日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 4 号
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原著
  • 梅崎 薫, 笽島 茂, 関根 道和, 成瀬 優知, 鏡森 定信
    2003 年 50 巻 4 号 p. 293-302
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 わが国では,高齢期の配偶者死別の影響に関する研究で,ライフスタイルへの影響に関する研究は少ない。高齢期の配偶者死別は女性に多く生じるので,夫と死別した高齢女性のライフスタイルの特徴を明らかにすることを目的とした。
    方法 T 県 4 市 3 町で1994年に夫と死別した高齢女性と,1995年前半の調査時に配偶者が生存していた高齢女性に対し,訪問面接調査を実施した。対照である有配偶女性は,回答した死別女性の年齢,居住地域をマッチングさせて選定した。死別後に家族構成が変化もしくはその可能性がある者を除外して,死別女性872人と有配偶女性643人の計1,515人を分析対象とした。死別前家族構成と年齢階級を組合わせて「夫婦のみ家族」の前期高齢女性と後期高齢女性,「夫以外が同居する家族」の前期高齢女性と後期高齢女性の 4 層に層別した。死別女性での有配偶女性に対する,好ましくないライフスタイルのオッズ比を,既往疾患の有無と,身体的移動能力を多重ロジスティック回帰分析を用いて調整して,求めた。
    結果 死別高齢女性に,「家庭内役割がない」,「趣味がない」,「友人交流がほとんどない」,「ほとんど運動しない」,「眠れないことが多い」,「食事が不規則」という好ましくないライフスタイルを認めた。また家族構成と年齢階級を組み合わせた 4 層での分析から,「夫以外が同居する家族」からの死別女性にも好ましくないライフスタイルを認めた。「夫以外が同居する家族」で死別した女性では,「家庭内役割がない」,「眠れないことが多い」というライフスタイルが認められた。
    結論 配偶者と死別した高齢女性は有配偶の高齢女性に比べて,好ましくないライフスタイルを持つものが高率であった。また「夫以外が同居する家族」での死別女性にも好ましくないライフスタイルを認めた。高齢期に夫と死別した女性に対し,予防的視点から,健康に好ましくないライフスタイルへの保健指導や,予防的な福祉活動および福祉サービス提供等の支援体制を確立する必要がある。家族と同居していて配偶者と死別した女性にも支援の必要性が明らかとなった。
  • 渕野 由夏, 溝上 哲也, 徳井 教孝, 井手 玲子, 藤野 善久, 吉村 健清
    2003 年 50 巻 4 号 p. 303-313
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 わが国では,ライフスタイルと精神的健康度との関連を検討した研究が少なく,その検討も労働者を対象としたものが中心である。本研究では地域住民を対象に,ライフスタイルと精神的健康度との関連を性・年齢階級別に明らかにすることを目的とした。
    方法 1998年,40~60歳代の地域住民2,288人を対象に自記式調査票を郵送し,1,642人(回収率71.8%)から回答を得た。このうち今回の解析項目すべてに回答した1,343人(男性615人,女性728人)を対象とした。精神的健康度の測定には General Health Questionnaire (GHQ) 12項目版を用いた。GHQ 採点法により計算した総得点が 4 点以上の者を高得点群すなわち精神的健康度が低い群と定義し,健康に関連するライフスタイル 8 項目との関連を検討した。GHQ についてはまず,良好なライフスタイルを 1 点として,その総得点の平均値を精神的健康度の違いにより比較した。次に,各ライフスタイル項目について,好ましくないライフスタイルを持つ者が精神的健康度が低くなるオッズをロジスティック回帰分析により計算した。
    結果 GHQ 低得点群すなわち精神的健康度の高い群は低い群に比較してライフスタイル得点が高かった。この傾向は男性では年齢が高いほど強く,女性では若い年齢ほど顕著であった。次にライフスタイル各項目でみると,定期的に運動を行っていないと答えた者は男性では高い年齢階級の方が精神的健康度が低くなるオッズ比が高かったが,女性では反対に若い年齢階級の方がそのオッズ比は高かった。睡眠が 7~8 時間でないと答えた者は女性は40, 50歳代で精神的健康度との関連が強かったが,男性では60歳代で強い関連がみられた。食事に関する項目では,女性に関連を認めた項目が多かったが,塩辛いものの摂取については男性の方がどの年齢階級においても精神的健康度との関連が強かった。
    結論 日本の地域住民において,精神的健康度はライフスタイルと有意に関連していた。この関連の強さは性,年齢階級により異なることが明らかになった。
  • 飯島 佐知子, 福田 敬, 小林 廉毅, 田村 潤
    2003 年 50 巻 4 号 p. 314-324
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 胃がん症例を対象に,診療行為項目別計算に基づく 1 症例ごとの原価計算の方法を開発して原価を算出し,医療資源消費量の指標として用いられている在院日数や診療報酬との関連を検討した。
    方法 対象は,1995年から1997年までに都内の国立 A 病院に入退院して手術適応となった胃がん症例とした。原価は1998年の医業費用および配賦基準となる情報を調査した。労務費の算出のために,外科医師には 1 週間の自己記入式勤務時間調査,看護婦には他計式 1 分間タイムスタディを行った。原価計算の方法は Activity-based costing に基づく計算構造を構築し,費目別計算,部門別計算,診療行為項目別計算,および症例別計算の 4 段階によって計算した。
    成績 1) 対象症例158症例の平均在院日数は,52±16日であり,平均原価は約203万円,平均診療報酬は約184万円であった。
     2) 診療報酬/原価比は,1 入院期間では0.90であった。診療行為分類別では,投薬1.04,処置1.44,検査は1.35であり,診療報酬が原価を上回っていたが,病室・医学管理は0.31であり原価が診療報酬を大きく上回っていた。
     3) 在院日数と原価の相関は0.80(P<0.001)であった。在院日数と診療行為分類別の原価の相関では,手術・麻酔(r=0.03, P>0.05)をのぞいて有意な相関にあり,病室・医学管理は0.97(P<0.001),看護は0.98(P<0.001)と高かったが,他は低かった。
     在院日数の影響を除いた診療報酬と原価の偏相関は0.58(P<0.001)であった。診療報酬と原価の偏相関では,投薬が0.99(P<0.001),処置が1.00(P<0.001)と高かったが,病室・医学管理が0.16(P<0.05)と低かった。
    結論 在院日数は,看護や病室の原価を反映するが,投薬,処置などの治療内容による資源消費の高低は反映しなかった。一方,診療報酬は,投薬,処置,検査については原価よりも過大に見積もり,病室・医学管理について過小に見積もっていた。したがって,在院日数と診療報酬は適切に原価を反映していないと考えられた。
  • 澤 俊二, 磯 博康, 伊佐地 隆, 大仲 功一, 安岡 利一, 上岡 裕美子, 岩井 浩一, 大田 仁史, 園田 茂, 南雲 直二, 嶋本 ...
    2003 年 50 巻 4 号 p. 325-338
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 慢性期脳血管障害者における種々の障害の長期間にわたる変化の実態を明らかにする目的で,心身の評価を入院から発病 5 年までの定期的追跡調査として実施した。調査は継続中であり,今回,慢性脳血管障害者における入院時(発病後平均2.5か月目)および退院時(発病後平均 6 か月目)の心身の障害特性について述べる。
    対象および方法 対象は,リハビリテーション専門病院である茨城県立医療大学附属病院に,平成11年 9 月から平成12年11月までに初発の脳血管障害で入院した障害が比較的軽度な87人である。その内訳は,男64人,女性23人であり,年齢は42歳から79歳,平均59歳であった。方法は,入院時を起点とした,退院時,発病 1 年時,2 年時,3 年時,4 年時,5 年時の発病 5 年間の前向きコホート調査である。
    結果 入院から退院にかけて運動麻痺機能,一般的知能,痴呆が有意に改善した。また,ADL(日常生活活動)と作業遂行度・作業満足度が有意に改善した。一方,明らかな変化を認めなかったのは,うつ状態であり入退院時とも40%と高かった。また,麻痺手の障害受容度も変化がなく,QOL は低いままであった。逆に,対象者を精神的に支える情緒的支援ネットワークが有意に低下していた。
    考察 発病後平均 6 か月目である退院時における慢性脳血管障害者の特徴として,機能障害,能力低下の改善が認められたものの,うつ状態,QOL は変化がみられず推移し,また,情緒的支援ネットワークは低下したことが挙げられる。したがって,退院後に閉じこもりにつながる可能性が高く,閉じこもりに対する入院中の予防的対策の重要性が示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 沖縄県結核サーベイランス検討委員会
    2003 年 50 巻 4 号 p. 339-348
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 沖縄県において結核患者管理の中で実施されている接触者疫学調査や,結核発生動向調査事業(サーベイランス)の質的向上のために,結核菌 RFLP 分析を応用する事の有用性について検討する。
    方法 1996年 4 月以降1997年 9 月迄の期間に,新たに登録された結核患者から分離培養された結核菌に RFLP 分析を実施した。2 人以上の患者から得られた結核菌 RFLP バンド型が一致していることが判明した場合,それらの患者が登録されている保健所(複数に渡る事もあり得る)で,通常実施されている接触者疫学調査内容とその一環として実施した再調査内容について検討し,患者間の疫学的な繋がりの有無・程度に関して分析・検討を行った。
    結果 沖縄県における結核患者を診断している主な病院と,県保健所検査室で分離培養された結核菌を結核研究所に送付して RFLP 分析を実施した。沖縄県と保健所は,RFLP 分析の結果に基づいて疫学調査を実施した。本事業の成績に関しては,沖縄県結核サーベイランス検討委員会によって総合的に検討された。同期間中に菌陽性患者として登録された患者の内,75%以上の患者から得られた結核菌株が結核研究所に送付された。同期間中,229人の結核患者から得られた263検体について RFLP 分析が実施された。その内17のクラスターが判明し,クラスターを構成する患者の数は,2 人から10人であった。その内 5 つのクラスターにおいて,クラスター内の幾人かの人達の間で,家族関係や交友関係があった。あるクラスターでは,RFLP 分析結果が判明する前には明らかでなかった共通感染源が,その後の疫学調査で明らかになった。一方,ある地域に住む多数の患者によって構成されるクラスターが存在し,共通感染源や疫学的繋がりは判明せず,限定された地域における地域流行型結核菌による感染によることが示唆された。複数のクラスターで,通常保健所が実施している接触者疫学調査により判明していた患者間の接触状況も,RFLP 分析の結果より強く支持できた。
    結論 沖縄県においては,RFLP 分析は以下の点について結核対策活動改善のために有用と考えられた。第一に,ある集団における結核感染の疫学的状況を把握する。第二に,通常の接触者調査によっては把握することが出来なかった共通感染源を見つけ出す。第三に,通常の保健師が行う接触者疫学調査活動を支援する。
  • 津下 一代, 早瀬 須美子, 松本 一年, 加藤 昌弘, 山本 昌弘, 佐藤 祐造
    2003 年 50 巻 4 号 p. 349-359
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 糖尿病発症予防・改善のための生活習慣介入を効果的に行うためには,予防体制の整備,保健指導者の資質の向上が必須である。愛知県では平成11年度から糖尿病対策事業を開始し,県糖尿病対策部会を開催するとともに,各保健所を中心とした地域連絡会議を開催し,地域の実情にあわせた予防体制の確立をめざして活動している。さらに,保健指導者の糖尿病についての理解を深めるため糖尿病指導者研修会を開催しているが,その意義について考察した。
    方法 糖尿病学や教育手法,評価法について,体験を重視した実践的な研修会を開催した。栄養・運動指導では対象者にわかりやすく楽しい指導法を,また自らの家庭実践記録や健診データを用いたロールプレイをする中で指導対象者の心理を考え,効果的なアプローチ法について学習した。また地域における糖尿病についての問題に関するグループワークを実施した。愛知県保健所の96%,名古屋市保健所94%,愛知県下86市町村の87%の施設から373人(保健師(77%),栄養士(16%))の参加があった。研修会終了直後,および 6 か月後にアンケートを実施した。
    成績 1)研修会の重要度,理解度について各講座とも良好であり,再研修会開催の要望が多かった。2) 6 か月後のアンケートでは,「指導方法の工夫,改善」60%,「糖尿病関連の事業の評価」53%であったが,「積極的な他機関との連携」に新たに取り組み始めた者は32%,以前から実施していたものを含めても48%,「実態把握や課題の整理」に新たに取り組み始めた者は26%,以前から実施していたものを含めても46%にとどまった。3)研修会参加により糖尿病への関心が高まり,個別健康教育で糖尿病を取り上げる市町村が増えた。
    まとめ 参加した市町村では,糖尿病予防教室のカリキュラムの中に実践的教育手法を取り入れるなど,研修会の効果を実際に確認でき,保健指導者に対して実践的な指導法を研修する機会を設けることの重要性が確認できた。今後職域指導者についても研修活動を広げ,県民がどこでも適切な予防教育の機会が得られるよう継続的な働きかけを行いたい。
資料
  • 藤原 佳典, 新開 省二, 天野 秀紀, 渡辺 修一郎, 熊谷 修, 高林 幸司, 吉田 裕人, 星 旦二, 田中 政春, 森田 昌宏, 芳 ...
    2003 年 50 巻 4 号 p. 360-367
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 地域在宅高齢者の生活機能の変化を,老研式活動能力指標により個人レベルで評価し,「介護予防事業」等の保健事業に活用する際の基礎資料を得ることを目的とした。
    方法 老研式活動能力指標が10点以上である,生活機能のほぼ自立した高齢者74人のうち,観察期間中特記すべき身体・医学・心理的変化およびライフイベントのなかった61人について,1 か月の間隔をおいた test-retest により同指標の得点変動を評価した。評価尺度として,同指標の総得点および三つの下位尺度各得点の一致率(%)を用いた。
    成績 老研式活動能力指標の 1 か月間隔をおいた 2 回の測定で,一致率が95%以上の場合に許容される得点変化をみると,総得点では 1 点以内(一致率95.1%),「手段的自立」では 0 点(同95.1%),「知的能動性」では 1 点以内(同98.4%),「社会的役割」では 1 点以内(同98.3%)であった。
    結論 生活機能のほぼ自立した高齢者においては,老研式活動能力指標の総得点および「知的能動性」と「社会的役割」における 1 点の変動は,測定誤差範囲である可能性がある。言い換えると,総得点とこれら二つの下位尺度では 2 点以上,「手段的自立」では 1 点以上の変動は,測定誤差とは言い難い変化と考えられた。地域高齢者の生活機能の評価において,これらの変化を観察した場合は,生活背景を含めてその要因を明らかにし,適切な個別指導に結びつけることが望まれる。
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