目的 「保健所母子保健計画の策定」「障害を持つ児の地域ケア対策の検討」「職場での禁煙支援対策の検討」に PRECEDE-PROCEED モデル(以下「モデル」という。)を利用した経験を通し,地域保健対策の検討にあたり留意すべきことを明らかにすることである。
事例1 モデルを利用して策定した保健所母子保健計画中,「乳幼児期」の内容を一般的な方法を用いた計画の内容と比較した結果,次の点で差が認められた。
①モデル利用計画の方がより保護者の QOL に配慮した内容となっていた。
②一般的な方法を用いた計画では保護者への直接的支援対策が主であるのに対し,モデル利用計画では「周囲のサポート」の視点から発想の拡がりが認められた。
③モデル利用計画では「虐待が疑われる事例の通報」などの対策が導き出されなかった。
事例2 モデルを用いて検討した障害を持つ児の地域ケア対策について,一般的な方法で中間的にとりまとめられていた対策と比較したところ,次の点で差が認められた。
①モデル利用対策の方がより保護者の QOL に配慮した内容となっていた。
②モデル利用対策の方が「周囲のサポート」の視点から発想の拡がりが認められた。
③モデル利用対策では,「障害を持つことが明らかな事例への NICU 入院中からの関わり」という対策は導き出されなかった。
事例3 モデルを用いて導き出された総合的な禁煙支援対策について対象者に確認したところ,個別健康教育,禁煙に取り組む仲間づくり,空間分煙,職員全体への情報提供(離脱症状等)などは有効と考えていたが,有効と考えない対策もあった。
結論 (1)一般的な方法で地域保健対策を検討する際は,「対象者の QOL」や「周囲のサポート」という視点に十分留意する必要がある。
(2)モデルを利用する際,第 1 段階で対象者の QOL の抽出に十分な時間を注ぐことがポイントの一つと考えられる。
また,対象者のエンパワメントの観点から,さらには,モデル利用で得られる検討結果はヒアリングなどを行った対象者の意識に依存する恐れがあることや対象者が有用と考えない(希望しない)対策もあり得ることから,対象者の代表の検討への参画が必要であることが示唆された。
(3)モデル利用では,虐待が疑われる事例への介入として「管理的対策」は導き出されないことから,健康危機管理対策が必要となる分野では,モデルにとらわれない検討も必要となる。
抄録全体を表示