそれぞれ独立してオッズ比にして約 2 倍のメタボリックシンドローム予備群以上の保有に関連していた。MSR 群において,行動変容ステージモデルで,無関心期にあたるものは11.7%,保健指導を希望するものは54.8%存在した。
    結論 30歳代においても食習慣の乱れとメタボリックシンドロームに係わるリスクの保有との関連が示唆されること,またこの年代においてリスクを保有しているものの生活習慣の改善に対する意識は決して低くないことから,30歳代の生活習慣の改善に取り組む事業の必要性は高いと考えられる。特定健診の目的が,将来的な生活習慣病の発症の予防であるのであれば,30歳代へもターゲットを広げる,この年代へ重点的にアプローチするなど,そのあり方を考える必要が在る。
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