目的 近年,日本において児童虐待の相談件数が増加している。そのような中,潜在的な被虐待児童を発見するうえで被虐待児童の特徴を明らかにすることが必要であると考える。著者らは近年の研究で要保護児童の口腔内状況と生活習慣が一般児童とどのように異なるのかを明らかにした。そこで,今回,さらにこれらの口腔の健康にかかわる生活習慣やう蝕の治療状況を総合的に評価を行い,虐待児童をスクリーニングするための指数を作成することを目的に本研究を行った。
方法 児童相談所の一時保護所に入所した小学生の57人を対象とした。また小学校に通う575人の児童を対照群とした。ロジスティック回帰分析を用いて,生活習慣およびう蝕治療率の要保護児童との関連性を求め,偏相関係数からスコアを計算した。
結果 要保護児童スクリーニング指数(MIES: Maltreatment Index for Elementary Schoolchildren)は 1-3 年生用,4-5 年生用,また,それぞれ生活習慣のみと生活習慣とう蝕治療率によるものを作成した。1-3 年生の生活習慣のみの MIES は,ねる前に歯をみがきますか(3 点),6 歳臼歯が,かむことに大事な歯であることを知っていますか(2),フッ素を塗ってもらったり,フッ素洗口をしたことがありますか(2),テレビゲーム以外にすきなこと(趣味)がありますか(2),子どもの歯と大人の歯の違いがわかりますか(1)であった。生活習慣とう蝕治療版 MIES ではフッ素を塗ってもらったり,フッ素洗口をしたことがありますか(4),ねる前に歯をみがきますか(3),外から帰ると手を洗いますか(2),乳歯で治療した歯の数が治療していないむし歯の数より多いですか(1)であった。
4-5 年生の生活習慣のみの MIES は,外から帰ると手を洗いますか(4),朝ごはん後,歯をみがきますか(3),ねる前に歯をみがきますか(3),であった。生活習慣とう蝕治療版 MIES では,ねる前に歯をみがきますか(3),外から帰ると手を洗いますか(2),永久歯で治療した歯の数が治療していないむし歯の数より多いですか(5),であった。元のデータをこれらの MIES にあてはめた場合,スクリーニング精度の参考値としての敏感度と特異度の和は生活習慣のみの MIES に比べ生活習慣とう蝕の治療率の MIES が高かった。
結論 小学生用の要保護児童をスクリーニングするための指数 MIES を開発した。生活習慣による要保護児童のスクリーニング指数に,う蝕の治療率の項目を加えることにより,スクリーニングの精度を向上させることが示唆された。
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