日本公衆衛生雑誌
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66 巻, 6 号
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原著
  • 佐藤 幹也, 田宮 菜奈子, 伊藤 智子, 高橋 秀人, 野口 晴子
    2019 年 66 巻 6 号 p. 287-294
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/21
    ジャーナル フリー

    目的 全国の介護報酬明細個票(介護保険レセプト)から介護サービス利用額を利用時間に換算し,在宅要介護者のフォーマルケア時間を要介護度別に推計して在宅介護の公平性を検討した。

    方法 調査対象は2013年6月に介護保険在宅介護サービス(居宅系サービスと通所系サービスを合わせた狭義の在宅介護サービス,および短期入所サービスに細分化)を利用した全国の65歳以上の要介護者(要介護1-5)2,188,397人である。介護報酬の算定要件に基づいて介護保険サービスのサービス項目ごとにケア時間を設定し,利用者ごとに1か月間の利用実績を合算して得られたケア時間を30で除したものを1日当たりのフォーマルケア時間として,これを男女別に層化した上で要介護度別に集計した。

    結果 居宅系サービスと通所系介護サービスの狭義の在宅介護サービスおよび短期入所サービスを合算した1日当たりの総フォーマルケア時間は,要介護1で男性97.4分と女性112.7分,要介護2で118.3分と149.1分,要介護3で186.9分と246.4分,要介護4で215.2分と273.2分,要介護5で213.1分と261.4分であった。短期入所サービスのフォーマルケア時間は要介護度とともに増加したが,短期入所を除いた狭義の在宅介護サービスのフォーマルケア時間は要介護3で頭打ちとなり要介護4-5ではむしろ減少した。狭義の在宅サービスをさらに居宅系介護サービスと通所系介護サービスに細分化すると,前者は要介護度に応じて増加したが,後者は要介護3で頭打ちとなっていた。

    結論 在宅介護サービスの利用量を時間の観点から評価した本研究の結果からは,介護ニーズが増大する要介護4-5の在宅要介護者でむしろフォーマルケアの供給が減少しており,介護保険制度によるフォーマルケアは必ずしも介護ニーズに対して公平ではないことが分かった。在宅介護の公平性を保ちつつ介護保険制度の持続可能性を高めるためには,高要介護度者に対して時間的効率性の高い在宅介護サービスを推進するなどして高要介護度者のフォーマルケア時間を増加させるような施策を推進する必要があると考えられた。

  • 井本 知江, 山田 和子, 森岡 郁晴
    2019 年 66 巻 6 号 p. 295-305
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/21
    ジャーナル フリー

    目的 特定健康診査(以下,健診)の受診行動に健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシー(以下,HL),ソーシャル・キャピタル(以下,SC)が関連しているのかを保険者別に検討し,今後の受診勧奨を含めた保健活動のあり方について示唆を得ることを目的とした。

    方法 受診者とは過去2年間に1回以上健診を受診した者,未受診者とは過去2年間に1回も健診を受診していない者とした。対象者は40~74歳の男女1,048人とし,郵送による無記名の自記式質問紙法で行った。健康増進ライフスタイルの把握には日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(以下,HPLPⅡ)を,HLの把握には14-item Health Literacy Scaleを,SCの把握には埴淵らの6項目を用いた。保険者別(国民健康保険:国保,被用者保険:社保)に健診受診の有無と属性,HPLPⅡ, HL, SCとの関連について検討した。分析には属性・SCにはχ2検定を,HPLPⅡにはt検定を,HLにはMann-WhitneyのU検定を用いた。

    結果 有効回答率は男性34.4%,女性39.6%で,健診受診者の割合は国保の男性68.8%,女性79.4%,社保の男性91.7%,女性72.6%であった。国保の男性は同居の配偶者がいない者がいる者に比べて受診割合が有意に低く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの身体活動得点が有意に低かった。社保の男性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの栄養得点が有意に高く,SCの近所付き合いの程度が有意に高く,女性は未受診者が受診者に比べてHPLPⅡの健康の意識得点が有意に低かった。

    結論 健診の受診行動には,国保の男性を除いて,健康増進ライフスタイル,SCが関連していた。健診受診勧奨を含めた保健活動のあり方として,国保の男性の場合,配偶者や家族,親戚,近隣者などからの勧奨が健診受診に有効であること,女性の場合,日常生活に身体活動を取り入れることが健康への関心を高め,健診受診に繋がること,社保の男性の場合,健診結果を食生活の改善に活かせる工夫が必要であること,女性の場合,健康意識を高める支援が必要であることが示唆された。

  • 吉澤 裕世, 田中 友規, 高橋 競, 藤崎 万裕, 飯島 勝矢
    2019 年 66 巻 6 号 p. 306-316
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/21
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,自立高齢者の様々な活動とフレイル予防対策の知見を得るために,悉皆調査データを用いて,週1回以上実施している活動とフレイルとの関連について検討した。

    方法 要介護認定を受けていない地域在住高齢者73,341人全数を対象とした,厚生労働省の基本チェックリスト項目および,対象者が週1回以上実施している様々な活動(身体活動,文化活動,地域・ボランティア活動)に関する悉皆調査データを用いた。フレイルとの関係について,各活動単独およびその重複別に評価した。さらに,活動の実施状況別のプレフレイルおよびフレイルとの関連について,非フレイルを参照カテゴリとし,性別・年齢を調整した多項ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 当該地域在住における介護認定を受けていない65歳以上の高齢者の67%に相当する49,238人のデータが解析された。性別の内訳は,男性24,632人,女性24,606人であった。身体活動,文化活動,地域活動の習慣を有する高齢者は各65.9%, 78.8%, 14.9%であり,プレフレイルは22.7%,フレイルは12.8%にみられた。いずれの活動もフレイルと有意な関連性が認められた。3種の活動すべてを実施している群を対照とした場合,フレイルに対する調整オッズ比[95%CI]は,身体活動未実施の場合2.19[1.71, 2.80],文化活動未実施では1.48[0.91, 2.43],地域活動未実施では2.09[1.80, 2.44]であった。また,1種類の活動のみを実施している場合の調整オッズ比は5.40~6.42でいずれも有意にフレイルと関連していた。さらに3種の活動のいずれも未実施の場合の調整オッズ比は16.41[14.02, 19.21]で活動の種類の減少に伴ってフレイルの段階的な増加がみられた。

    結論 高齢者を対象とした横断研究により,日常における身体活動,文化活動,地域活動を実施していないこととフレイルであることが関連していること,また実施していない活動が増えるほどフレイルのリスクが高くなる傾向が示された。フレイル予防において,身体活動の実施の重要性を支持するとともに,身体活動が困難な高齢者であっても,文化活動や地域活動などの分野の異なる活動の重複実施がフレイル予防につながる可能性が示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 村山 洋史, 小宮山 恵美, 平原 佐斗司, 野中 久美子, 飯島 勝矢, 藤原 佳典
    2019 年 66 巻 6 号 p. 317-326
    発行日: 2019/06/15
    公開日: 2019/06/21
    ジャーナル フリー

    目的 ソーシャルキャピタルは多職種連携を促進する重要な要因であることが示されている。本研究では,在宅医療の推進を目的に作成された「在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会」(以下,研修会)の参加者を対象に,在宅医療・介護従事者に対するソーシャルキャピタルの醸成効果を検討した。

    方法 東京都北区で2014年7月~2015年1月に実施された研修会参加者への自記式質問紙調査のデータを用いた。質問紙調査は研修会の前後で実施した。研修会の参加者は,区内で在宅医療・介護に従事している,あるいは関心を持っている専門職であった。開業医・病院医師には延べ5.0日,開業医・病院医師以外には延べ4.5日のプログラムが提供された。在宅医療の動機付け項目として,在宅医療に対するイメージ形成と効力感を測定した。ソーシャルキャピタルに関しては,同職種への信頼感と互酬性の規範(結束型×認知的ソーシャルキャピタル),他職種への信頼感と互酬性の規範(橋渡し型×認知的ソーシャルキャピタル)を測定した。加えて,開業医以外の職種に対しては,開業医との関係に特化し,開業医への信頼感と互酬性の規範(橋渡し型×認知的ソーシャルキャピタル)と開業医との連携活動状況(業務協力と交流の2因子を含む;橋渡し型×構造的ソーシャルキャピタル)を把握した。解析には一般化推定方程式を用い,効果量を求めた。

    活動内容 研修会参加者54人中,研修会前後の両方の回答が得られた52人(うち2人が開業医)を対象とした。まず,在宅医療の動機付け項目では,効力感は変化がなかったものの,在宅医療に対するイメージ形成の得点は研修会前後で向上していた。ソーシャルキャピタルでは,同職種への信頼感と互酬性の規範の両者とも研修会前後で得点が向上していた。一方,他職種への信頼感と互酬性の規範は,両項目とも得点の向上は見られなかった。開業医以外の職種のみに限定した開業医との関係では,信頼感と互酬性の規範,および連携活動状況の業務協力において得点の向上が見られた。さらに,研修会参加者内での信頼感と互酬性の規範も向上していた。

    結論 研修会に参加することで,在宅医療・介護従事者に対するソーシャルキャピタルが醸成されていた。在宅医療・介護領域におけるソーシャルキャピタルの醸成に向け,本研修会のような機会の提供は一つの方策と考えられた。

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