日本公衆衛生雑誌
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53 巻, 4 号
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原著
  • 坂田 由紀子, 新保 慎一郎
    2006 年 53 巻 4 号 p. 257-264
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 食物繊維が大腸癌発病に対し予防効果があることから厚生労働省は,近年食物繊維の摂取量が不足しがちである日本人に対し,その所要量を定めている。
     我々はグアー豆のガム質を低粘度化した水溶性食物繊維(Partially Hydrolyzed Guar Gum 以下 PHGG)の有用性,問題点を確かめるために PHGG を健常な女子学生に負荷し,食物繊維のサプリメントとして PHGG が糞便量,硬度,水分含有量に与える効果について検討した。
    方法 健常な女子学生 9 人に春秋の二期に14日間にわたって同一献立による食事を摂取させ,二期目に食後 1 日あたり12.5 g の PHGG(純度80% 食物繊維10 g に相当)を水に懸濁して負荷した。糞便量の計量,電子水分計による便水分含有量,レオメーターによる硬度を測定し,PHGG 負荷前後の便性状をコントロールと比較した。
    結果 1. 糞便量は PHGG 負荷により 9 人中 4 人で有意に増加したが,2 人で有意に減少した。
     2. 便硬度は PHGG 負荷により 9 人中 3 人で低下したが,4 人で有意に上昇した。
     3. 便水分含有量は PHGG 負荷により 9 人中 5 人で有意に増加し,2 人で有意に減少した。
     4. カチカチ状に分類される硬度は,硬度150 g/cm 以上であった。
     5. コントロールの糞便量と便硬度,便硬度と便水分含有量との間に有意の逆相関がみられ,PHGG 負荷では便硬度と便水分含有量に有意の逆相関がみられた。
    結論 PHGG 負荷により糞便量は 9 人中 4 人で,便水分含有量は 5 人で増加し,便硬度は 3 人で低下した。その効果は一様ではなく個人差がみられた。
  • 野田 博之, 磯 博康, 西連地 利己, 入江 ふじこ, 深澤 伸子, 鳥山 佳則, 大田 仁史, 能勢 忠男
    2006 年 53 巻 4 号 p. 265-276
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 大規模なコホート研究により,住民健診の検査結果とその後の死亡との関連を分析し,パソコン上で簡便に使用でき,日常診療,保健活動に役立つ予測ツールを作成する。
    方法 茨城県内の38市町村における1993年度,40-79歳の住民健診受診者のうち,血圧値のない者また脳卒中および心疾患の既往者を除く92,277人(男性31,053人,女性61,224人)を対象として,住民健診の検査項目とその後の死亡(脳卒中,虚血性心疾患,全循環器疾患,がん,総死亡)との関連を,COX 比例ハザードモデルを用いて解析した。検査項目の12項目のうち,男女別に変数減少法を用いて予測項目を絞り推定モデルを決定した。
    成績 2001年末までの平均8.0年の追跡期間に,総死亡5,260人(脳卒中710人,虚血性心疾患389人,がん2,322人)を認めた。推定モデルにおける予測因子は,男性では,総死亡に関して全項目(高齢,収縮期血圧高値,高血圧治療歴,HDL-コレステロール低値,クレアチニン低値および高値,肝機能異常,糖尿病,Body Mass Index (BMI)低値,現在喫煙,多量飲酒,尿蛋白異常)で有意な関連を示した。全循環器疾患に関しては高齢,収縮期血圧高値,高血圧治療歴,総コレステロール低値及び高値,HDL-コレステロール低値,クレアチニン高値,糖尿病,BMI 低値,現在喫煙,尿蛋白異常で,がんに関しては高齢,高血圧治療歴,HDL-コレステロール低値,クレアチニン低値,肝機能異常,糖尿病,BMI 低値,現在喫煙,多量飲酒,尿蛋白異常で有意な関連を示した。また,男性の脳卒中に関しては高齢,収縮期血圧高値,高血圧治療歴,HDL-コレステロール低値,クレアチニン高値,肝機能異常,BMI 低値,現在喫煙で,虚血性心疾患に関しては高齢,収縮期血圧高値,総コレステロール高値,HDL-コレステロール低値,糖尿病,現在喫煙,尿蛋白異常で有意な関連を示した。女性では有意な関連を示さない項目がいくつかあったものの,選択された項目の傾向は男性とほぼ変わらなかった。
    結論 脳卒中,虚血性心疾患,がんの予防の健康教育において使用できる,5 年以内の死亡率を推定する簡便なパソコン予測ツールを作成した。本ツールは受診者の動機付けに繋がり,健康教育に有用と期待される。
公衆衛生活動報告
  • 藤中 高子, 戸床 しおり, 福本 久美子
    2006 年 53 巻 4 号 p. 277-284
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 山鹿保健所が管轄する山鹿・鹿本地域は,超高齢の地域(高齢化率25.7%)であり,今後口腔ケアを必要とする要介護高齢者が急増することが予想される。そこで,平成15年度から 5 年間の予定で,管内の要介護高齢者のための口腔ケアネットワーク構築を目指している。我々が考える口腔ケアネットワークとは,①関係者すべてが口腔ケアの重要性を認識し,②口腔ケアに関する相談窓口が存在し,③専門的な口腔ケアを必要とする人に適切なサービスを実施できる,という状況が地域で常時行われることである。今回は平成15・16年度の活動状況を報告する。
    事業内容 平成15年度に「歯科に関する検討会」を設置した。要介護高齢者の総合的な歯科保健医療の推進を図るための基礎資料を得るために調査を実施した。平成16年度は,この調査をもとに口腔ケアネットワーク構築のために必要な施策に関して検討した。
    結果 調査対象は,男性183人,女性315人,性別不明 2 人の計500人。65歳未満が23人,65歳以上が474人だった(無回答 3 人)。要介護度は,要支援から要介護 1 までが345人(69%),要介護 2 から 5 までが154人(31%)だった。義歯の使用率は82%で,口腔の手入れは自分で磨くが75%を占めた。過去 3 か月の口腔状態でなんらかの問題があったのが45%で,そのうち「入れ歯があわない」が一番多かった。過去 1 年間で歯科受診をした割合は178人(36%)だった。訪問歯科診療制度を利用したのは35人(7%)にすぎず,介護支援専門員から口腔ケアサービスの提供があったのは83人(17%)だったが,そのうち58人(70%)はサービスを断っていた。最も必要な情報として,相談窓口や治療に関する情報などがあがった。
    結論 1. 要介護者の口腔状態をアセスメントし,口腔内のケアプランが確実に実施されるように関係者の連携を含めた体制整備が必要である。
     2. 口腔ケアに関する情報提供不足は明白で,早急に口腔ケアに関する情報提供のあり方について検討を行う必要がある。
     3. 歯科診療へのアクセス手段の利便性を高める必要がある。
     4. 要介護高齢者を介護する人たちへ効果的な口腔ケアの手技を啓発,普及させる必要がある。
資料
  • 矢野 栄二, 山内 泰子, 前田 洋士, 日下 幸則, 中堀 豊, 本橋 豊, 安村 誠司
    2006 年 53 巻 4 号 p. 285-292
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 全国の大学医学部および医科大学の衛生学公衆衛生学講座が行っている社会医学実習の現状を把握し,改善の方向性を探るため,各校の教授目標を集め,その内容を検討した。
    方法 平成14年12月に,全国の大学医学部および医科大学の衛生学公衆衛生学講座の協力により社会医学実習の教授目標についてのアンケートを行い,その内容の検討を行った。教授目標の記載の有無については,知識・態度・行動の各領域についてそれぞれ複数のキーワードを設け,その出現頻度を領域別に集計した。教授目標の記載内容の質の評価については,9 項目の評価基準を設け,それぞれ 3 段階の判定尺度で複数の判定者が判定を行ったものの項目ごとの平均値を求めた。
    結果 記載の有無については 8 割の大学が一般教育目標(GIO:General Instructional Objective)について記載をしていたが,具体的行動目標(SBO:Specific Behavioral Objective)の記載が認められたのは 6 割の大学においてのみであった。さらに 4 割の大学において GIO と SBO の両方の記載が不十分であった。記載内容の検討の結果,“GIO で学生が主語”の記述がなされている講座は多いが,“SBO で知識・態度・行動のそれぞれの領域に渉った記述”は少ないという傾向がみられた。また,GIO と SBO の区別が明確ではない傾向もみられた。
    考察 医学教育で実習が重要な位置を占めているにもかかわらず,わが国の社会医学実習においては十分な教授目標が設定されていないという傾向が示された。今後わが国の衛生学公衆衛生学教育では,実習に際し一般的な目標だけでなく具体的な行動目標を設定すること,また知識のみに偏らず,態度・行動も含んだ習得すべき能力を明確に示したカリキュラム作りが必要である。
  • 福田 早苗, 渡邊 映理, 小野 直哉, 坪内 美樹, 白川 太郎
    2006 年 53 巻 4 号 p. 293-300
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 近年,その市場の増大が注目される現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法であるが,国内での使用の実態を明らかにした報告は,あまり多くない。本研究では,自記式質問票を用いて,町単位の実態調査を実施し,その使用実態を明らかにするとともに,結果から伺える問題点をとらえる。
    方法 熊本県小国町町民35歳以上64歳以下の3,501人全員を対象とした自記式質問票を実施した(回収率83.6%)。質問票の内容は,「個人の属性」,「健康状態」,「生活習慣」についてであった。現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法の使用経験の有無については,「漢方薬」,「栄養補助食品/健康食品(カルシウム・ビタミンなど)」,「カイロプラクティック/整体」,「マッサージ/指圧」,「イメージ療法/ヨガ/瞑想」,「鍼灸」,「気功/太極拳」,「アロマセラピー/ハーブ」,「温泉」について,それぞれ,「使用頻度」・「医師の処方/薦めの有無」・「目的」・「効果」・「費用」についてたずねた。
    結果 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%であり,全体的に年齢が高いほど,女性であるほど,高かった。最も多いのは,栄養補助食品/健康食品で女性47%,男性35.3%であった。医師に薦められて(処方で)用いている項目で最も多いものは,「漢方薬」であり,女性で24.8%,男性で11.4%であった。もっとも治療院や専門店の利用率が高いのは,カイロプラクティック/整体であった(男性68.6%,女性70.5%)。
    結論 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%と,各国平均に比べても高く,使用・摂取は,女性や年齢が高いものに多かった。利用状況は高く,健康政策上に無視できない影響を与えると考えられる。
  • 國方 弘子, 三野 善央, 中嶋 和夫
    2006 年 53 巻 4 号 p. 301-309
    発行日: 2006年
    公開日: 2014/07/08
    ジャーナル フリー
    目的 精神保健分野において,治療が入院治療から地域社会における治療へと変化したことに伴い,統合失調症患者の治療目標として QOL が重視されるようになってきた。本稿は,先の横断的研究で得た「統合失調症患者の抑うつ気分,非協調性,自尊感情,QOL 因果モデル」の要素間の関係の方向性について,縦断的研究で明らかにすることを目的とした。
    方法 対象者は,在宅生活をしておりデイケアに通所し,初回調査と追跡調査(12か月後)に協力が得られた61人の統合失調症患者とした。調査内容は,WHOQOL-26尺度,自尊感情測定尺度,BPRS,個人特性で構成した。データ分析は,自尊感情と WHOQOL-26尺度の関連,精神症状(抑うつ気分,非協調性)と自尊感情の関連について共分散構造分析を用い,Synchronous Effects Model によって分析した。
    成績 交絡要因としての抗精神病薬 1 日服用量と個人特性をコントロールした上で,自尊感情と WHOQOL-26尺度の因果関係の検証モデル,抑うつ気分と自尊感情の因果関係の検証モデル,非協調性と自尊感情の因果関係の検証モデルを検討した結果,抑うつ気分と非協調性は自尊感情に有意な効果を示さなかったが,自尊感情は WHOQOL-26尺度に有意な正の効果を示した。
    結論 統合失調症患者が WHOQOL-26尺度で高い得点を得るには,自尊感情を高めたり維持することが有効な方法の一つであるという evidence を得た。
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