目的 胃がん症例を対象に,診療行為項目別計算に基づく 1 症例ごとの原価計算の方法を開発して原価を算出し,医療資源消費量の指標として用いられている在院日数や診療報酬との関連を検討した。
方法 対象は,1995年から1997年までに都内の国立 A 病院に入退院して手術適応となった胃がん症例とした。原価は1998年の医業費用および配賦基準となる情報を調査した。労務費の算出のために,外科医師には 1 週間の自己記入式勤務時間調査,看護婦には他計式 1 分間タイムスタディを行った。原価計算の方法は Activity-based costing に基づく計算構造を構築し,費目別計算,部門別計算,診療行為項目別計算,および症例別計算の 4 段階によって計算した。
成績 1) 対象症例158症例の平均在院日数は,52±16日であり,平均原価は約203万円,平均診療報酬は約184万円であった。
2) 診療報酬/原価比は,1 入院期間では0.90であった。診療行為分類別では,投薬1.04,処置1.44,検査は1.35であり,診療報酬が原価を上回っていたが,病室・医学管理は0.31であり原価が診療報酬を大きく上回っていた。
3) 在院日数と原価の相関は0.80(
P<0.001)であった。在院日数と診療行為分類別の原価の相関では,手術・麻酔(r=0.03,
P>0.05)をのぞいて有意な相関にあり,病室・医学管理は0.97(
P<0.001),看護は0.98(
P<0.001)と高かったが,他は低かった。
在院日数の影響を除いた診療報酬と原価の偏相関は0.58(
P<0.001)であった。診療報酬と原価の偏相関では,投薬が0.99(
P<0.001),処置が1.00(
P<0.001)と高かったが,病室・医学管理が0.16(
P<0.05)と低かった。
結論 在院日数は,看護や病室の原価を反映するが,投薬,処置などの治療内容による資源消費の高低は反映しなかった。一方,診療報酬は,投薬,処置,検査については原価よりも過大に見積もり,病室・医学管理について過小に見積もっていた。したがって,在院日数と診療報酬は適切に原価を反映していないと考えられた。
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