日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
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66 巻, 4 号
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原著
  • 奥野 みどり, 上原 徹
    2019 年 66 巻 4 号 p. 177-189
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    目的 保健師がやり取り遊び等を介して乳幼児の社会性や言語発達,微細運動等を評価する半構造化行動観察(Social Attention Communication Surveillance-Japan;以下,SACS-J課題項目)を導入し,自治体乳幼児健康診査(以下,健診)による継続追跡により得られた医学診断を基に,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;以下,ASD)診断との関連を検討した。

    方法 A町で平成23年・24年に生まれ,1歳半健診および3歳児健診のいずれも受診し,平成28年12月まで追跡できた372人を対象に,15か月,20か月(1歳半健診),27か月,38か月(3歳児健診)の各月齢時期の健診と並行し,SACS-J課題項目を用いて保健師が行動特性を評価した。医学診断によるASD診断群と医学診断に至らない定型発達群の2群について各月齢時期の行動特性との関連を統計的に比較した。

    結果 医学診断により,ASD診断8人が明らかになった。ASD群と定型発達群の2群を比較したところ,男児が女児に比してASD群の割合が高く[P<.05],「お座り」・「20か月時点での歩行開始」の獲得時期が定型発達群に比してASD群が有意に遅かった[P<.05]。SACS-J課題項目では,各月齢時期に共通して有意差が認められたのは,アイコンタクト(15か月[P<.05],20か月・27か月・38か月[P<.001],共同注意行動(15か月の「視野外の指さし理解」[P<.001],20か月の「大人」[P<.05],「自分」[P<.01],「応答の指さし」[P<.05],27か月の「自発的提示」[P<.001]),言語発達(15か月[P<.01],20か月[P<.01],27か月・38か月[P<.001])であった。微細運動は,15か月[P<.001],27か月[P<.01]において,定型発達群に比してASD群が有意に高かった。

    結論 保健師による標準化された行動観察評価を1歳半健診前からの早期に導入することで,ASDが疑がわれる児を自治体における公衆衛生活動のレベルで早期に同定し,地域での保健指導や養育発達支援に結び付けられる可能性が示された。

公衆衛生活動報告
  • 大倉 香澄, 福田 奏江, 岡田 賢太郎, 小宮 智, 劔 陽子, 上野 玲子, 緒方 珠代, 佐藤 彩
    2019 年 66 巻 4 号 p. 190-200
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    目的 2016年に発生した熊本地震において,熊本県御船保健所管内では甚大な被害が発生し,80か所を超える避難所に2万人以上が避難する事態となり,県内外からの様々な支援を受けながら被災者支援を行った。今回は,熊本地震後に活動の検証を実施した感染症・食中毒対策および栄養・食生活支援対策の結果と課題について報告する。

    方法 熊本地震発災直後から当保健所が実施した避難所を中心とした被災者支援活動のうち,現状把握や活動のマネジメント等に苦慮した感染症・食中毒対策および栄養・食生活支援対策について,それぞれ検証会議を開催し,問題点や課題の整理を行った。

    活動結果 市町村や外部支援者と連携し,避難所アセスメントや生活環境の改善等を実施したが,避難所数が多かったこと,ライフラインの停止や地震発生時の気候等の影響等により様々な課題が生じた。主な課題としては,保健所や県庁の組織体制,市町村や関係機関との連携体制,支援者の受入準備,町の体制,平常時の備え等が挙げられた。また,今回の被災者支援活動の中で効果的だったものとしては,チェック表等の共通書式や共通ルールの導入,人的支援等が挙げられた。

    結論 今後の災害発生に備え,県(本庁,保健所)の指揮・命令系統や各部署の役割の明確化,市町村や関係機関との連携強化,各機関の窓口の明確化等の体制強化を図るとともに,マニュアルや様式等の関係資料の準備や関係者との共有,平常時からの住民への普及啓発等に取り組んでいく必要がある。

資料
  • 原田 亜紀子, 吉岡 みどり, 芦澤 英一, 木下 寿美, 佐藤 眞一
    2019 年 66 巻 4 号 p. 201-209
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,特定健康診査(特定健診)を受診しなかった者に対し,未受診の理由や健診受診に対する意識を調査し,未受診に影響する要因と現状の問題点を明らかにすることを目的とした。

    方法 千葉県海匝地域にある三市の各国民健康保険(国保)で実施した特定健診の未受診者を対象とし,健診を受けなかった理由,新しい健診制度と国保保険料との関係,健診に対する要望,次年度の健診受診の希望などを調査した。調査対象については,翌年の健診受診の状況も合わせて調査した。各調査項目について,市別,性別,年齢階級別に集計を行い,項目間の関連についてはχ2検定を行った。次年度の健診受診の意向の有無,次年度に実際に受診したかどうかをそれぞれ従属変数とし,関連する要因の検討にロジスティック回帰分析を用いた。さらに,次年度の健診意向と翌年の受診状況を組み合わせ(意向あり・実際に受診,意向あり・実際に受診なし,意向なし・実際に受診なし)を従属変数とし,関連する要因につき名義ロジスティック回帰分析を用い検討した。

    結果 次年度の健診を希望せず,実際に受診しない傾向は,会社員,「通院中・経過観察中」などを未受診の理由にあげた者でみられた。一方で,健診受診の意向がありながら,実際に健診を受診しない傾向は,自営業の者,メタボに該当する者,未受診理由で「健診が日中だった」,と回答した者においてみられた。また,これらの要因とは別に,健診受診率と後期高齢者医療制度への支援金の関連を知らなかった者において,健診受診の意向と実際の健診受診の割合が高かった。

    結論 健診受診の意向と実際の受診行動を組み合わせて,受診に関連する要因を検討することで,未受診者の特徴を分類することが可能であった。未受診者をひとくくりに考えることなく,特徴に応じて切り分け,各々に対し効果的なアプローチを考えていく必要がある。

  • 池田 奈由, 西 信雄
    2019 年 66 巻 4 号 p. 210-218
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

    目的 国民健康・栄養調査(以下,栄養調査)の非協力者を同定するためには,国民生活基礎調査(以下,基礎調査)から得られる親標本とのレコード・リンケージが必要である。レコード・リンケージは原則として,被調査者に割り振られた世帯番号等のキー変数により行われるが,誤った連結および非連結が発生する場合がある。本研究では,栄養調査の非協力者を同定するためのレコード・リンケージのキー変数の組合せについて検討した。

    方法 1988~2015年(2012年除く)の基礎調査と栄養調査の個人データを用いて,栄養調査協力単位区における基礎調査協力者(栄養調査時点の0歳児を除く)と栄養調査協力者のレコード・リンケージを行った。キー変数の組合せには,「都道府県番号,地区番号,単位区番号,世帯番号,世帯員番号」(A),Aから世帯員番号を除き性別,出生年月または年齢を追加(B),Aに性別,出生年月または年齢を追加(C),BとCの二段階(D)の4通りを用いた。連結された協力者,連結されなかった基礎調査協力者(栄養調査非協力者とみなす),連結されなかった栄養調査協力者の3群に分類し,栄養調査協力者の連結率および基礎調査協力者の非連結率を,4通りの組合せの間で比較した。

    結果 レコード・リンケージの対象となった基礎調査協力者は455,854人,栄養調査協力者は335,010人であった。調査年別の栄養調査協力者の連結率は,A(90%台後半),D(90%台前半),B(90%台前半),C(80%台)の順に高かった。Cに比べてAは8~14%ポイント,Bは5~10%ポイント高く,Bに比べてDは0.1~0.4%ポイント高かった。基礎調査協力者の非連結率は,C,B,D,Aの順に高く,Dでは1990年以前に20%台前半,1990年代に30%前後,2000年代に30%台~40%前後で推移した。

    結論 キー変数の組合せにより,連結結果に差異があった。世帯員番号の変更や性別または出生年月,年齢の誤入力,同性の複産児の重複を考慮した二段階のレコード・リンケージにより,最も多くの栄養調査協力者を正確に連結できた。ただし,さらに世帯番号が変更された場合等への対応には限界がある。連結されなかった基礎調査協力者を栄養調査の非協力者とみなす際には,誤った連結結果が依然として存在する可能性があることに留意する必要がある。

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