日本公衆衛生雑誌
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54 巻, 11 号
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原著
  • 島貫 秀樹, 本田 春彦, 伊藤 常久, 河西 敏幸, 高戸 仁郎, 坂本 譲, 犬塚 剛, 伊藤 弓月, 荒山 直子, 植木 章三, 芳賀 ...
    2007 年 54 巻 11 号 p. 749-759
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,高齢者の介護予防推進ボランティアへの参加による社会・身体的健康および QOL への影響について,1 年間の縦断データをもとに一般の高齢者との比較によって明らかにすることを目的とした。
    方法 初回調査は,2003年に宮城県の農村部に在住する高齢者(70~84歳)を対象として行われた。初回調査に参加した1,503人の中から介護予防推進ボランティアの募集を行った。その結果,77人がボランティアリーダーに登録した。一年後,ボランティア活動による影響を明らかにするために,追跡調査をした。最終的に,介護予防推進ボランティア参加者69人と一般高齢者1,207人を分析対象者とした。ボランティア活動の社会・身体的健康指標および QOL 指標への影響については,ボランティア活動状況を説明変数,社会・身体的健康指標および QOL 指標を目的変数とするロジスティック回帰分析を用いて分析した。
    結果 ボランティア参加者に比べ一般高齢者は,知的能動性(OR:4.51,95%CI:1.60-12.74),社会的役割(OR:2.85,95%CI:1.11-7.27),日常生活動作に対する自己効力感(OR:4.58,95%CI:1.11-18.88),経済的ゆとり満足度(OR:2.83,95%CI:1.11-7.21),近所との交流頻度(OR:3.62,95%CI:1.29-10.16)の項目において有意に低下することが示された。
    結論 高齢者の介護予防推進ボランティア活動への参加は,一般高齢者に比べ高次の生活機能やソーシャルネットワークの低下を抑制することが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 佐藤 眞一, 多門 隆子, 中村 清美, 浅井 美也子, 西村 節子
    2007 年 54 巻 11 号 p. 760-773
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 大阪府食育推進計画を策定するにあたっては,今まで実施してきた取り組みを生かしてより効果的な食育を推進する必要がある。本研究では,このための基礎資料として,関心層,無関心層それぞれのニーズを把握し,行政における限られた資源を有効に使う方法,地域の資源・ボランティアを活用する方法を探るために行った質問紙調査について報告する。
    方法 限られた予算と時間の中で実施できる方法として,行政栄養士の共同研究事業として位置づけ,関心の高いボランティア集団や協力企業等の状況を把握するための方法として各種講演会などの参加者に実施すること,関心の低い層も含む一般集団として児童・生徒・学生およびその保護者に調査を実施することを計画した。各種講演会等においては各本庁から,学生・生徒・児童・保護者については各保健所から調査依頼を行い回収することとした。
    結果 質問紙の有効回収数は7,320であった。食育という言葉も意味も知っていた者は全体の57%を占めたが,ボランティアおよび教育関係者では 8 割,保護者で 5 割,学生で 3 割と大きな差があった。食育に関心がある者は全体の53%であったが,保護者では 4 割,学生では 3 割であった。関心がある理由は,「子どもの心身の健全な発育のために必要だから」が83%,「食生活の乱れが問題になっているから」が75%,「生活習慣病の増加が問題になっているから」が60%で,属性間の差は小さかった。「食育活動を積極的にしている,またはできるだけするようにしている」は,全体で58%であったが,保護者では 5 割,学生では 4 割であった。活動をしていない理由は,「他のことで忙しいから」がどの属性でも最も高いものの,「活動をしたくても情報が入手できないから」が,事業者及び教育関係者で 2 番目に,ボランティアで 3 番目に高かった。農業体験が子どもの食育に必要であるとした者は全体の84%であり,農業体験のない者(全体の51%)においても体験をしてみたい者は54%であった。
    結論 食育の推進者側における情報の流通及び協力態勢の構築が,府民各層への周知と並行して必要と考えられた。農業体験を含む食育推進のための施策が子どもを重点として求められていると考えられた。
資料
  • 若林 チヒロ
    2007 年 54 巻 11 号 p. 774-781
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 平均寿命に差のある 2 市の中学生において,将来の自己の喫煙予想を家族の喫煙習慣や嫌煙経験,健康行動,ライフスタイルとの関連から検討すること。
    方法 2005年 1 月,青森県 A 市,長野県 B 市のすべての公立中学 2 年生を対象に,無記名自記式の質問紙調査票を授業中に配布,回収した。回収票は各399票,447票,欠席者を除き回収率100%。B 市の平均寿命は A 市よりも男性で4.2歳,女性で2.9歳長い。質問項目は,将来の自己喫煙予想,嫌煙経験,家族および母親の喫煙習慣,運動習慣,平均睡眠時間,食生活行動。将来の自己喫煙予想と家族の喫煙習慣,健康行動との関連を性別,市別に分析した。統計的検討には χ2 検定を用いた。
    結果 男子は,将来の自己喫煙予想率(A 市18.7%,B 市10.3%),家族の喫煙習慣率(A 市71.2%,B 市59.9%),母親の喫煙習慣率(A 市31.6%,B 市12.0%)のいずれも A 市の方が高率で,嫌煙経験率(A 市72.7%,B 市84.7%)で低率であった。女子は,家族の喫煙習慣率(A 市75.5%,B 市59.6%)で A 市が高率であった以外に地域差はなかった。2 市ともに女子では母親に喫煙習慣がある人は将来の自己喫煙予想率が高かった。B 市の女子以外では嫌煙経験がある人の方が将来の自己喫煙予想率は低かった。健康行動との関連は,朝食の欠食状況別には統計的には有意な傾向がなかったが,コンビニエンスストアの食品とインスタントラーメンは,B 市男子で利用頻度の高い中学生の方が将来の自己喫煙予想率が高かった。平均睡眠時間は,B 市女子で 6 時間未満の中学生の方が将来の自己喫煙予想率が高かった。
    結論 平均寿命に差のある 2 市を比べたところ,男子では中学生の段階ですでに将来の自己喫煙予想率に開きがあり,平均寿命の短い A 市の方が高率であった。家族の喫煙習慣率も A 市の方が高く,嫌煙経験や母親の喫煙習慣と中学生の将来の自己喫煙予想との関連はいずれの市においても共通した傾向がみられた。中学生の喫煙対策は,本人の喫煙行動のみではなく,家庭環境や地域の社会背景をも考慮して検討することが有用である。
  • 孫 皎, 金川 克子, 大木 秀一
    2007 年 54 巻 11 号 p. 782-791
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 中国では近年,人口の高齢化,医療費の高騰が急速に進んでいる。中国共産党を引退した幹部が入院する幹部病棟の高齢患者は様々な優遇策を受けており,一般病棟と比較して在院日数が長く,再入院も多く,医療費高騰の一因となっていると考えられている。しかし,その実態は不明である。幹部病棟入院高齢患者の実態把握と退院に向けてのニーズ調査を通して幹部病棟問題解決に向けての提言をすることを目的とした。
    方法 中国吉林省の一大学病院を対象に,2000年から2004年までの幹部病棟および2004年の一般病棟の退院記録データをもとに高齢患者の動向を把握した。さらに,2005年 8 月に幹部病棟入院中の患者100人(回収率91%)を対象に,退院に向けてのニーズ等に関する質問紙調査(一部面接を伴う)を実施した。
    結果 幹部病棟の平均在院日数は2000年から2004年にかけて半減したが,一般病棟と比較すれば長かった。重回帰分析の結果,幹部病棟への入院,通算入院回数が多いこと,高齢者および男性患者が在院日数の長期化に寄与していた。幹部病棟に限れば頻回入院の影響が圧倒的であった。質問紙調査の結果,退院できる条件を有しながらも,その後の介護,福祉サービスの遅れと適切な情報の不足のために退院できない患者が多いと考えられた。
    結論 幹部病棟高齢患者の在院日数長期化の背景には医療制度(優遇策)が影響していると思われるが,適切な退院計画と退院後の地域サポートシステムを充実させることも重要であると考えられた。今回の調査結果は中国の幹部病棟入院中の高齢患者の問題を考えていく上で有益な情報になると言える。
  • 橋本 由利子, 大谷 哲也, 小山 洋, 岩崎 基, 笹澤 吉明, 鈴木 庄亮
    2007 年 54 巻 11 号 p. 792-804
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 花粉症発症には花粉への曝露の他に様々な修飾要因が関わっていると考えられているが,その詳細は未だ十分に明らかにされていない。そこで「花粉症有り」の人の宿主要因を中心に花粉症の修飾要因を広範囲に調べることにした。
    方法 1993年に開始した群馬疫学コホート(こもいせ)調査結果およびその第 2 波として2000年に行った47-77歳の男女住民10,898人の生活と罹病・死亡リスクについての調査結果を利用した。既往歴の「花粉症有り」を目的変数として,その他の基本属性,生活習慣・行動,既往症,職業などの項目を説明変数として,ロジスティック回帰分析によって検討した。この分析では,性・地域・年齢で調整した。
    結果 花粉症の既往がある者は全回答者の17.1%であった。「花粉症の既往有り」は男性より女性の方が多く[調整オッズ比(aOR)=1.31, 95%信頼区間(CI):1.17-1.46],村より市の居住者の方が多かった(aOR=1.56, 95% CI:1.39-1.76)。40歳代より70歳代の方が花粉症は著しく少なく(aOR=0.19, 95% CI:0.15-0.24),花粉症の最近 1 年の寛解者は年齢が高くなるにつれ増加した(傾向検定 P 値<0.001)。
     健康面では,「花粉症有り」は,寝つきが悪い・眠りが中断されること,および心臓病・高脂血症・喘息・消化性潰瘍・腰痛・うつ病有りとの間に有意な関連がみられた。糖尿病有りとは逆の関連がみられた。
     生活面では,「花粉症有り」は,収入のある仕事をしている,サラリーマンである,仕事で精神的ストレスが多い,間食をよくする,お腹一杯食べる,食事が規則正しい,甘いものをよく食べる,日本酒・ワインを月 2, 3 回飲む,ビール・発泡酒を飲む,焼酎・ウイスキーをほぼ毎日飲む,よく長い距離を歩く,よく運動をする,よく家の掃除をする,芝居・映画・コンサートなどに行く,食料品・衣類などの買い物に行く,結婚経験がある,子どもが問題を抱えている,年収が1,000万円以上であることと有意な関連が見られた。農業従事者,たばこを吸っていること,パチンコやカラオケによく行くこととは有意な逆の関連がみられた。
     過去の食生活では30歳代の頃パンを摂取したことと弱い関連がみられた。
    結論 花粉症の既往と生活習慣・行動など多くの要因との間に関連性がみられた。花粉症は,老年より比較的若年層に,農村より都市地域に,農業従事者よりサラリーマンに,ストレスの多いことや食べ過ぎあるいは洋風の食生活に,生活水準が高く近代化の進んだ生活により強く関係しているなど,宿主・環境に関る一群の修飾要因とその重みが明らかにされた。
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