日本公衆衛生雑誌
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49 巻, 2 号
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論壇
原著
  • 長野 聖
    2002 年 49 巻 2 号 p. 76-87
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 介護老人保健施設入所者の日常生活活動(ADL)能力の変化に関連する機能領域および ADL の変化を評価するための適切な評価尺度を明らかにすること。
    方法 1999年 6 月から2000年 8 月までの期間における大阪府 M 市立介護老人保健施設(以下,施設)の 3 か月以上の入所者123例を分析の対象とした。方法は,厚生省判定基準,Barthel Index(以下,BI),Functional Independence Measure(以下,FIM),英国人口統計情報局社会調査部による尺度(以下,OPCS)を用い,それぞれ入所時と入所 3 か月後に評価した。また,これら評価尺度の「得点の変化度(responsiveness)」を分析した。機能訓練は入所期間における平均回数をもとに,「週 2 回以上」,「週 2 回未満」で区分した。これら評価尺度の得点の分布(天井および床効果),入所中の得点の変化および機能訓練の頻度との関連について分析した。
    成績 厚生省判定基準と BI, FIM および OPCS 得点について,床効果を示した者の人数は FIM が最も少なかった。次に,これら評価尺度の平均得点について,FIM は「入所時」が70.7±30.8点,「入所 3 か月後」が71.6±30.6点であり,有意な得点の増加を認めた。各評価尺度を機能領域別にみると,FIM の「移乗」,「移動」,「階段昇降」の入所時得点がそれぞれ4.6±1.8点,3.8±2.3点,3.0±2.1点,入所 3 か月後の得点がそれぞれ4.8±1.7点,4.0±2.2点,3.2±2.1点であり,いずれも有意な得点の増加を認めた。また,これら移動に関する FIM 3 領域の合計得点の変化度が最も大きかった。さらに,FIM 移動領域の合計得点の変化から「改善」と評価された者の割合を求め,機能訓練頻度と関連のある要因について分析すると,機能訓練頻度が「週 2 回以上」の者は「週 2 回未満」の者に比べて「改善」した者が有意に高い値を示した。
    結論 老人保健施設入所者における ADL 評価について,本研究で用いた評価尺度の中で最適な尺度は FIM であった。なかでも移動領域の得点の変化度は最も大きいことが示された。FIM 移動領域の評価は,入所中の ADL の変化を簡便に評価するために,あるいは中間評価として入所者の ADL を把握するために最適な尺度であると考える。
公衆衛生活動報告
  • 湯浅 資之, 三宅 邦明, 中原 俊隆
    2002 年 49 巻 2 号 p. 88-96
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 世界のとりわけ開発途上国の人口増加は著しく,社会,経済,環境に大きな影響を与えつつある。人口増加率が2.0%と東南アジア諸国の内でも特に高率なフィリピンでは,人口増加は貧困と負の連鎖を形成し発展の大きな足かせになっていると指摘されており,人口問題の緩和は同国の優先的政治課題であった。そこでフィリピン政府は我が国に人口対策における技術協力を要請し,国際協力事業団(JICA)を介した支援が展開されることとなった。
    方法 人口政策における過去の経験則を集約したカイロの「国際人口開発会議(ICPD)行動計画」は,家族計画の半強制によるマクロ的人口抑制を主体とした方策から保健,教育,男女平等の社会的参画実現など社会開発を重視する戦略への転換を提唱した。JICA による技術協力はこの ICPD 行動計画に則り,母子保健や住民参加による地域保健活動など公衆衛生的アプローチに基づいて,フィリピンの人口対策を支援した。
    成果 JICA による「統合母子保健プログラム」は包括的な妊産婦・乳幼児健診を定着させ母子保健の向上に寄与した。また「リプロダクティブ・ヘルス推進プログラム」ではリプロダクティブ・ヘルスの理念を啓発普及した他,家族計画活動への男性の巻き込み,思春期保健活動などモデル事業の開発に貢献した。「地域住民組織支援プログラム」に分類される多様な地域保健活動支援により,住民自身による衛生・保健活動が活発化し自立した継続が図られた。
    結論 当事例は人口家族計画の政府開発援助の一環であるが,カトリック教会の影響が強いフィリピンの文化背景を考慮して避妊具の配布などの家族計画を一切支援せず,専ら公衆衛生的アプローチに基づく地域保健活動を支えてきた。こうした戦略は公衆衛生の有用性を確認した ICPD の理念に適っている。
資料
  • 福田 寿生, 木田 和幸, 木村 有子, 西沢 義子, 金沢 善智, 齋藤 久美子, 三田 禮造, 田鎖 良樹
    2002 年 49 巻 2 号 p. 97-105
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 北東北の一地方都市住民の特定年齢の大多数を対象として,主観的幸福感と抑うつ状態とにどの様な関連が認められ,どの様な生活をしている人が抑うつ状態にならないかということを明らかにすることを目的とした。
    方法 一地方都市に在住している65歳以上の全員を対象者とし,平成10年10月から12月に,自記式のアンケート調査を行った。調査内容は,ADL (activities of daily living)の自立の有無,主観的幸福感,Zung の自己評価式抑うつ尺度(self-rating depression scale,以下 SDS)等について行った。
    成績 すべての年代において男性は,女性に比べてモラール得点が有意に高く,Zung 指数は低い傾向にあった。男女共に年齢が高くなると Zung 指数は,高くなる傾向にあったが,モラール得点は,女性のみ年齢が高くなると低くなる傾向にあった。モラール得点と Zung 指数との偏相関係数を男女別にみたところ,男性は偏相関係数−0.5856(P<0.001),女性は−0.6363(P<0.001)であった。
    結論 主観的幸福感が高い人ほど,抑うつ状態になりにくいことが認められた。また,健やかに老いるためには,健康状態や,活動水準,経済状況等などが重要なことであると改めて認識できた。高齢者の生きがい作り,健康作り,社会活動への普及事業,スポーツ活動のための様々な施策が必要であると思われる。
  • 若本 ゆかり, 荒巻 輝代, 奥田 昌之, 國次 一郎, 瀧田 覚, 小早川 節, 金山 正子, 杉 洋子, 田中 愛子, 芳原 達也
    2002 年 49 巻 2 号 p. 106-113
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 同じ超高齢者であっても,健康で活動的な自立した健常超高齢者と,疾患を有し入院中の超高齢者との相違を把握するために両者の血清中元素濃度を測定し,比較検討を行うことを目的とした。
    対象および方法 健常超高齢者は,1999年 9~11月に住民健診に訪れた高齢者の中で生化学検査結果が正常範囲であり,かつ日常生活活動内容から自立と判定できた85~91歳(平均年齢87.3±1.7歳)の超高齢者,男性18人,女性15人,計33人であった。一方の入院超高齢者は1999年10月に入院中であった85~92歳(平均年齢87.8±2.2歳)の超高齢者,男性14人,女性26人,計40人であった。それぞれ血清中マンガン(Mn),亜鉛(Zn),銅(Cu),鉄(Fe),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),リン(P)濃度(μg/ml)を測定し,両群間の元素濃度の比較と,各元素濃度間および各元素濃度と生化学検査値間の相関関係について検討を行った。
    結果 1. 血清中 Ca, Mg, P, Zn 濃度は健常群のほうが有意に高く,中でも P と Zn 濃度で顕著な差が認められた。一方濃度比の上昇が疾患との関連を示すと報告されている Cu/Zn 濃度比は健常群のほうが有意に低かった。
    2. 両群ともに有意な相関が認められた組み合わせは,血清中元素濃度間では Zn と Ca,血清中元素濃度と生化学検査値間では P と総コレステロールの計 2 組であった。血清中元素濃度間では,両群ともに比較的高い相関係数を示す組み合わせには Zn が含まれていた。また健常群では血清中 Zn と Fe 濃度に特に高い相関が認められた。
    結論 以上の結果から健康で活動的な超高齢者は,疾患を有す超高齢者より血清中元素濃度が高いこと,中でも P と微量元素 Zn 濃度の高いことが認められた。
  • 瀬畠 克之, 杉澤 廉晴, マイク D. フェターズ, 平賀 明子, 大滝 純司, 前沢 政次
    2002 年 49 巻 2 号 p. 114-125
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者の受療行動のメカニズムを調べることを目的に,高齢者が開業医や地域医療機関,高次医療機関にどのようなニーズを持っているのか,主治医に何を求めているのかに関する質的調査を行った。
    方法 65歳以上の高齢者に対してフォーカスグループインタビューを行い,医療機関や主治医に何を求めるのかに関する 8 つのテーマに基づいたグループディスカッションを行った。調査終了後,フォーカスグループで抽出されたデータの考察を補完するため,フォローアップアンケートを参加者全員に行った。
    結果 無床診療所には「医療設備」や「緊急時の対応」に不満を感じる一方で,「(同じ医師による)継続的管理を受けられる」ことや「(診療や投薬に対する)希望を考慮してくれる」ことをメリットとして挙げた。一方,町立病院には「医師が頻繁に変わる」ことや「診療能力に限界がある」ことをデメリットとしながらも「開業医にはない診療科や機器がある」ことや「人柄に惹かれる医師がいる」ことを理由に受診していることが多くのグループで話された。大病院に対しては「設備」,「診療科」,「専門医」をキーワードとして「医療レベルが高く,重症疾患にも対応できる気がする」と表現する信頼感を多くの参加者が語った。また,医療従事者全般に対しては“コミュニケーションの取りやすさ”としての「心のつながり」,すなわち“気軽に話しのできる関係”を求めていることを強調していた。フォローアップアンケートでは,「総合的な診療能力」に対する優先順位が主治医の診療能力に関わるその他の 2 つの要素に比べて有意に低く,一方,主治医のパーソナリテイに関わる要素としては「聞き手としての能力」の優先順位が「話し手としての能力」のそれと有意差をもって高かった。
    結論 今回のフォーカスグループの結果から,患者は医療機関の種類によってニーズを使い分けている可能性が示唆された。特に開業医に対しては“心のつながり”と「適切に専門医へ紹介できる能力」を,大病院には医療機器や複数の診療科に対する期待がより強いことが予想された。また,主治医には全般的に「総合的な診療能力」よりも「専門的な診療」ないしは「専門医に適切に紹介する能力」を,「わかりやすく説明する能力」よりも「話しをじっくり聞いてくれること」を期待する傾向にあることが推測された。
  • 河野 由理, 三木 明子, 川上 憲人, 堤 明純
    2002 年 49 巻 2 号 p. 126-131
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/04/08
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,病院勤務看護婦における職業性ストレスと喫煙の関連を検討することである。
    方法 中部地方の A 県内にある 6 つの一般病院に勤務している2,489人の常勤看護婦を対象として,無記名自記式質問紙調査を実施した。本研究では,基本的属性,喫煙習慣,Job Content Questionnaire 日本語版および努力-報酬不均衡モデル調査票日本語版を含む質問紙を作成した。女性2,017人を対象として基本的属性別および職業性ストレス要因別に喫煙率を比較するとともに,属性を調整したロジスティック回帰分析を行って,職業性ストレス要因と喫煙の関連を検討した。
    結果 看護婦の喫煙率は22.9%であった。基本的属性別では現喫煙者の方が有意に年齢が高く,主任/婦長でスタッフよりも喫煙率が有意に高かった。職業性ストレス要因別では,上司からの支援が低い群,同僚からの支援が低い群,および仕事における報酬が低い群において喫煙率が有意に高かった。しかしながら年齢を調整したロジスティック回帰分析の結果,職業性ストレス要因と喫煙に有意な関連は認められなかった。
    結論 病院勤務看護婦の喫煙率は22.9%であり,わが国の一般女性よりも高い傾向が認められた。病院勤務看護婦において,職業性ストレスと喫煙の関連はあまり強くないと思われた。現喫煙者の約70%が,看護学生時代またはそれ以前に喫煙が習慣化すると考えられるため,今後,看護学生時代からの喫煙行動も含めた検討が必要であることが示唆された。
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