日本公衆衛生雑誌
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59 巻, 2 号
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原著
  • 川又 寛徳, 山田 孝, 小林 法一
    2012 年 59 巻 2 号 p. 73-81
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 予防的•健康増進作業療法プログラムが,地域に在住する健康高齢者の QOL の身体の痛みに関する領域,心理的領域,環境領域,そして生活満足度に与える効果をランダム化比較試験によって検証する。
    方法 研究デザインはランダム化比較試験であった。対象は65歳以上の健康な高齢者で,全国 5 か所で,新聞広告等で募集し,募集に応じた220人を,各地区を層としてランダム化し,実験群111人と対照群109人とに割り付けた。実験群は,作業療法の概念的実践モデルである人間作業モデル(以下,MOHO)の構成要素である「能力の自己認識」,「価値」,「興味」,「役割」,「習慣」,「運動技能」,「処理技能」,「コミュニケーションと交流技能」,「物理的環境」,「社会的環境」の10の概念の講義と演習を実施する MOHO プログラム群,対照群は,作業活動を実施する活動群と,無治療群とした。先行研究で対照群内の 2 グループを併せて対照群としたため,今回も併せて対照群として解析をおこなった。プログラムは,実験群,対照群ともに原則として 1 回120分,月 2 回,全15回であり,2008年から2010年にかけて実施した。測定は,the MOS 36–Item Short–Form Health Survey(以下,SF–36)の身体の痛み(以下,BP),WHO/QOL 26(以下,QOL26)の心理的領域および環境領域,そして生活満足度指標 Z を,初回(T1)と最終回(T2)に実施した。実験群と対照群の変化量(T2–T1)の比較は t 検定を用いておこない,検定の有意水準は 5%とした。
    結果 フォローアップ率は実験群71%,対照群72%であった。解析対象は,欠損値のない実験群80人(71.1±4.68歳),対照群79人(71.4±4.66歳)で,年齢を含めたすべての項目において,ベースラインで 2 群間に有意差は認められなかった。変化量(T2–T1)の比較において,SF–36の BP と QOL26の環境領域は,対照群に対して実験群が有意に高かった(順に P=.05, P=.02)。
    結論 MOHO プログラムは,健康な高齢者の老化の生理的変化に対処するニーズや,環境への影響に関するニーズに応え,QOL の身体の痛みに関する領域や環境領域に与える効果が明らかにされた。MOHO プログラムは,作業と健康に関するヘルスリテラシー(作業リテラシー)の向上を図る有効な介入方法として期待できる。
  • 木幡 映美, 寳澤 篤, 柿崎 真沙子, 遠又 靖丈, 永井 雅人, 菅原 由美, 栗山 進一, 辻 一郎
    2012 年 59 巻 2 号 p. 82-91
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 これまでに,心理的ストレスは循環器系へ影響することが示唆されてきたが,自覚ストレスと循環器疾患死亡との関連についての前向きコホート研究では,結果が一致していなかった。本研究では,飲酒状況および喫煙状況について層別化し,結果について検証する。
    方法 1994年,宮城県大崎保健所管内に居住する,40歳から79歳までの国民健康保険(国保)加入者全員(54,996人)へ自記式質問票を配布した。このうち,追跡開始までに国保から異動した者,がん•心筋梗塞•脳卒中の既往者,自覚ストレスに関する質問に無回答であった者を除外した,45,293人(男性21,552人,女性23,741人)を対象とした。1995年から12年間追跡したところ,循環器疾患死亡は1,751人,うち男性994人,女性757人で確認された。Cox 比例ハザードモデルを用いて,自覚ストレスが少ない群を基準とした,他の群の循環器疾患死亡のリスクのハザード比と95%信頼区間(95%CI)を算出した。
    結果 自覚ストレスと循環器疾患死亡との関連について,男性では,自覚ストレスが多い群では少ない群に対し,多変量補正ハザード比(95%CI, P for trend)は,1.43 (1.19–1.87, P=0.006)であり,有意な正の関連が観察されたが,女性では関連は観察されなかった。次に,喫煙状況および飲酒状況について層別化解析を行ったところ,男性では,多変量補正ハザード比(95%CI, P for trend)は,現在喫煙者では1.76 (1.28–2.41, P=0.001),現在飲酒者では1.56 (1.16–2.09, P=0.006),女性でも,各々,1.61 (1.20–2.16, P=0.004), 1.42 (1.08–1.87, P=0.001)であり,男女とも有意な正の関連が認められた。さらに,男性では現在喫煙者であり,現在飲酒者である場合,多変量補正ハザード比は,自覚ストレスの多い群では,少ない群と比較してほぼ 2 倍上昇し,より顕著な正の関連が認められ,有意であった(P for trend<0.001)。しかし,有意な交互作用が認められたのは,男性の喫煙習慣についてのみであった(P for interaction=0.04)。
    結論 現在喫煙者および現在飲酒者では,男女とも有意な正の関連が認められたことから,自覚ストレスと循環器疾患死亡との関連についての男女差は,現在喫煙者および現在飲酒者の割合の男女差により説明される可能性がある。本研究の結果は,ストレス解消の手段としての喫煙習慣や飲酒習慣の見直し,あるいはストレスマネジメントや喫煙,飲酒に対する支援の強化を意味するものと考えられる。
公衆衛生活動報告
  • 石川 みどり, 草間 かおる, 野末 みほ
    2012 年 59 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 青年海外協力隊栄養士において,派遣形態(新規,交替)による活動内容,困難だったこと,活動に困ったときの解決に役立つ情報源について比較し,支援ニーズについて検討することを目的とした。
    方法 2007年,協力隊栄養士の帰国者全員153人を対象に郵送による質問紙調査を実施し,66人から回答を得た(回収率43.1%)。質問項目は派遣形態,派遣時の年齢,日本での栄養士経験年数,派遣国,派遣先,活動内容,カウンターパートの有無,困難だった活動,困難な活動を解決するための情報源等であった。
    結果 派遣形態は,新規が34人,交替が32人であった。新規,派遣ともに派遣時の年齢は20–29歳が多く,日本での栄養士経験年数は 5 年程度であった。活動内容について,新規では地域住民への栄養教育プログラムの開発が多く,交替では病院での疾病治療における栄養管理•栄養指導が多かった。困難だった活動には,新規,交替ともに,配属先での自分のポジションの獲得と活動体制づくり,住民の価値観•生活状況をふまえた活動があげられた。また,新規では配属先にカウンターパートのいた者の割合が交替に比べて有意に低かった。新規,交替ともに困難な活動を解決するために書籍を活用する者が多かったが,交替は新規に比べて複数のチャネルから情報を入手していた。
    結論 派遣形態により,協力隊栄養士の活動内容,配属先のカウンターパートの有無が異なっており,困難だった活動や困難な活動を解決するための情報源から支援ニーズが異なっていることが示唆された。
  • 木村 博子, 仁多見 謙一郎, 水口 藍
    2012 年 59 巻 2 号 p. 101-111
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 ノロウイルスはしばしば大規模な集団発生を起こすが,感染源が明確にされないことも多い。最近,ノロウイルスによる胃腸炎の集団発生におけるウイルスによる環境汚染の証拠が報告されてきた。本研究は,背景に環境汚染が示唆されるノロウイルスによる胃腸炎集団発生の 2 つの事例に遭遇したので,これら 2 つの集団発生に関する記述疫学の結果を報告する。
    方法 ノロウイルスによる急性胃腸炎の集団発生が2009年の 3 月と12月に同一小学校で起きた。本研究では,集団発生の曝露原因を,事例 1 では,第一に児童や教職員が給食を摂取として,第二に S 校舎 2 階中央への立入りとに区分して想定し,事例 2 では,T 校舎 2 階あるいは 3 階への立入りとして想定し,それぞれの有無と累積罹患率を比較した。リアルタイム PCR 法による便検体のノロウイルス検査を行い,さらに陽性検体について遺伝子の相同性検査,遺伝子型検査を実施した。
    結果 有症状者の便検体のノロウイルス遺伝子型は,事例 1 が GII/9 型,事例 2 は GI/4 型であり,両事例とも,発症者の遺伝子相同性は100%一致した。事例 1 では,給食摂取の有無にかかわらず,また,給食摂取が無い児童の中で比較しても,S 校舎 2 階中央の区域の 3 室に胃腸炎発症者が局在し,事例 2 では,同一の給食摂取にかかわらず,T 校舎 2 階と 3 階,特に 2 階に在室した児童に高率に胃腸炎発症者が集中していた。
    結論 事例 1 と事例 2 は,独立した集団発生であり,いずれも発症者が校内の特定の区域に偏在していたことから,その区域のノロウイルスによる環境汚染が感染源として濃厚に疑われた。さらに,発症者の時間的空間的パターンから,事例 2 では,2 階と 3 階に複数の感染源の存在が示唆された。以上の結果から,ウイルスによる広範囲な環境汚染が生じるという認識が,感染制御の上で重要であると考えられた。
研究ノート
  • 木田 春代, 武田 文, 朴峠 周子
    2012 年 59 巻 2 号 p. 112-119
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 幼児を持つ母親の偏食の状況について嫌いな食品の摂取行動と食物摂取の関連性を明らかにするとともに,嫌いな食品の摂取行動が自身の幼少期の食生活とどう関連しているかを明らかにする。
    方法 A 県 B 市の公立幼稚園15か所の園児1,145人の母親を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った。質問項目は,属性,嫌いな食品の摂取行動,嫌いな食品の数,食物摂取頻度,幼少期の共食者,幼少期に受けた食教育とした。回収した797部(回収率69.6%)のうち,嫌いな食品の摂取行動についての回答があった685人(有効回答率59.8%)を分析対象とした。
    結果 嫌いな食品を「食べる•たぶん食べる」者は「食べない•たぶん食べない」者よりも,嫌いな食品の数が少なく食物摂取状況が良好であった。幼少期に受けた食教育16項目との関連をみたところ,下位の 4 項目で有意な関連が認められ,食事づくりを手伝った/おかずは一人分ずつ盛りつけられていた/食事時はテレビを消していた/子ども向けに味付けや切り方が工夫されていた者は,嫌いな食品を食べる傾向にあった。
    結論 幼児を持つ母親の嫌いな食品の摂取行動は食物摂取状況と関連しており,幼少期の家庭において子どもが食べやすい食事が出され食事に集中しやすい食生活環境が整っていたかどうかと関連していたことから,これらの食教育を推進する必要性が示唆された。
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