日本公衆衛生雑誌
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59 巻, 12 号
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研究ノート
  • 串田 修, 村山 伸子
    2012 年 59 巻 12 号 p. 861-870
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 トランスセオレティカルモデルの構成概念の核として行動変容ステージと並び変容プロセスがあり,変容プロセスは行動変容に強く関わっているとされる。本研究では,野菜摂取行動に関する変容プロセス尺度を作成し,その信頼性•妥当性を検討した。
    方法 新潟市内の20の企業施設に属する20~59歳の成人男性勤労者を対象に,2009年 9 月に自記式質問紙調査を実施した。行動変容ステージは「1 日に野菜を 5 皿以上食べること」を目標行動として,実施度と行動変容の準備性の 2 段階で構成した評価法を用いた。変容プロセスは海外の既存尺度から項目選定し,「野菜をたくさん食べること」に関する 5 つの認知的プロセス(意識の高揚,情動的喚起,環境の再評価,自己の再評価,社会的解放)と 5 つの行動的プロセス(コミットメント,褒美,援助関係の利用,逆条件付け,環境統制)各 1 項目について,実施頻度をたずねる10項目の尺度としてまとめた。また,変容プロセスに関連する構成概念として,意思決定バランス(pros 2 項目,cons 2 項目)および自己効力感(3 項目)を把握した。信頼性の評価は,Cronbach のアルファ係数を用い検討した。妥当性の評価では,変容プロセス,意思決定バランス,自己効力感の各尺度の項目の因子負荷量により構成概念妥当性を,尺度の得点と行動変容ステージとの間の関連性により基準関連妥当性を検討した。
    結果 回答が得られた600人のうち,527人(平均41.1歳)を解析対象とした。作成した変容プロセス尺度の Cronbach のアルファ係数は認知的プロセス0.722,行動的プロセス0.803と各々一定の信頼性が確認された。因子分析では,変容プロセスが「意識の高揚,情動的喚起,環境の再評価,自己の再評価,コミットメント,褒美,援助関係の利用,社会的解放」と「逆条件付け,環境統制」の 2 因子に分かれ,意思決定バランスの pros と cons,自己効力感の各構成概念とそれぞれ異なる因子に分類された。行動変容ステージとの関連について,認知的プロセスの得点は,前熟考期に比し,熟考期および準備期で有意な高値を示した(P<0.05)。一方,行動的プロセスでは,前熟考期,熟考期,ならびに準備期でステージが上がる程得点が高い方にシフトし(P<0.05),実行期+維持期は前熟考期に対し有意に得点が高かった(P<0.05)。
    結論 作成した変容プロセス尺度は尺度の内的整合性とともに構成概念妥当性および基準関連妥当性も確認されたことから,男性勤労者を対象とした場合,一定の信頼性•妥当性を有すると考えられる。
  • 平野 美千代, 佐伯 和子, 上田 泉, 本田 光
    2012 年 59 巻 12 号 p. 871-878
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,行政機関の保健師に求められる政策に関する能力と必要な保健師基礎教育の内容について明らかにすることを目的とする。
    方法 行政機関に勤める実務経験年数10年以上の係長級以上の職位をもつ保健師 8 人を対象に半構造化面接を実施した。分析は質的記述的分析を行い,分析過程は共同研究者間で検討を重ねながら進めた。
    結果 保健師に求められる政策に関する能力として29サブカテゴリーと13カテゴリーを抽出し,カテゴリー間の関係性を検討し,以下,3 つの中核カテゴリーを抽出した;①住民の健康を念頭においた主体的な取り組み,②行政組織の一員としての視点と技術,③住民の奉仕者としての公務員の姿勢。また,政策に関して必要な保健師基礎教育の内容として18サブカテゴリーと 9 カテゴリーを抽出し,カテゴリー間の関係性を検討し,以下,4 つの中核カテゴリーを抽出した;①保健師に必要な気質の育成,②個々の住民に着目した支援の重要性,③地域をみることができる洞察力の養成,④行政特有の機能とシステムの理解。
    結論 今後,保健師が行政機関で政策立案に携わっていくには,保健師の医療職としての専門能力だけではなく,事務職員と同様に行政職員としての能力が必要と考えられる。また,政策に関する保健師基礎教育は,保健師に必要な人間性やコミュニケーション能力を養うほか,実際の保健事業をもとに政策に関して考える講義•演習•実習をとおした授業展開の重要性が示唆される。
資料
  • 鈴木 朋子, 中村 正和, 増居 志津子, 衣笠 幸恵
    2012 年 59 巻 12 号 p. 879-888
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,わが国において,都道府県や市町村の担当者が,自治体のたばこ規制•対策の到達度を客観的に評価するための方法を作成するとともに,モデル地域において実態調査を行い,その実行可能性を検討することを目的とする。
    方法 自治体のたばこ規制•対策の到達度を客観的に評価するための方法として,「たばこ規制•対策の自己点検票」を提案した。構成内容は,受動喫煙の防止,禁煙支援•治療,喫煙防止,情報提供•教育啓発,たばこ対策の推進体制であった。調査地域として,大阪府および府内43市町村を設定し,2010年 3 月から 5 月にかけて実態調査を行った。調査方法は,「たばこ規制•対策の自己点検票」と記入用のマニュアルを送付し,2009年度の状況について回答を依頼した。大阪府およびすべての市町村から回答が得られた。
    結果 受動喫煙の防止の領域では,官公庁のすべての施設で建物内禁煙以上の規制を行っている市町村は37%,学校は65%,敷地内禁煙以上に限ると官公庁 2%,学校51%であった。禁煙支援•治療の領域では,保健事業において喫煙者全員に禁煙の働きかけを実施している市町村の割合は,母子健康手帳交付時や 4 か月健診では40~60%であったが,国保の特定健診24%,肺がん検診30%,その他のがん検診 0~6%であった。他の領域についても同様に,各市町村の実態を把握することができた。
    結論 作成した「たばこ規制•対策の自己点検票」は,自治体の実態把握とモニタリングを行う上で実行可能なツールであることが示唆された。今後,本方法を用いて全国的な規模で調査が実施されると,地方自治体間の比較や国全体としてのたばこ規制•対策の実態把握が可能となると期待できる。
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