日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 6 号
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特別論文
  • 鷲尾 昌一, 石崎 達郎, 植木 章三, 藤原 佳典, 大浦 智子, 安西 将也, 甲斐 一郎, 奥村 二郎, 大坪 徹也, 矢庭 さゆり, ...
    2023 年 70 巻 6 号 p. 351-358
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/24
    [早期公開] 公開日: 2023/04/10
    ジャーナル フリー

     肺炎は日本人高齢者の主な死因の一つである。高齢者の多くは加齢に関連した基礎疾患を持っており,肺炎罹患後に心不全など別の系統の疾患を引き起こす傾向がみられる。それゆえ,高齢者の肺炎予防は大切である。日本公衆衛生学会公衆衛生モニタリング・レポート委員会「高齢者のQOLと介護予防,高齢者の医療と福祉グループ」では,高齢者の市中肺炎(院外肺炎)の危険因子と予防対策についての知見をとりまとめた。高齢者の肺炎には体外から侵入した病原微生物による肺炎と不顕性誤嚥による肺炎があり,低栄養や身体機能低下を認める高齢者では肺炎のリスクが上昇する。一方,インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種は高齢者の肺炎のリスクを低下させる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が大流行した2020年はインフルエンザ死亡や肺炎死亡が減少しており,COVID-19に対する非薬学的感染予防対策は肺炎の予防にも有効と考えられる。高齢者の院外肺炎予防のためには①マスク着用などの病原微生物の曝露を避ける感染対策(COVID-19予防でも推奨された非薬学的感染予防対策),②インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種勧奨,③不顕性誤嚥の原因となる仮性球麻痺を引き起こす脳血管疾患を防ぐための生活習慣病の適切な治療と保健指導,④誤嚥性肺炎の原因菌(口腔内細菌)を減少させる口腔衛生・口腔ケア,⑤肺炎のリスクとなる低栄養や身体機能低下を予防する保健指導が大切である。

原著
  • 田中 嘉, 岡田 恵美子, 平田 匠, 木村 尚史, 玉腰 暁子
    2023 年 70 巻 6 号 p. 359-368
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/24
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 親が子どもに対して抱く情緒的絆の欠如をボンディング障害という。本研究では妊娠期の父親のパートナーへの関わりとボンディング障害の関連を検討する。

    方法 2016年5月~2017年12月に札幌市内の3つの産科病院を受診した妊婦とそのパートナー1,957組を対象とした。自記式質問票を妊娠24~35週と産後6~8週後に配布した。父親のパートナーへの関わりは,身の回りのことや家事の手伝い,相談にのっているかという2つの質問項目の5択の回答を0~4点で評価し,合計点が6~8点を高得点群,3~5点を中得点群,0~2点を低得点群とした。ボンディング障害は「赤ちゃんへの気持ち質問票」を用い,程度が高い上位約10%が含まれる点数をカットオフ値とした。妊娠期の父親のパートナーへの関わりを曝露,アウトカムをボンディング障害とし,ロジスティック回帰分析を行った。調整変数は父親の年齢,世帯年収,父親の一週間の平均労働時間,過去の妊娠,過去の流産や死産・子どもの死亡,パートナーの妊娠期抑うつとした。

    結果 回答を得られた父親は391人であり2回目の回答記入時期は産後2か月までが86.4%,3か月が10.6%,4か月が2.5%,5か月が1.0%であった。そのうち質問項目が欠損した者を除く375人を対象とした。父親のパートナーへの関わり高得点群は255人(68.0%),ボンディング障害は48人(7点以上,7.2%),下位尺度:lack of affection(LA)は35人(4点以上,9.3%),下位尺度:anger and rejection(AR)は17人(4点以上,4.5%)だった。多変量調整OR(95%CI)はパートナーへの関わり高得点群に対し,ボンディング障害は中得点群:4.81(1.88–12.33),低得点群:6.89(1.40–33.93),下位尺度LAは中得点群:2.21(0.97–5.04),低得点群:6.40(1.54–26.68)であった一方,下位尺度ARと有意な関連がみられなかった(trend Pは順に0.0005, 0.0053, 0.6859)。

    結論 妊娠期の父親のパートナーへの良好でない関わりが父親のボンディング障害と子どもへの愛情の欠如に影響することが考えられる。父親のボンディング障害の予防には妊娠期におけるパートナーへの関わりが重要であることが示唆された。

  • 相田 華絵, 森 淑江, 辻村 弘美, 佐藤 由美
    2023 年 70 巻 6 号 p. 369-380
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/24
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,来日後およそ1年間の技能実習生の健康状態と,関連する要素の経時的変化を質的に分析し,技能実習生が健康に過ごすために必要な支援を検討することを目的とした。

    方法 来日後4か月以内の技能実習生16人を対象に,身体計測,メンタルヘルスの状況の測定,傷病の経験,自覚症状,主観的健康感,技能実習や生活に関する半構造化面接および写真を用いた食事内容の調査を3か月に一度,合計4回行った。入手可能な場合は健康診断結果を確認した。データは国際生活機能分類(ICF)の6要素に分類した後,質的データはフレームワーク法を用いた質的縦断的分析から健康に関連する要素を帰納的に抽出した。

    結果 技能実習生が経験した傷病,自覚症状および健康に関連する要素の種類や時期は対象者により異なっていた。各調査回の56.3%以上にストレスや困っている事等があり,そのうち44.4%以上にうつ・不安の可能性があった。介護や製造業等重労働を伴う対象者は,来日初期の調査前半に筋骨格系の不調があった。健診結果は日本語で通知され,内容の理解が不十分な例があった。健康に関連する要素として,《睡眠の状況》,《自立の喜びと抱える不安》,《活力の低下と疲労感》,《実習業務の遂行》,《コミュニケーション能力と日本語学習の取り組み》,《健康管理への取り組み》,《日本の生活への適応》,《余暇活動と日本人との交流》,《宗教活動》,《技能実習環境》,《住環境》,《友人・家族・職場等からの支援》,《自然環境・経済動向》,《節約志向の生活》,《来日の動機と1年後の自己評価》の15カテゴリが抽出された。

    結論 来日後およそ1年間,技能実習生はストレス,筋骨格系の不調,うつ・不安がある可能性等様々な身体的および精神的症状を呈していた。技能実習生が健康に過ごすためには,健康に関連する要素の変化に合わせ,ストレスに関連する否定的側面を早期に取り除き,肯定的側面を維持・促進することが重要である。加えて,技能実習生のヘルスリテラシーを高めるための運動施設・医療機関に関する情報提供,多言語に対応した健診実施体制の整備,技能実習生を取り巻く関係組織との連携や利用頻度の高いコミュニケーション手段の利用等による情報提供方法の改善が有用と考えられる。また,地域協議会への保健医療職の参加が求められる。

公衆衛生活動報告
  • 村山 洋史, 嶋田 誠太朗, 髙橋 勇太
    2023 年 70 巻 6 号 p. 381-389
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/24
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 特定保健指導の実施率向上のため,各医療保険者は利用再勧奨を行っているが,その効果は十分に検証されていない。本研究は,特定保健指導の利用再勧奨の手法として手紙と電話の2種類を取り上げ,特定保健指導対象者への利用再勧奨の効果を無作為化比較試験によって検討することを目的とした。

    方法 神奈川県横浜市の国民健康保険加入者で2020年度の特定保健指導対象者のうち,特定健康診査の問診項目から判定した保健指導利用に積極的な者を対象とした。介入期間は2020年9~11月であり,この期間の対象者252人を,「再勧奨なし群」「手紙再勧奨群」「電話再勧奨群」の3群に無作為に割り付けた(各群84人)。「手紙再勧奨群」には,特定保健指導利用券を送付した2週間後に再勧奨の通知を郵送した。「電話再勧奨群」には,同じく利用券送付2週間後に保健師が電話にて再勧奨を行った。アウトカム項目は,特定保健指導の利用率であった。解析は,カイ二乗検定による3群間比較と多重比較を行った。

    活動内容 対象者は,男性が70.6%,平均年齢は61.4歳(標準偏差:11.0)であった。属性と特定健康診査の結果で3群間に違いはなかった。特定保健指導利用率は,「再勧奨なし群」で20.2%,「手紙再勧奨群」で22.6%,「電話再勧奨群」で20.2%であり,3群間の差は認められなかった(χ2=0.191, P=0.909)。多重比較でも,いずれの群間にも差はみられなかった。ただし,直接本人や家族に電話で再勧奨を行えた者は56.0%であり,直接電話再勧奨を行えた者の方が直接電話再勧奨を行えなかった者よりも利用率が高かった。

    結論 手紙による再勧奨も電話による再勧奨も,再勧奨しない場合と比べ,特定保健指導の利用率に違いはなかった。電話再勧奨の効果は過小に評価されている可能性がある点には注意を要するものの,保健指導利用に積極的な層への利用再勧奨は優先度を低く設定しても良い可能性が示された。

資料
  • 高橋 佑紀, 森定 一稔, 渡邉 美貴, 田中 英夫
    2023 年 70 巻 6 号 p. 390-399
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/24
    [早期公開] 公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    目的 大阪府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大期における感染制御の方策として,政府に対し緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出・実施要請をした。それらの効果を評価・検討する。

    方法 大阪府健康医療部が公表する第3波(2020年10月10日~2021年2月28日)および第4波と前後約1週間(2021年2月23日~2021年6月27日)の感染経路不明新規陽性者数を用い,7日間移動平均値を計算した。そして各波での罹患率の経時変化の特徴を,Joinpoint回帰モデルを適用して分析し,統計学的に有意な罹患率の日率変化をその日の前後で起こした日(Joinpoint日)を特定した。SARS-CoV-2に感染してからその罹患事実が公表に至るまでの日数分を各Joinpoint日から遡った日を,府民の感染リスク行動が大きく変化した日とみなした。それらの日と大阪府から発出された声明,宣言との時間的関連性を見た。

    結果 大阪府のCOVID-19感染経路不明新規陽性者数の増加率が有意に減少に転じたJoinpoint日は,第3波では2020年11月23日,2021年1月7日,および1月18日の3ポイントが見出された。また,第4波では,2021年4月12日と4月30日の2ポイントが見出された。それぞれのJoinpoint日から,対応するタイムラグ(8~9.9日)だけ遡って得られた計5つの感染リスク行動急変日は,2020年11月13日,12月30日,2021年1月9日,4月4日,および4月22日と推定された。上記の5つの推定感染行動急変日のうち,2021年1月9日は2回目の緊急事態宣言発出日,21年4月4日は1回目のまん延防止等重点措置実施日,4月22日は3回目の緊急事態宣言の要請日と発出日の間に位置していた。

    結論 大阪府内でCOVID-19の第3波,第4波に発出された計3回の緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発出・実施タイミングは,いずれも感染経路不明新規陽性者数が増加から減少に転じた,もしくは急激な増加傾向が止まったと推定される時点に対応する府民の行動変化を起こしたタイミングにほぼ一致していた。このことから,これらの宣言の発出要請は,府民の感染リスク回避行動を強化し,また感染が起きやすい機会を低減させた要因の一つと推定された。

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