日本公衆衛生雑誌
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65 巻, 5 号
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原著
  • 児玉 小百合, 栗盛 須雅子, 星 旦二
    2018 年 65 巻 5 号 p. 199-209
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/29
    ジャーナル フリー

    目的 高齢期の主観的ウェルビーイングに関連する幸福感の,簡便な評価と生存との関連は十分に検討されていない。相互扶助の地域特性を有する沖縄県農村地域在住の自立高齢者を対象に,4段階の選択肢による簡便な幸福感の評価が,3年後の生存の予測妥当性の高い因子になり得るかどうかについて,多様な要因を調整変数として検討した。

    方法 2012年度に沖縄県の農村地域で実施したアンケート調査の回答者から,要支援・要介護認定者および幸福感に回答が得られなかった者を除き,3年後の追跡が可能であった1,471人(男性638人,女性833人)を対象とした。幸福感等の主観的指標は4件法で順序尺度化した。料理10種類の週当たりの摂取頻度は5件法で順序尺度化し,主成分分析の第1主成分を加工食品以外の料理の多い「食の多様性」とした。幸福感の3年間の生存日数に対する総合的分析は,調整変数の欠損値を除いた734人を対象に,Cox比例ハザード分析を行った。性・年齢および3年後の生存と有意な関連(P<0.05)を示した対象者の基本的属性(収入のある仕事・入院経験・喫煙習慣のないこと・運動頻度・BMI区分)および高齢期の健康に関連する変数(幸福感,主観的健康感,自立度,体重変化,外出控えのないこと,連続歩行,転倒骨折がないこと,地域活動,友人や近所付合,外出頻度,加齢役割,病気は自分で防げる,地域信頼,食の多様性)を調整変数とした。幸福感と累積生存率との関連は,カプラン・マイヤー法による生存分析を実施した。

    結果 3年後の生存者は1,387人(94.3%)であった。幸福感の「とても幸福である」と回答した者のうち3年後の生存者は95.9%であり,「幸福でない」の生存者86.4%と比べて有意に割合が高かった。一方で,「幸福でない」と回答した者のうち死亡者は13.6%であり,「とても幸福である」の死亡者4.1%と比べて有意に割合が高かった。多変数調整モデルにおいて,3年後の総死亡のハザード比(HR)を有意に低下させていたのは,幸福感(HR=0.56,95%CI:0.32-0.99),転倒・骨折がないこと(HR=0.26,95%CI:0.11-0.62),喫煙習慣がないこと(HR=0.44,95%CI:0.25-0.77)であった。累積生存率は,幸福感が望ましいほど有意に高かった。

    結論 4段階の選択肢による幸福感の評価は,沖縄県農村地域在住の自立高齢者において,3年後の生存の予測妥当性の高い因子になり得る可能性が示唆された。

  • 岸 知子, 岡田 恵美子, 佐藤 敦子, 石川 雅子, 鵜川 重和, 中村 幸志, 玉腰 暁子
    2018 年 65 巻 5 号 p. 210-222
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/29
    ジャーナル フリー

    目的 北海道は面積が広く,地域により自然環境,主要産業が多様であることから社会経済状況の影響を受ける生活習慣ならびに生活習慣病による死亡率の地域差が大きい可能性がある。本研究は,北海道の地域間における健康格差縮小に取り組む際の資料を得ることを目的とし,北海道の二次医療圏を単位として,死亡率と栄養摂取状況の地域差の実態と,それらの関連を検討した。

    方法 本研究は生態学的研究である。死亡に関する情報の把握には,北海道保健統計年報ならびに北海道内の二次医療圏を単位として作成されている地域保健情報年報を用いた。平成17年~21年のデータから北海道全体と,各二次医療圏の標準化死亡比(SMR)の5年平均値を算出した。栄養素摂取量の把握には,平成16年度健康づくり道民調査のデータを用いた。二次医療圏の死亡率と栄養素摂取量の関連は,Spearmanの相関係数を用いて検討した。

    結果 死亡率は道南,道東の沿岸部で高く,道北地域の内陸部,十勝地域で低い傾向にあった。また,二次医療圏間の栄養素摂取量における最大値と最小値の差に関しては,エネルギーは400 kcal~500 kcal,たんぱく質は20 g~30 g,食塩は4 g~5 g,緑黄色野菜は60 g,淡色野菜は100 gであった。死亡率と栄養素摂取量の関連については,女性でのみ悪性新生物死亡と脂質摂取量,牛乳・乳製品摂取量の間に正の関連,悪性新生物死亡と米の摂取量の間,心疾患死亡と大豆・大豆製品摂取量の間に負の関連が認められた。

    結論 北海道の二次医療圏間における死亡率および栄養素摂取量の地域差の実態が明らかになった。また,女性でのみ死亡率と栄養摂取量との間に関連が認められた。今後は,地域の健康指標,生活習慣に関する情報に加え,社会経済環境に関する情報も含めて地域差の要因について検討することが課題であると考える。

  • 永井 亜貴子, 武藤 香織, 井上 悠輔
    2018 年 65 巻 5 号 p. 223-232
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/29
    ジャーナル フリー

    目的 全国の市町村における本人通知制度の普及状況を明らかにし,バイオバンク・ジャパン(BBJ)の予後調査の結果とあわせて分析することにより,本人通知制度が学術研究を目的とした住民票の写しの利用に与える影響について検討する。

    方法 2015年2~3月に全国の1,741の市町村(特別区を含む)を対象に,本人通知制度の導入状況や同制度の運用形態,学術研究目的の住民票の写しの交付に関する判断基準等について,電話調査を実施した。電話調査で明らかになった本人通知制度の導入の有無と,BBJで2011~2016年度までに実施した計4回の予後調査における住民票の写しの請求に対する交付可否の結果との関連について検討した。

    結果 電話調査の結果,1,741市町村から回答が得られた(回収率100%)。本人通知制度をすでに導入している市町村は28.9%であり,導入予定がある市町村は5.1%であった。学術研究目的での住民票の写しの交付の判断基準については,担当者ごとに住民基本台帳事務処理要領をもとに判断している市町村は84.8%,担当者間で共有する一定の基準などがある市町村は14.4%であった。BBJの予後調査で行った住民票の写しの交付請求に対する交付拒否の理由として,同意書に住民票の利用について明記されていないことが挙げられ,一部の市町村は本人通知制度の開始に伴う交付判断基準の見直しを挙げていた。本人通知制度の導入の有無とBBJの予後調査における住民票の写しの交付請求への可否の結果の間に,有意な関連は見られなかった。

    結論 BBJの予後調査で行った住民票の写しの交付請求の拒否理由の一部に本人通知制度の導入による判断基準の見直しが挙げられていた。多くの市町村に学術研究目的での住民票の写しの交付に関して一定の判断基準がないことから,今後,学術研究目的の住民票の写しの交付判断に必要な研究の公益性に関する基準を示すなど,市町村を支援する取り組みが必要である。

  • 杉原 陽子
    2018 年 65 巻 5 号 p. 233-242
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/05/29
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,地域福祉の担い手として重要な役割を果たしている民生委員の活動継続意欲を促進・阻害する要因を解明することを目的とした。

    方法 東京都区市部の2~3期目の民生委員全数(1,936人)に対して郵送法による質問紙調査を実施した。有効回収数は1,346票(69.5%)であった。

    結果 共分散構造分析の結果,(1)役割ストレスのようなネガティブな感情よりも援助成果といったポジティブな感情の方が民生委員の継続意欲に強く関連すること,(2)仕事の量的負担(役割過重)や役割葛藤よりも役割の曖昧さが継続意欲の低下に関連すること,(3)公的・専門的機関からのサポートは援助成果の増加や役割曖昧の減少を介して間接的に継続意欲を高めることが明らかとなった。

    結論 地域住民による対人支援ボランティア活動を維持するためには,やりがい等の心理社会的恩恵を増やすとともに,役割の曖昧さの問題を軽減する必要があり,そのために公的・専門的機関からのサポートが有効であることが示唆された。

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