日本公衆衛生雑誌
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57 巻, 2 号
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原著
  • 田口 良子, 山崎 喜比古, 中山 和弘
    2010 年 57 巻 2 号 p. 83-94
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 日本では乳がんマンモグラフィ検診の受診率が低い水準で推移している。人々のマンモグラフィ検診への需要からこの問題を検討するため,表明選好法の 1 つである選択型実験を用いて以下の 3 点を本研究の目的とした。1)マンモグラフィ検診対象年齢の一般住民が検診のどのような属性を潜在的に評価しているか傾向を探ること,2)サンプルをマンモグラフィ検診経験者•非経験者に分け,サブサンプル間で属性の評価傾向の違いを検討することにより表明選好法の妥当性を検証すること,3)今後需要があると考えられる検診オプションを想定し,シナリオを設定して選択行動を予測すること。
    方法 都内在住の一般住民のうち,40~59歳の乳がん非経験者800人を対象に郵送自記式質問紙調査による選択型実験を実施し301人より回答を得た。マンモグラフィ検診に関する 5 属性からなる仮想的な検診を 2 つ 1 組として提示し,どちらの検診であれば受けようと思うかを尋ねた。全サンプルとサブサンプルについて検診属性を独立変数,いずれかの検診を受ける•受けないの選択を従属変数として条件付きロジットモデルによりパラメータを推定した。この結果を基に,検診の所要時間と費用に関して,短時間•高費用と長時間•低費用の 2 種類の検診オプションを設定して選択行動を予測した。
    結果 全サンプルではマンモグラフィ検診に関する 5 つの属性:検診を受けるためにかかる合計時間,乳房の痛みの程度,検診で乳がんが見逃される可能性,乳がんによる死亡を減少させる効果,検診を受けるためにかかる合計費用,のいずれも 5%水準で有意で符号の向きが予想と一致する係数が推定された。サブサンプルの推定結果の比較から行動と選好のプラスの相関が確認された。選択行動の予測では,短時間の検診の費用が約7,500円までの場合には,その選択割合は長時間•低費用の検診より高いかほぼ同じであった。
    結論 対象者は健康アウトカム以外に検診プロセスに関する属性をも無視できない評価をしていることが明らかとなった。検診への選好を調べる手段として表明選好法の妥当性が示唆された。短時間•高費用の検診は長時間•低費用の検診に対し約7,500円までの価格であれば競争力を持つことが示唆された。
     以上より,受診対象者の需要を高める検診環境を整備することによって,マンモグラフィ検診受診率が向上する可能性が示唆された。
  • 会退 友美, 赤松 利恵
    2010 年 57 巻 2 号 p. 95-103
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,幼児の間食の与え方や内容が食欲に関連しているかを発達段階別に調べることを目的とする。さらに食欲,間食の与え方や内容,体格が発達段階を経ても継続するかについて検討する。
    方法 平成12から15年度に静岡県伊東市で出生し,1 歳 6 か月児,3 歳児健康診査の両方を受診した1,313人の問診票から,食欲,間食の内容,与え方,体格,性別の項目を解析に用いた。食欲が「ある」または「普通」を「食欲あり/普通」とし,食欲が「ない」または「むら食い」を「食欲なし/むら食い」とした。体格は,肥満度を算出し,「やせ」,「標準」,「肥満」に分けた。間食の内容は,3 歳児の間食15種をクラスター分析した分類で検討した。1 歳 6 か月児と 3 歳児の食欲,間食の内容,間食の与え方,体格の比較には,McNemar 検定を用いた。1 歳 6 か月児,3 歳児それぞれ「食欲なし/むら食い」のリスクを単変量および多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。
    結果 解析対象者は,男児664人(50.6%),女児648人(49.4%)であった(欠損:1)。出生数に対する有効回答率は,56.5%であった。間食の内容は,「補食の間食」,「甘い•スナックの間食」,「健康的間食」に分かれた。
     1 歳 6 か月児から 3 歳児にかけて食欲に変化はみられなかったが,「子どもが勝手に食べる」と回答する者が増加するなど,間食の与え方や内容には変化がみられた。
     3 歳児の食欲の問題に影響を及ぼす要因では,1 歳 6 か月児の「食欲なし/むら食い」のオッズ比が4.70(95%CI:3.07-7.19)と最も高かった。その他,「間食の時間を決めていない」が1.81(95%CI:1.24-2.65),「子どもが勝手に食べる」が2.92(95%CI::1.45-5.87),「健康的間食が少ない」が0.69(95%CI:0.48-1.00)であった。1 歳 6 か月児の「食欲なし/むら食い」に対するオッズ比は,「間食の時間を決めていない」が1.68(95%CI:1.13-2.49),「子どもが欲しがった時に与える」が1.49(95%CI:1.01-2.19),「家族や近所の人からもらう」が2.46(95%CI:1.46-4.14),「やせ」が11.47(95%CI:3.20-41.15)であった。
    結論 1 歳 6 か月児の「食欲なし/むら食い」は,3 歳児になっても継続していたことから,早期の教育が求められる。さらに 1 歳 6 か月児と 3 歳児では,「食欲なし/むら食い」のリスクが異なっており,発達段階に応じた栄養教育の必要性が示唆された。
  • 纐纈 朋弥, 松田 宣子
    2010 年 57 巻 2 号 p. 104-112
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 女性の出産後の再喫煙予防方法策定のための基礎資料とするために,妊娠中に禁煙した者のうち,産後,禁煙を継続する者と喫煙を再開する者の要因の差異を明らかにする。
    方法 2007年 9 月~10月の期間に 1 歳 6 か月児健診対象となる児の母親1,736人(兵庫県 A 市1,030人,B 市706人)を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。調査票は郵送し健診日に回収した。調査項目は,本人の年齢,最終学歴,子どもの数,家族構成,喫煙歴,喫煙に対する態度•知識,夫の喫煙歴,妊娠中の禁煙に対する満足度,育児不安である。
     有効回答数および有効回答率は A 市1,030人中754人(73.2%),B 市706人中575人(81.4%)であった。そのうち,本研究では,妊娠判明前に喫煙していたが妊娠中に禁煙した者を分析の対象とした。
     調査対象地域別に禁煙継続群と産後再開群で各項目に対する比較分析を行い,出産後の喫煙行動に影響する要因はロジスティック回帰分析で検討した。
    結果 分析対象とした A 市754人,B 市575人のうち妊娠判明前に喫煙していた者は A 市153人(20.3%),B 市105人(18.3%)であった。そのうち今回の妊娠判明後禁煙した者は,A 市123人(80.4%),B 市88人(83.8%),産後18か月での喫煙再開者は A 市52人(42.3%),B 市45人(51.1%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,夫が喫煙している場合のオッズ比は A 市では,42.1(95% CI: 4.6-387.3),B 市では13.7(95% CI: 2.9-65.2)であった。妊娠中の禁煙満足度が高い場合のオッズ比は A 市0.11(95% CI: 0.04-0.33),B 市0.15(95% CI: 0.04-0.57)であった。更に A 市では育児ストレスが高い場合のオッズ比は6.0(95% CI: 1.7-21.2)であった。
    結論 夫の喫煙が産後の再喫煙を促し,妊娠中の禁煙満足度が高いと産後も禁煙を継続することが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 服部 真理子, 川崎 千恵, 渡邉 洋子, 長野 みさ子
    2010 年 57 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 平成18年度自己血糖測定(SMBG)とグループワークを併用した糖尿病予防自己管理支援事業が杉並区内 3 保健センターで実施された。糖尿病予防自己管理支援事業前後で対象者の HbA1c の変化にいくつかのパターンが認められ,パターン別にその特徴や事業参加の効果を明らかにし,今後の事業運営のあり方を検討することを目的とした。
    方法 糖尿病予防自己管理支援事業前後の HbA1c の変化から改善群,悪化群,良好維持群に分類し,事業前後の糖尿病の知識,食事や運動等の行動,測定データの変化を検討した。
    結果 糖尿病予防自己管理支援事業参加者は,改善群10人,悪化群 1 人,良好維持群13人に分類,悪化群の記述および改善群と良好維持群 2 群間の比較により事業参加による効果を検討した。良好維持群と改善群の 2 群の基本的特性は,性別では男性がそれぞれ 4 人,3 人,平均年齢はそれぞれ58.9±10.3歳,62.4±7.6歳,糖尿病家族歴は改善群が良好維持群のほぼ 2 倍であった。事業前の HbA1c は良好維持群5.5±0.5%,改善群6.4±0.6%であった。事業前後の比較は,糖尿病の知識で良好維持群と改善群の 2 群ともに糖尿病予防•進行を防ぐ食事の理解,良好維持群で知識の正解数で有意に上がった。行動的側面では,良好維持群で間食または夜食をしない,油の調理方法への配慮,塩分の多い食品を控えるの 3 項目で,改善群で生活での健康への配慮,食べ過ぎない,油の調理方法への配慮,階段の使用,乗り物を使わず歩くの 5 項目で有意に改善した。測定データは,良好維持群で事業前後で有意差はなく,改善群で空腹時血糖値(前116.2±13.9,後103.8±15.1),HbA1c(前6.4±0.6,後5.8±0.4),BMI(Body Mass Index)(前23.8±3.2,後22.3±3.0)が事業後に有意に改善した。
    結論 参加者のほとんどで糖尿病の知識,食事や運動等の行動の改善,血糖コントロールの改善•維持が認められ,これは糖尿病予防自己管理支援事業への参加による効果が示された。改善群と良好維持群の血糖コントロール変化の違いは,血糖値が高めの改善群で行動の変化が SMBG に反映し,SMBG の変化が行動変容への動機付けとなり,さらなる行動の変容を導いた結果と推測された。
資料
  • 松平 裕佳, 高山 成子, 菅沼 成文, 小河 育恵
    2010 年 57 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 介護老人福祉施設に入所している高齢者の主観的幸福感の状況,および主観的幸福感の関連要因について,とくに入所者の生活実態に着目した上で明らかにする。
    方法 北陸 2 県 8 か所の介護老人福祉施設入所者のうち,65歳以上で,入所して 3 か月以上経過し,認知症高齢者の日常生活自立度においてランクII以下の者の124人を調査対象とした。2002年 8 月下旬から11月上旬にかけて,構成的質問調査票を用いた面接法による横断調査を行った。そのうち115人(男性26人,女性89人,平均年齢83.16歳(SD=7.13))を分析対象とした。調査項目は,主観的幸福感を PGC モラール•スケール改訂版で測定し,その要因として「基本属性」,「日常生活動作」,「健康状態」,「施設内の人間関係」,「生活の自由度」の 5 つの枠組みから構成した。
    結果 PGC モラール•スケール得点の平均値は,10.06点(SD=3.95)であった。重回帰分析の結果,介護老人福祉施設入所者の主観的幸福感の関連要因は,「生活の中で自分の意思で決定していると多く感じる」,「職員の笑顔を感じる」,「気になる病気がない」,「体の痛みがない」,「腎•泌尿器系疾患がない」ことであった。
    結論 介護老人福祉施設入所者において主観的幸福感の高い者は,日常生活において自由度が確保されていること,人間関係が良好であること,身体的健康状態が良好であることが見出された。このことから,介護老人福祉施設における望ましい居住環境を整備する上で,入所者がケアサービスを自由に選択できる環境を整備しつつ援助を行うこと,良好な人間関係を築けるよう働きかけること,入所者の健康状態について十分に配慮することが重要であることが示唆された。
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