日本公衆衛生雑誌
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57 巻, 5 号
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原著
  • 新開 省二, 渡辺 直紀, 吉田 裕人, 藤原 佳典, 天野 秀紀, 李 相侖, 西 真理子, 土屋 由美子
    2010 年 57 巻 5 号 p. 345-354
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 廃用症候群モデルを通じた要介護発生を効果的に阻止するには,自立高齢者の中から要介護状態化するおそれの大きい高齢者を適切にスクリーニングすることが必要不可欠である.著者らは,閉じこもり•転倒•低栄養の 3 つのリスクに着目し,それらのリスクを質問紙法により測定する18項目18点満点の「介護予防チェックリスト」を考案した。同チェックリストの要介護状態化リスク測定尺度としての信頼性および妥当性を,地域高齢者を対象とした横断および縦断調査により検証した。
    方法 群馬県草津町在住の70歳以上全高齢者1,039人を対象に実施した訪問面接調査(2001年11月)により,チェックリスト項目について916人の有効回答を得た.このデータをもとに,①各項目の通過率•無答率による不適切な項目の除外,②内的整合法および Good-Poor 分析による信頼性の検討,③IADL 得点(老研式活動能力指標:手段的自立得点)を外的基準とした偏相関分析による併存的妥当性の検討を行った.さらに,2000年 4 月から2005年11月までの介護保険給付記録を調査し,面接調査時に自立状態であった者を対象に,④その後 4 年以内の要介護認定(本研究ではこれを「要介護状態化」と操作的に定義)に対する介護予防チェックリスト得点階級ごとの傾向性および性別•年齢•IADL 得点を調整したチェックリスト得点の寄与度を分析し,予測的妥当性の検討を行った.
    結果 ①通過率が75%以上95%以下かつ無答率が 1%未満となる項目のみを採択したところ,15項目15点満点の尺度となった。②Cronbach の α 係数は0.79, Good-Poor 分析ではチェックリスト高得点群が低得点群より全項目で有意に平均得点が高かった。③IADL 得点との偏相関係数は−0.64で,比較的強い負の有意な相関がみられた.④チェックリスト得点が高い階級ほど要介護認定を受けた者の割合が有意に高かった(傾向性,P<0.001).また,性別•年齢•IADL 得点を調整したチェックリスト得点は,4 年以内の要介護認定に対し,1 点上がるごとのオッズ比が1.21(95%信頼区間:1.10-1.33)[死亡•転出者除外の場合は1.24(同1.11-1.38)]と,有意に寄与していた.
    結論 介護予防チェックリストについて,要介護状態化リスク測定尺度としての信頼性,併存的妥当性および予測的妥当性が確認された.
  • 岡本 玲子, 岩本 里織, 塩見 美抄, 小寺 さやか
    2010 年 57 巻 5 号 p. 355-365
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 専門職が人々に貢献する活動を行うためには,求められる特定の能力を磨くだけでなく,専門職として発展するための姿勢や行動様式を身につける必要がある。本研究の目的は,保健師の専門性発展力尺度(Professional Development Scale for the Public Health Nurse,以下 PDS)を開発し,その信頼性と妥当性を検討することである。
    方法 調査対象は無作為に抽出した135の保健所と115の市町村保健センターに常勤する保健師であり,調査方法は郵送による自記式質問紙調査である。PDS 試案は,先行研究より項目収集•精選して作成された。
    結果 送付施設数250中184(73.6%)から返送があり,返送施設の対象数1,799人中回答者は1,261人(70.1%),うち有効回答は1,112であった。回答率は全項目96%以上であった。項目分析により23項目中 7 項目を削除した。残った16項目について,因子分析(最尤法•プロマックス回転)を行ったところ,4 因子の最適解を得た。因子は自己要因と考えられる「自己責任の能力開発」,「人に学ぶ能力開発」,職能要因と考えられる「専門性の伝承と発展」,「活動原則の励行」であった。Cronbach's α 係数は,PDS 全体で0.93,因子 1~4 では順に0.89,0.85,0.85,0.77であった。PDS 得点と 2 つの外的変数間には0.7の相関がみられた。
    結論 結果より PDS と下位尺度は内的整合性を確保していることが確認された。また PDS は構成概念妥当性と基準関連妥当性を確保していることも確認された。今後 PDS は,保健師自身による学習成果の自己評価や学習目標設定に活用できる。
  • 大塚 敏子, 荒木田 美香子, 三上 洋
    2010 年 57 巻 5 号 p. 366-380
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,学校教育における効果的な喫煙防止教育を検討するため,高校生を対象に現在の喫煙行動と将来の喫煙意思から将来喫煙者となるリスクを 3 群に分け,喫煙に対する認識,主観的規範,禁煙勧奨意欲など喫煙に関連する要因の特徴の違いを分析することを目的とした。
    方法 調査は便宜的に抽出された近畿 3 府県の 4 高等学校 1 年生747人(男子311人,女子436人)を対象とした。質問項目は,性別,喫煙行動,将来の喫煙意思,喫煙の勧めを断る自信,喫煙に関する知識,喫煙に対する認識,主観的規範意識,自尊感情,周囲の喫煙状況および禁煙勧奨意欲である。喫煙行動のリスク状況を把握するため現在および過去の喫煙行動と将来の喫煙意思により対象者を 3 群に分類し,各項目の得点の群間による差の検定を χ2 検定,一元配置分散分析および多重比較を用いて行った。
    結果 各質問項目の平均値は,ほとんどの項目でリスクが高い群ほど,喫煙を断る自信がない,喫煙に対する美化や効用を信じる気持ちが強い,主観的規範意識が低い,周囲に禁煙をすすめる意欲が低いというように好ましくない状況を示した。また,自尊感情以外のすべての項目で女子に比べて男子の方が好ましくないという傾向だった。さらに自尊感情以外の項目で低リスク群と高リスク群,低リスク群と中リスク群の間に有意な差がみられた一方,喫煙に関する知識と禁煙勧奨意欲の項目で中リスク群と高リスク群間に有意な差がなかった。
    結論 喫煙行動の中リスク群は非喫煙者ではあるが,喫煙に関する知識や禁煙勧奨意欲などの項目で,既に喫煙を開始している高リスク群に近い傾向を持っていることが示唆された。高等学校で行われる集団的な喫煙防止教育ではこれら全体の 2 割を占める中リスク群の特徴を考慮した教育内容が必要であると考えられる。
  • 岩下 裕子, 武村 真治
    2010 年 57 巻 5 号 p. 381-389
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 インフルエンザ菌 b 型(Hib)予防接種の接種意志および自己負担料の支払い意思額(WTP)に影響を与える要因を明らかにし,接種率向上のための方策を検討する。
    方法 東京都町田市内の保育園児の保護者1185人に,保育園を通じて調査票を配布,回収し,有効回答数549人(46.3%)を解析した。調査票に Hib に関する情報を提示した上で,接種意志,WTP, Health Belief Model(HBM)の因子(脆弱性,重大性,有効性,障害),属性を設問し,変数間の関連を分析した。
    結果 接種意志がある者の割合は50.3%, WTPの平均値は2,581円で,約 8 割が3,000円以下であった。「認知された脆弱性」,「認知された重大性」,「認知された有効性」の値が高い者,「費用負担感」の値が低い者の方が接種意志があり,WTP が高かった。また年間所得の高い者の方が WTP が高かった。
    結論 接種率を向上させるためには,HBM に基づいた情報提供,特に予防接種の有効性の認知に影響を与える情報(効果,副作用等)を中心に提供する必要があること,所得が低い世帯に配慮して,現状の自己負担料の軽減措置を行う必要があることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 松尾 知明, 室武 由香子, 中田 由夫, 清野 諭, 大藏 倫博, 田中 喜代次
    2010 年 57 巻 5 号 p. 390-402
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome: MS)に着目した特定健康診査と,その結果にもとづく特定保健指導が義務付けられる制度が導入され,全国各地の自治体には効果的な減量支援策が益々求められるようになった。本研究では,袖ケ浦市が筑波大学の研究成果に基づいて開発した減量プログラム(Sodegaura SMART Diet: SSD)が,参加者の体重や MS 構成因子に及ぼす影響,また,2 年後の体重管理に及ぼす影響について検討した。
    方法 2004~2008年に袖ケ浦市が開催した女性対象の減量教室に,192人(40~64歳,教室前の BMI が25 kg/m2 以上もしくは腹囲が90 cm 以上)が参加し,184人(95.8%)が14週間の SSD を修了した。修了者の体重および MS に関連する各項目の教室前後の平均値を比較した。また,2008年の教室参加者32人を介入群,同じく2008年に同市で開催された MS 測定イベントに参加し,14週間後の再測定にも参加した16人の女性(教室参加者と同じ参加規準)を対照群とし,体重および MS に関連する各項目の数値変化の比較をおこなった。さらに,2 年後測定に参加した2004~2006年の教室参加者(122人中96人,参加率78.7%)の体重や腹囲の教室前および教室直後の値と 2 年後の値とを比較した。
    結果 教室修了者184人の体重(66.9±8.2 kg→59.4±7.5 kg), BMI (27.7±2.7 kg/m2→24.6±2.6 kg/m2),腹囲(95.2±7.4 cm→87.8±7.6 cm),MS 構成因子保有数(2.1±1.1個→1.1±1.0個)は有意に減少した。教室前の MS 該当者は184人中61人(33.2%),MS 予備軍該当者は51人(27.7%)であったが,教室後はそれぞれ11人(6.0%),28人(15.2%)に減少した。介入群と対照群の比較では,体重,BMI,体脂肪率,腹囲,中性脂肪,血糖,MS 構成因子保有数の各変化量に群間差がみとめられた。2 年後測定参加者の体重と腹囲は,教室直後からはそれぞれ2.0±3.1 kg, 1.7±4.3 cm 有意に増加したものの,教室前と比較すると,それぞれ−6.2±3.7 kg, −5.9±5.0 cm 有意に減少していた。
    結論 SSD が減量教室参加者の体重管理および MS 改善に有効である可能性が示された。
資料
  • 吉本 好延, 三木 章江, 浜岡 克伺, 大山 幸綱, 佐藤 厚
    2010 年 57 巻 5 号 p. 403-409
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,全国の消防本部の救急搬送記録を用いて,救急搬送を伴った転倒・転落状況について,性別・年齢層別に検討を行うことであった。
    方法 調査期間は平成19年の 1 年間であった。対象は,全国の消防本部37機関の救急隊員により搬送が行われた転倒・転落31,002件(男性14,802件,女性16,200件)とした。調査項目は,受傷者の性別,年齢,転倒・転落の発生場所,発生月,発生季節,転倒・転落後の傷病程度の計 6 項目とした。
    結果 人口1,000人当たりの転倒・転落搬送件数は,高齢層ほど高く,後期高齢者15.9件,前期高齢者6.3件,成人1.9件であった。転倒・転落搬送割合の最も高い場所は,全ての性別・年齢層で住宅であり,次いで,男性は道路以外の屋外,女性は公衆出入場所の順であった。転倒・転落搬送割合の最も高い季節は,男性の後期高齢者を除く全ての性別・年齢層で冬季であり,転倒・転落搬送割合の最も高い月は,男性の後期高齢者を除く全ての性別・年齢層で12月であった。転倒・転落後の傷病程度が重症以上の受傷者の転倒・転落搬送割合は,男女共に若年層より高齢層で高い傾向を認めており,女性の後期高齢者における重症以上の転倒・転落搬送割合は,女性の成人の2.8倍を認めた。
    結論 救急搬送を伴った転倒・転落は,受傷者の性別や年齢層によって転倒・転落の発生原因に違いがあると推察された。
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