日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 10 号
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特別論文
  • 江川 優子, 麻原 きよみ, 大森 純子, 奥田 博子, 嶋津 多恵子, 曽根 智史, 田宮 菜奈子, 戸矢崎 悦子, 成瀬 昂, 村嶋 幸 ...
    2023 年 70 巻 10 号 p. 677-689
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/28
    [早期公開] 公開日: 2023/08/04
    ジャーナル フリー

    目的 日本公衆衛生学会に設置された「平成29/30年度公衆衛生看護のあり方に関する委員会」では,公衆衛生および公衆衛生看護教育の実践と研究のための基礎資料を提供することを目的として,公衆衛生および公衆衛生看護のコンピテンシーの明確化を試みた。

    方法 米国の公衆衛生専門家のコアコンピテンシーおよび公衆衛生看護におけるコンピテンシーを翻訳し,共通点と相違点を検討した。次に,米国の公衆衛生看護のコンピテンシーと日本の公衆衛生看護(保健師)の能力指標の共通点と相違点を検討し,公衆衛生および公衆衛生看護のコンピテンシーの明確化に取り組んだ。

    結果 公衆衛生と公衆衛生看護のコンピテンシーには,集団を対象とし,集団の健康問題を見出し,健康課題を設定し働きかけるという共通点がみられた。しかし,集団の捉え方,健康問題の捉え方と健康課題設定の視点,集団における個人の位置づけに相違があった。公衆衛生では,境界が明確な地理的区域や民族・種族を構成する人口全体を対象とし,人口全体としての健康問題を見出し,健康課題を設定しトップダウンで働きかけるという特徴があった。また,個人は集団の一構成員として位置づけられていた。一方,公衆衛生看護では,対象は,個人・家族を起点にグループ・コミュニティ,社会集団へと連続的かつ重層的に広がるものであった。個人・家族の健康問題を,それらを包含するグループ・コミュニティ,社会集団の特性と関連付け,社会集団共通の健康問題として見出し,社会集団全体の変容を志向した健康課題を設定し取り組むという特徴があった。日米の公衆衛生看護のコンピテンシーは,ともに公衆衛生を基盤とし公衆衛生の目的達成を目指して構築されており,概ね共通していた。しかし,米国では,公衆衛生専門家のコアコンピテンシーと整合性を持って構築され,情報収集能力,アセスメント能力,文化的能力など,日本では独立した能力として取り上げられていない能力が示され,詳細が言語化されていた。

    結論 公衆衛生の目的達成に向けたより実効性のある公衆衛生・公衆衛生看護実践を担う人材育成への貢献を目指し,日本の公衆衛生従事者の共通能力が明確化される必要がある。また,公衆衛生看護では,これまで独立した能力として言語化されてこなかった能力を一つの独立した能力として示し,これらを構成する詳細な技術や行為を洗い出し,言語化していく取り組みの可能性も示された。

原著
  • 中村 睦美, 佐藤 慎一郎, 根本 裕太, 山田 卓也, 武田 典子, 丸尾 和司, 福田 吉治, 北畠 義典, 荒尾 孝
    2023 年 70 巻 10 号 p. 690-698
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/28
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は高齢者における腰痛の予防・改善対策に資する知見を得るために,地域在住高齢者における腰痛の有無と身体活動および座位時間の関連について,年齢区分別,性別に明らかにすることを目的とした。

    方法 2018年1月から2月に山梨県都留市に居住する65歳以上高齢者のうち,要介護認定を受けていないすべての高齢者7,080人を対象とした自記式アンケート郵送回収調査を行った。調査項目は,腰痛の有無,身体活動,座位時間,基本属性,健康状態,生活習慣,社会参加状況に関する項目であった。身体活動は,国際標準化身体活動質問紙(IPAQ)短縮版を用い,週あたりの総身体活動時間を算出し,<150分/週(低身体活動群),150~299分/週(中身体活動群),≥300分/週(高身体活動群)の3群に分けた。座位時間は,IPAQ短縮版を用いて測定し,<480分/日(短座位時間群),≥480分/日(長座位時間群)の2群に分けた。解析は,腰痛の有無を従属変数,身体活動,座位時間を独立変数とし,その他の評価項目を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を年齢区分別,性別に行った。

    結果 調査回答者は4,877人(回収率68.9%,男性2,217人,女性2,660人)であり,腰痛の有訴者は1,542人(31.6%)であり,男性は673人(30.4%),女性は869人(32.7%),前期高齢者は763人(29.8%),後期高齢者は779人(33.6%)であった。腰痛の有無と身体活動の関連について,前期高齢者では男女ともに有意な関連は認められなかった。後期高齢者において,男性では高身体活動群(odds ratio: OR 0.66,95% confidence interval: CI 0.48–0.89),女性で中身体活動群(OR 0.69,95%CI 0.48–0.99)と高身体活動群(OR 0.59,95%CI 0.44–0.80)において腰痛の有無と関連が認められた。座位時間についてはいずれにおいても腰痛の有無と関連が認められなかった。

    結論 腰痛の有訴率は前期高齢者,後期高齢者ともに性別に関わらず3割程度であり,地域全体への腰痛予防介入が必要であることが示唆された。また,後期高齢者において,男性女性ともに身体活動が腰痛の有無と関連することが示唆されたが,座位時間の関連は認められなかった。

  • 熊澤 大輔, 田村 元樹, 井手 一茂, 中込 敦士, 近藤 克則
    2023 年 70 巻 10 号 p. 699-707
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/28
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

    目的 千葉県睦沢町では,2019年に「健康支援型」道の駅を拡張移転した。仮説として,道の駅を利用した高齢者では,利用しなかった高齢者に比べ,主観的健康感不良者が減少したと考えられる。そこで,道の駅利用が主観的健康感不良の減少と関連するのか検証することを目的とした。

    方法 2019年9月の道の駅拡張移転前後の3時点パネルデータを用いて道の駅開設後の利用群と非利用群を比較評価した縦断研究である。道の駅拡張移転前の2018年7月(2018年度調査)と2019年の拡張移転後の2020年11月(2020年度調査)と2022年1月(2021年度調査)の3回,自記式調査票の郵送調査を行い,個票レベルで結合した3時点パネルデータを作成した。目的変数は2021年度調査の主観的健康感不良,説明変数は2020年度調査時点の道の駅利用とした。調整変数は2018年度調査の基本属性と2018,2020年度の外出,社会参加,社会的ネットワークとした。多変量解析は多重代入法で欠損値を補完し,道の駅利用のみを投入したCrudeモデルと,2018年度調査の基本属性(モデル1),2018年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワーク(モデル2),2020年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワーク(モデル3)を投入した各モデルについて分析を行い,修正ポアソン回帰分析を用い,累積発生率比(Cumulative Incidence Rate Ratio, CIRR),95%信頼区間,P値を算出した。

    結果 対象者576人のうち,道の駅利用者は344人(59.8%)であった。基本属性を調整した多変量解析の結果,道の駅非利用群に対して利用群では,主観的健康感不良者のCIRR:0.67(95%信頼区間:0.45–0.99,P=0.043)であり,有意に少なかったが,道の駅開設後の2020年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワークを調整したモデルではCIRR:0.71(95%信頼区間:0.48–1.06,P=0.096)と点推定値が1に近づいた。

    結論 本研究では,3時点パネルデータにより,道の駅拡張移転前の交絡因子を調整した上で,利用群で主観的健康感不良者が減少,つまり不良から改善していた。外出のきっかけとなり,人と出会う機会となる道の駅などの商業施設が「自然に健康になれる環境」になりうることが明らかとなった。

  • 石井 陽子, 富田 早苗
    2023 年 70 巻 10 号 p. 708-717
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/28
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は養育里親を対象に,活動満足感および活動負担感に関連する要因を男女別に検討することを目的とした。

    方法 全国66か所中,協力が得られた32か所の地域里親会に所属する養育里親2,142人を対象に調査を実施した。回答者のうち,データ欠損がなく,里子の受託経験がある者を分析対象者とした。調査内容は,基本属性,養育里親歴,実子の有無,経験した里子(年代,被虐待経験,障害の有無),児童相談所(以下,児相)への満足度,近隣住民との付き合い,近隣への里親であることの公表,友人・里親仲間との付き合い,地区活動,地域里親会の参加状況等を尋ね,地域要因として市町村レベルの居住地人口を把握した。活動満足感および活動負担感はそれぞれ8項目と6項目の質問を作成し4件法で尋ねた。分析は,活動満足感,活動負担感の合計得点を中央値で高低2群に分けて従属変数とし,単変量解析で有意差のあった変数を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 1,052人から回答が得られ(回収率49.1%),752人が分析対象者となった。男性247人(32.8%),女性505人(67.2%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,男性は,児相への満足度の高さと活動満足感の高さ,活動負担感の低さに有意な関連が認められた。女性は,養育里親歴が10年未満,乳児の受託経験あり,里親会参加ありが活動満足感の高さと,実子あり,障害のある里子の受託経験なし,児相への満足度の高さ,地区活動参加ありが活動負担感の低さと有意な関連が認められた。

    結論 養育里親の活動満足感と活動負担感の関連要因は男女で異なっていたが,児相への満足度は男女双方の関連要因であり,里親支援において児相の役割が大きいことがあらためて示唆された。里親の活動満足感の向上や活動負担感の軽減には,児相の専門的支援や丁寧な関わりが重要である。児相や里親会による里親支援がさらに充実するには,自治体の子育て支援部門等を中心に,里親支援体制も包含した子育て世代包括ケアの在り方を検討する必要がある。

公衆衛生活動報告
  • 中山 文子, 岡本 浩二, 大木 いずみ
    2023 年 70 巻 10 号 p. 718-726
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/28
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

    目的 高齢者施設等(以下,施設という)や医療機関の感染対策の知見を含めた研修を実施した川口市と他の自治体の実施した施設対象のCOVID-19に関する研修内容等を比較し,文献等に基づき考察することにより,保健所の行政医師等が感染対策で得た知見を説明することの重要性を明らかにし,自治体の支援のあり方を検討することを目的とした。

    方法 ホームページに掲載されている川口市および他の地方自治体による施設対象のCOVID-19の感染拡大防止策に関する研修内容等を比較した。

    活動内容 川口市では,保健所の行政医師が講師となり,施設を対象に,オンデマンドにより,感染対策の助言で得た知見に基づく感染対策や職員および利用者の健康管理と感染の早期探知などのCOVID-19の感染拡大防止策について説明した。2022年3月から9月の期間に,68自治体が,施設の研修についてホームページに掲載していた。研修講師は,感染管理認定看護師が29自治体(42.6%),医療機関医師が22自治体(32.4%),感染症専門医が8自治体(11.8%)であり,35自治体(51.5%)は自治体職員,保健所職員,行政医師のいずれかが講師であった。研修資料掲載のある41自治体の説明内容については,手指衛生が39自治体(95.1%),PPEの着用に関する感染予防が38自治体(92.7%),職員の健康管理が37自治体(90.2%)であったが,利用者の健康管理は24自治体(58.5%),換気は21自治体(51.2%)だった。川口市を含む一部の自治体では,職員や利用者の感染の早期探知の具体的な手法について説明していた。

    結論 自治体が施設対象のCOVID-19等の感染対策の研修を行うにあたり,職員と利用者の健康管理やエビデンスのある感染の早期探知の方法を説明する必要があること,施設等との関わりで得た知見を活用し,地域の感染対策の課題を踏まえて,保健所の行政医師等が説明することが重要であると示唆された。

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