日本公衆衛生雑誌
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50 巻, 2 号
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論壇
総説
  • 嶋 政弘, 荻本 逸郎, 柴田 彰, 福田 勝洋
    2003 年 50 巻 2 号 p. 83-91
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 日本における過去25年間の喫煙防止教育に関する研究を,その評価が適切に行われているかどうかという視点から考察した。
    方法 「喫煙防止」および「禁煙教育」をキーワードとして検索した論文の中から,児童および生徒を対象として,実際に喫煙防止教育や指導が行われた研究を対象とした。まず,研究デザインを評価するにあたって,「定期健康診断に関するカナダ研究班」による「証拠の質」における 5 つの類型を参考に,「準実験的研究法」と言えるための 3 項目(対照群設定の有無,教育群および対照群に対する事前調査と事後調査の実施の有無)について各論文を調べた。他に,各調査の回収状況,個人別観察の有無,評価対象群,前後比較等の比較方法,評価の観点について調べた。
    結果 対象論文27編のうち,対照群を設定しているものは全体の約40%であり,全体の30%で事前調査が実施されていなかった。事後調査の内,教育後 2 週間以内に実施した直後調査のみのものが10編,一定期間後の追跡調査のみのものが 5 編,両調査を行ったものが10編の外,成人期まで追跡したものが 5 編あった。全体の30%にあたる 8 編が準実験的研究であり,これらはすべて「証拠の質」におけるII-1 に該当していた。研究評価のほとんどが群間比較で,個人変容をみているものは 1 編であった。
    結論 研究デザインに関しては,全体の 4 分の 3 において何らかの問題があった。対照群の設定場所は,校内と校外がほぼ半々であったが,可能ならば校内外に設定することが望まれる。事前調査は不可欠であり,事後調査は可能ならば対象者が成人に達するまでの追跡調査が望ましい。そのための個人同定や追跡のための情報把握の工夫が求められる。解析にあたっては,変容の指標を明確にするとともに解析対象を吟味し,セレクションバイアスへの配慮を怠るべきではない。健康教育の評価方法の質を改善していくためにも,疫学的研究法に関する理解の徹底が重要である。
原著
  • 神宮 純江, 江上 裕子, 絹川 直子, 佐野 忍, 武井 寛子
    2003 年 50 巻 2 号 p. 92-105
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 地域で暮らす在宅高齢者の健康実態調査に基づき,高次活動能力(生活機能)の年齢による変化と生活機能の維持に関連する因子を分析し,また同地域の老人クラブリーダー群の生活機能等の調査分析も加えて,高齢者の健康な寿命への支援内容を検討することを目的とした。
    方法 ①無作為に抽出した65歳以上の高齢者1,000人と②老人クラブリーダー122人を対象に,東京都老人総合研究所開発の活動能力指標・幸福感尺度・生活習慣・健康に関する34項目からなる調査を行った。生活機能に関連する因子の分析には Logistic 回帰分析を用いて多変量的に解析を行った。また老人クラブリーダー群は性・年齢を一致させたコントロール群との比較を行った。
    成績 1. 生活機能は年齢階層と負の相関がみられ,後期高齢になるほど低下した。年齢による生活機能の落ち込みは男性に比べて女性で大きかった。特に手段的自立の落ち込みは,女性の高齢後期で顕著であった。
     2. 生活機能を高く(活動能力指標高得点≧12点)維持するのに関連する因子を多変量的に解析した結果,①趣味がある ②夫婦暮らし ③運動をする習慣あり ④老いに対する肯定的態度 ⑤心理的高い安定感 ⑥栄養のバランスを考えて食べる ⑦忙しい方だ ⑧友人・知人と話す機会が週一以上ある,が正の,①年齢階層 ②一人暮らし ③たばこを吸う,が負の因子として抽出された。
     3. 老人クラブリーダー群においてはコントロール群に比べて,年齢による生活機能の落ち込みが緩やかで高齢後期まで高く維持され,また,①趣味あり ②外出ほぼ毎日 ③運動ほぼ毎日 ④友人等の会話ほぼ毎日 ⑤役割あり ⑥忙しい ⑦健康と思う,の頻度割合が,また,⑧モラールスケール総得点 ⑨その下位領域(老いに対する肯定的態度)得点も高かった。
    結論 バランス良い食事,運動する習慣,趣味,役割,人との交流の他,肯定的な老いへの態度,心理的に安定感を持つことが高齢者の生活機能の維持に関連する可能性が示唆された。老人クラブリーダー群は生活能力維持の点で,好ましい生活をしていることが推測された。
    高齢後期女性の生活機能,特に手段的自立の衰えに対し早期からの予防的取り組みが必要である。
  • 石原 融, 武田 康久, 水谷 隆史, 岡本 まさ子, 古閑 美奈子, 田村 右内, 山田 七重, 成 順月, 中村 和彦, 飯島 純夫, ...
    2003 年 50 巻 2 号 p. 106-117
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 思春期の肥満は成人肥満に移行することが多く,学童期あるいは,それ以前の肥満の対策が重要とされている。本研究は,縦断研究により思春期の肥満と幼児期の生活習慣,家族関係および体格等との関連を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法 1987年 4 月から1991年 3 月に山梨県塩山市で出生した児を対象として,1 歳 6 か月,3 歳児健康診査時の質問票とその時の身長,体重の実測値,また,思春期は2000年 4 月の健康診断時の身長,体重の実測値を解析に用いた。平成12年度の学校保健統計調査結果の年齢,性,身長別の平均体重を標準体重として,肥満度を算出し,20%以上を肥満と判定した。1 歳 6 か月,3 歳時の体格についてはカウプ指数を用い,生活習慣については健康診査時の調査票の生活習慣項目を用いて,思春期の肥満との関連について解析した。
    結果 1 歳 6 か月児健康診査時の質問票の回収数は883人で,思春期まで追跡可能であった児が737人であった(追跡率83.5%)。平均追跡期間は10年11か月であった。
     1 歳 6 か月時と 3 歳時のカウプ指数高値群において有意に思春期の肥満者が多くオッズ比はそれぞれ2.61 (95%信頼区間:1.11-6.12)と5.34 (2.54-11.23)であった。また,母親の肥満群において有意に思春期の肥満者が多く,オッズ比は5.32 (2.67-10.60)であった。
     生活習慣項目では,1 歳 6 か月時の「室内で一人で遊ぶことの多い」のオッズ比が3.01 (1.01-8.99),また,3 歳時の「おやつの時間を決めずにもらっていた」のオッズ比が2.12 (1.25-3.61)で思春期の肥満のリスクであった。食品項目では,「牛乳」摂取頻度のみが思春期の肥満と有意な関連を示し,オッズ比0.63 (0.41-0.95)であった。
     共分散構造解析を行い逐次因果最適モデルを求めた。3 歳時の体格,母親の体格,遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取は思春期の体格に影響を与えていた。また,母親の体格は子どもの要求の応じ方に影響しており,子どもの要求の応じ方はおやつの取り方に影響を与えていた。
    結論 思春期の肥満は,1 歳 6 か月と 3 歳時の体格,母親の体格,幼児期の遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取と関連があった。遺伝要因が強いことが確認されたが,幼児期の生活習慣も思春期の肥満と関連していることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 中山 文子, 柳 久子, 湊 孝治, 戸村 成男
    2003 年 50 巻 2 号 p. 118-129
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 65歳以上の高齢者とその介護をになうであろう20歳~64歳の家族を対象とし,訪問に関する周知度・希望および拒否の理由等について調査し,老人保健法に基づく市町村の訪問指導あるいは訪問看護ステーションによる訪問看護のサービスの需要を予測し,保健サービスの質の改善を図るとともに介護保険導入以降の施策に関する基礎資料とすることを目的とした。
    方法 水海道保健所管内の65歳以上の高齢者31,238人のうち,選挙人台帳から無作為に抽出した65歳以上の住民8,940人と,その64歳以下の家族7,984人に,平成10年12月下旬,選択式による自記式調査票を郵送し,1)高齢者の寝たきり度,2)家族構成,3)訪問指導あるいは訪問看護の周知度,4)訪問指導あるいは訪問看護を受けた経験,5)訪問指導あるいは訪問看護の希望,6)訪問指導あるいは訪問看護を希望する理由および希望しない理由等を調査し,サービスの利用希望に関連する要因を分析した。
    結果 老人保健法に基づく市町村の訪問指導については,65歳以上の高齢者で,名前だけでなく内容も知っているのが2,474人(42.8%)であり,64歳以下の家族では,1,643人(34.4%)であり,訪問看護ステーションによる訪問看護では,それぞれ,1,635人(28.3%), 1,075人(22.5%)であり,両サービスともに,内容も知っているのは半数に満たなかった。65歳以上の高齢者より,64歳以下の家族の方がどちらのサービスも利用希望が多く,また,65歳以上の高齢者では,訪問を受けた経験がある方がない者より訪問を希望をする者の割合が多かった。
    結論 今後,サービスの周知度および訪問の経験者が増加すると思われ,また,64歳以下の家族が高齢化し,さらに,両サービス需要が増加する可能性があると思われた。
資料
  • 高橋 央, 加來 浩器, 田中 毅, 内田 幸憲
    2003 年 50 巻 2 号 p. 130-135
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 我が国と関係が深い国々で,検疫所や保健環境衛生部局が実施している人獣共通感染症とベクターサーベイランスが,どの疾患に対して,どのように実施されているかを,日本の現状と比較する。
    方法 我が国との交流が頻繁な10か国について,質問票の郵送とサーベイランス担当部局への直接訪問により,サーベイランスの対象疾患,対象ベクター,実施期間や範囲,実施態勢,情報還元の方法などについて調査した。
    結果 8 か国からの回答では,すべての国が人獣共通感染症とベタターサーベイランスを行っていた。対象疾患は国際保健規則に則ったもの,各国の疾病対策上より必要と考えられる感染症を優先的に実施していた。サーベイランスの実施態勢は,ベクター個体数の定期集計,期間限定のべタターからの病原体検索,問題発生時の集中的な病原体検索に分けられた。
    結論 本調査を通じて,人獣共通感染症とベクターサーベイランスの重要性,および対象疾患や運用方法の詳細の違いが分かった。この結果を日本のより有用で効率的なサーベイランスシステム作りに利用していくべきである。
  • 光橋 悦子, 李 廷秀, 川久保 清
    2003 年 50 巻 2 号 p. 136-145
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 地域住民を対象に行われた短期減量指導プログラム修了後の減量の継続性と,これに関連する生活習慣要因について検討することを目的とした。
    方法 対象は平成 4 年から11年までの過去 8 年間に,都内の運動型健康増進センターで行われた12週間の減量プログラムを修了した243人とした。この減量プログラムでは個別の栄養・運動指導を含め,毎週 1 回集団指導および有酸素運動を行っている。対象者に平成11年11月,郵送調査を行った。調査票には調査時点での体重,1 日の平均歩数,食習慣などの項目を設定した。
    結果 調査票の回収者数は128人(回収率54.0%),回答者の平均年齢は51.6±9.6歳であり,減量プログラム修了後平均 4 年経過していた。調査時の体重について回答した126人で分析すると,プログラム参加前の平均 BMI は26.7±2.6 kg/m2,プログラム修了時では25.5±2.6 kg/m2 であった。調査時での平均 BMI は25.8±2.9 kg/m2 であり,減量プログラム修了時より有意に高かったが,参加前より有意に低かった(いずれも P<0.01)。
     減量プログラム修了後 BMI が 1 以上増加していた者は54人(42.9%)であった(リバウンド群)。また BMI が 1 以上減少していた者は24人(19.0%),減量プログラム修了後 BMI24未満を保持していた者は28人(22.2%)であった(解消群)。その他20人(15.9%)は,プログラム修了後,BMI に有意な変化はみられなかったが,BMI≧24であった(平均27.4±2.8 kg/m2)。
     調査時点での 1 日の平均歩数は効果維持群よりリバウンド群で有意に少なかった。食生活に注意する者の割合は,リバウンド群より効果維持群で高かった。
    結論 短期減量指導プログラム修了後,平均 4 年経過した時点で体重が再び増加していた者の割合は42.9%であった。より高い身体活動量および適切な食生活を維持することが,肥満女性での減量効果を維持するために重要といえる。
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