日本公衆衛生雑誌
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58 巻, 4 号
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論壇
  • 和田 耕治, 太田 寛, 阪口 洋子
    2011 年 58 巻 4 号 p. 259-265
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 新型インフルエンザ A(H1N1)2009が海外で発生した初期に,わが国では停留措置が行われた。停留は,国民の安全•健康を守るための措置である一方,個人の行動を数日間にわたって制限することになるため,人権を最大限尊重して最小限の人を対象に行うべきである。本研究では,今後新たに発生した新型インフルエンザの流行初期において最適な停留措置を行うための意思決定のあり方について検討を行った。
    方法 インフルエンザの感染性や航空機などの公共交通機関での感染の事例,停留の有効性などに関する文献と新型インフルエンザ A(H1N1)2009の流行の初期において停留措置に関わった者へのインタビューから得られた知見をもとに検討を行った。
    結果 停留の意思決定をする際には,停留の必要性の検討,対象者を最低限にするための対応,対象者の人権確保,代替策について検討を行う必要がある。
     必要性の検討では,新型インフルエンザが停留の対象とすべき公衆衛生上の脅威であるか,停留を行うことによって国内での流行のはじまりを遅らせることができる時期であるか,停留措置を緩和するまたは解除するなどの意思決定の場,を検討する。
     停留対象者を最小限にするための対応については,感染者に曝露する人を出さないためにもインフルエンザ様症状のある者が航空機に搭乗しないよう国民への呼びかけ,対象者の選定が感染者との曝露に応じた決め方になっているかを検討する。
     停留が必要と判断された際の対象者の人権確保については,停留期間が最短であるか,対象者の人権(個人情報,施設での快適性)は守られているか,対象者のメンタルヘルスや,慢性疾患などの治療への対応が確保できているか,外国人を停留する場合の各国言語を勘案した十分な説明ができているかを検討する。また,停留代替策の検討として自宅待機などの選択肢を検討する。
    結論 停留措置の意思決定は,流行の初期において判断が求められるため病原性などの情報は限られている。また,停留の意思決定を行うためのエビデンスは現段階で十分には得られていない。そのようななかで考慮すべき点を多面的に検討し,最適な停留措置を意思決定することが求められる。
研究ノート
  • 河邊 眞好, 小嶋 雅代, 永谷 照男, 鈴木 貞夫
    2011 年 58 巻 4 号 p. 266-273
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 公立総合大学のキャンパスおよび医学部附属病院の敷地内禁煙化の実施が,施設利用者の喫煙に対する意識および行動に与える影響を検証する。
    方法 敷地内全面禁煙実施開始から 1 年半後に,学生,教職員および病院利用者にアンケート調査を行い,全面禁煙実施後の意識•行動の変化について尋ね,喫煙歴および所属による特性を比較した。
    結果 全体で3,875部配布し,2,592部を回収した。喫煙率は,医•薬•看護(医療系)学部教職員•学生(所属者)8.1%,非医療系学部所属者17.2%,病院勤務者8.3%,病院利用者16.8%であった。全面禁煙の認知率は,大学および病院勤務者では 9 割近かったのに対し,病院利用者では51%であった。敷地内全面禁煙化による意識の変化について,「特になし」と回答した者は全体の3.8%のみであった。全体の55.9%が「喫煙は良くないという時代の流れを痛感した」と回答し,所属•喫煙歴による差はみられなかった。全面禁煙化について,病院利用者は良い点を積極的に評価していたのに対し,非医療系学部所属者では評価が低く,医療系学部•病院勤務者はその中間であった。「医療従事者の喫煙について」は,全体の過半数が「個人の自由」と回答していた。喫煙者に限ると,医療系学部所属者および病院所属者では95%前後が「個人の自由」と回答したのに対し,非医療系学部および病院利用者では喫煙者でも 9 割未満にとどまった。非喫煙者の 6 割が「タバコの健康影響について十分知らされていない」と考えているのに対し,喫煙者では過半数が「十分知らされている」と回答していた。喫煙の害に関する情報発信源として,喫煙者は所属によらず教育機関を第一に挙げた者が多かったのに対し,禁煙者は国•政府を挙げる者が多く,病院利用者の非喫煙•禁煙者では医療機関を挙げた者が多かった。喫煙者の 4 割近くが全面禁煙化後に喫煙本数が減ったと回答したが,実際に全面禁煙化をきっかけに禁煙した者は 4 人のみであった。
    結論 キャンパスの全面禁煙化の実施により,施設利用者の意識には一定の変化がみられたが,行動への影響は限定的であった。喫煙に対する意識には所属および喫煙歴による違いが大きく,脱タバコ社会の実現のためには,タバコのあり方について社会全体で大いに議論し,意識の溝を埋めていく過程が不可欠である。
  • 佐光 恵子, 中下 富子, 伊豆 麻子, 金泉 志保美, 牧野 孝俊, 福島 きよの, 鹿間 久美子
    2011 年 58 巻 4 号 p. 274-281
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 新潟県中越沖地震による震災直後から学校再開までの学校教育現場における養護教諭の実践活動の実態を明らかにするとともに,災害時の保健室の機能を検討し課題を明らかにすることである。
    方法 新潟県中越沖地震の中心的地震被災地である N 県 A 市の公立学校に勤務する全養護教諭50人を対象に,A 市教育委員会,校長会ならびに A 市養護教諭研究会の許可を得たうえで,同市の養護教諭研修会において調査依頼を口頭および文書にて実施した。後日,返信用封書をもって承諾書の回答をえた養護教諭11人を対象に半構成的面接法によるインタビュー調査を実施し,質的な内容分析を行った。
    結果 被災直後から学校再開までの約40日間の養護教諭の実践活動は 7 つのカテゴリー,「避難所への保健室備品提供と緊急応急的な対応」,「児童生徒の安否確認と健康観察」,「児童生徒の心のケア」,「衛生管理と感染予防活動」,「避難所での継続的支援と他職種との連携」,「学校再開に向けて保健室復元」,「教職員の健康管理」に整理された。課題として,「保健室の環境整備」,「情報支援」,「避難所の運営」,「人的支援」,「養護教諭への支援」が示された。
    結論 震災時の養護教諭の実践活動は,児童生徒の安否確認に始まり,救急処置や衛生管理,感染症予防活動,心のケア等々,多岐にわたっていた。また,養護教諭の拠点でもある保健室の機能が災害には極めて脆弱であることも明らかになった。日本は地震大国であり,いつどこでも起こりうることを考えると,避難所となる学校施設における,災害時における学校保健室の機能と養護教諭の役割を明確にし,確認しておくことは重要である。
  • 中村 恵子, 山田 紀代美
    2011 年 58 巻 4 号 p. 282-291
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 閉じこもりの二次予防に資する効果的な交流支援を検討するため,非「閉じこもり」である虚弱高齢者の交流頻度と身体•心理•社会的要因との関連を明らかにする。
    方法 A 県郊外に在住している虚弱高齢者を対象に,身体機能の測定と面接調査(他記式)を実施した。本研究では交流を「別居子,親戚,友達,近隣の人のいずれかと実際に会って会話をすること,または電話で会話を交わすこと」と定義し,一週間における交流日数を求めた。調査内容は,①基本属性,②身体的要因;視力,聴力,握力,体力,咀嚼力,日常生活動作,移動能力,転倒経験,認知機能,③心理的要因;主観的健康感,うつ傾向,転倒不安,④社会的要因;高次生活活動能力,ソーシャルネットワーク,社会活動である。分析は,交流頻度の規定要因を明らかにするため,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。有意水準は 5%未満とし,分析には SPSS 15.0 J を使用した。
    結果 2007年 4 月~8 月までの調査期間中,61人の研究協力を得た。そのうち,一週間における外出日数が 1 日以上である非「閉じこもり」58人(男性12人,女性46人,平均年齢81.2±6.0歳)を分析対象とした。一週間の交流頻度は平均4.5±2.0日であった。交流頻度と各変数との偏相関係数(年齢補正)をみた結果,男性では有意な相関は認められず,女性では「聴力(低音)」,「聴力(高音)」,「老研式活動能力指標」の 3 変数と有意な相関が認められた。その後,重回帰分析により,女性において「聴力(低音)(β=−.479, P<0.01)」,「老研式活動能力指標(β=.257, P<0.05)」が規定要因として認められ,女性では聴力が良好であり,老研式活動能力指標の得点が高い人ほど,一週間の交流日数が多いことがわかった。
    結論 女性の虚弱高齢者において,交流頻度の多寡には聴力と高次生活活動能力が影響しており,とくにコミュニケーションの基盤となる聴覚機能に着目する重要性が示唆された。交流日数の維持には聴力が最も関連しており,高齢者の交流支援には聴力検査の実施や補聴器への対応など,今まで見落とされがちであった聴覚機能に対する評価やアプローチをしていくことが必要と考える。その上で,手段的自立や社会的役割といった,より高次の生活機能を維持していく必要性が示唆された。
資料
  • 林 江美, 土手 友太郎, 中山 紳, 今西 将史, 広田 千賀, 三井 剛, 大西 圭以子, 杉浦 裕美子, 谷本 芳美, 渡辺 美鈴, ...
    2011 年 58 巻 4 号 p. 292-299
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 国民健康•栄養調査(国民調査と略す),医学会の診断基準(学会基準と略す),特定健康診査および特定保健指導(特定保健指導と略す),労災保険二次健康診断(労災二次健診と略す)はメタボリックシンドローム(Mets と略す)および心•脳血管疾患などの予防対策として実施されているが,目的•対象者•判定基準•該当者区分は異なっている。本研究では各判定基準による該当者の選定状況の差異および基準項目による影響を検討した。
    方法 調査対象は大阪府内の某総合大学における教員と事務員(男性769人•女性415人)であった。2008年度の定期健康診断結果について性•年齢(40歳未満•以上)別に区分し,次に学会基準の「MetS(学会基準)」,国民調査の「MetS が強く疑われる者」,特定保健指導の「積極的支援レベル」,労災二次健診の「該当する」を新たに有病者群と該当区分し,同様に「予備群(学会基準)」,「MetS の予備群と考えられる者」,「動機付け支援レベル」を有病予備群と該当区分した。さらに性•年齢•該当区分別に有病者群および有病予備群割合を判定基準間で比較した。また基準項目や基準値の相違が該当者割合に及ぼす影響について検討した。
    結果 有病者群および有病予備群における該当者割合は判定基準間で有意な差を認めた。両群における同割合は男性が女性に比し高く,ともに40歳以上で高かった。また,特定保健指導よる該当者割合を現行と BMI 項目の除外した場合とを比較すると,男性において殆ど減少せず,女性において有病者群および40歳以上の有病予備群は減少傾向を示した。さらに,特定保健指導における基準値を110 mg/dL 以上として血糖境界域レベル以上群を算出すると現行に比し境界域レベル以上群の有病者群割合は減少傾向を示し,有病予備群割合は増加傾向を示した。一方,男性40歳未満および女性において基準変更により著変はなかった。
    結論 本研究により判定基準による選出状況の差異が明らかにあると考えられた。判定基準項目や基準値の相違による該当者割合への影響に関して,血糖値レベルは学会基準では110 mg/dL 以上,特定保健指導では100 mg/dL 以上であり,この基準値の相違が,男性40歳以上における両基準間の差に大きく関与したと考えられた。血圧レベルは労災二次健診では他基準に比し高く設定され,さらに BMI•血圧•血糖•脂質の全項目を充足する判定基準が,該当者割合の著しい減少の主因と推察された。今後,精度の高い Mets の実態把握には各基準の目的に基づく該当者割合を継続的に検証する必要あると考えられた。また該当者の著明な性差や男性40歳未満の増加により,女性の腹囲基準および対象年齢の再設定も課題と考えられた。
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