日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 2 号
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公衆衛生活動報告
  • 西原 三佳, 大西 真由美, 中村 安秀
    2016 年 63 巻 2 号 p. 55-67
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/11
    ジャーナル フリー
    目的 東日本大震災被災地,岩手県陸前高田市において震災後から継続して未来図会議(保健医療福祉包括ケア会議から名称変更)が実施されている。この会議が果たしてきた役割を分析し,今後の災害対応計画への一助とする。
    方法 未来図会議創成期の保健医療福祉関係者10人(行政 6 人,行政以外 4 人)への聞取り結果,既存資料による情報収集を基に,経済協力開発機構開発援助委員会(OECD/DAC)による評価 5 項目を用いて分析した。
    結果 被災直後,市関係者は支援調整対応に追われ現状確認と情報集約が出来ない状況にあった。元市職員の支援者が調整役となり初回会議が2011年 3 月27日に開催され,参加者は官民区別なく全保健医療福祉関係者とされた。各方面の現状情報共有と支援調整が行われ,5 月には復興に向けた課題共有を開始した。6 月末までほぼ毎週開催され,災害援助法救護班派遣が終了した 7 月より月 1 回の開催となった。参加者はその頃より現地職員を主とし,地元市民団体,外部支援団体となり,中長期的課題共有と対応検討をし続け,現在に至る。
     DAC 評価 5 項目別に以下の結果が得られた。①妥当性:被災後の現状把握,情報共有,支援調整の場として機能した。②有効性:行政,民間,支援関係者が共通認識をもち役割を確認し,支援連携を生む機会となった。③効率性:支援の需要と供給のマッチング機会を創出した。知恵が集積され新たな視点や効果的な活動を生み,支援の効率化に貢献した。④インパクト:関係者への知識普及と課題の共通理解を促進した。包括的ニーズ把握が施策化に活かされた。⑤自立発展性:早期からの復興イメージ提示により課題共有がされ,行政・民間双方において復興に関し検討する必要な場として認識されている。
    結論 災害時の国際協力では効率的支援と最大限の支援効果を目的とするクラスターアプローチが実施される。専門分野ごとにパートナーシップを構築し支援調整を行うものだが,未来図会議は,緊急期,復旧期においてこのクラスターアプローチの役割を担っていた。復興期以降は全関係者が中長期的課題を共有し検討できる場として役割を担っている。このような未来図会議の取組みは今後の災害対応計画において一つのモデルとなり得る。
     提言として①早期に情報交換の場を立ち上げること,②会議参加者の資格は問わず自由参加とすること,③地元既存組織を含め民間組織との平時からの関係構築,が挙げられた。
  • 松田 友子, 松田 徹, 菅原 彰一, 三浦 崇, 菅原 恵, 田澤 縁, 武田 世津, 山形県庄内保健所
    2016 年 63 巻 2 号 p. 68-74
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/11
    ジャーナル フリー
    目的 日本では入浴事故により年間約19,000人が死亡していると推計されている。我が国民は高温浴を好むが入浴事故の危険性についてはさほど知られているとは言えない。当保健所では2010年より適正な入浴習慣についての周知活動を行ってきた。本報告では,地域での普及啓発活動後の入浴に関する知識の評価を目的に今後の周知活動について考察した。
    方法 2012年10月~2013年 3 月の間に県内各保健所が主催した各種会議,研修会・講話,イベント等の参加者3,078人に対し,入浴習慣や入浴事故についてのアンケート調査を行った。質問内容は基本属性,入浴事故実態,予防法の認知,情報入手先,予防法の実践とした。予防法については1)脱衣所・浴室の前暖房,2)湯温41℃以下,3)半身浴,4)家族に声がけ後入浴,5)入浴中の家族に声がけ,6)その他,7)とくにしていない,の 7 項目とした。
    結果 回答数は2,697人(回収率87.6%)で,入浴事故の実態について何かしら知っている割合は92%,予防法も92%の人が何らかの方法を知っていた。しかし,入浴事故対策の中心となる湯温41℃以下が適正であるという認知度は43%で,そのうち温度設定も可能な状況下であっても56%しか湯温41℃以下を実践していなかった。同様に,脱衣所・浴室の前暖房においても,認知度81%に対して実践につながる割合は50%と開きがあった。講話の有無による実態・予防法の認知度と実践割合については非受講者より受講者の方が10%以上高かった。
    結論 入浴事故対策法の認知度と実践割合には大きな開きがあり,良好な結果を得るためには行動変容に結びつく効果的な伝達法など対象者に合わせた周知活動を実施していく必要がある。
  • 柳原 博樹
    2016 年 63 巻 2 号 p. 75-86
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/03/11
    ジャーナル フリー
    目的 2011年 3 月11日に発生した東日本大震災において岩手県宮古保健所が担った急性期以降の医療救護活動の調整過程を検証し,今後の災害医療対策の推進に資する。
    方法 宮古保健所管内の宮古市と山田町での医療救護活動をⅠ期(発災~3 月下旬),Ⅱ期(~4 月中旬),Ⅲ期(~5 月末:宮古市,~7 月上旬:山田町)に区分し,この期間における保健所の調整過程と結果について記述し,分析した。
    結果 宮古保健所は 3 月中旬から医療支援チームおよび地元自治体等による調整会議を設置・運営し,宮古市では 5 月末まで,山田町では 6 月末まで継続した。被災地の医療需要の変化や地元医療機関の再開を踏まえ,現地での医療支援チームの活動など医療救護体制の調整に努めた。
     医療支援チーム総受診者数(1 日)は,宮古市ではⅠ期で約250人のピークを示したのち,Ⅲ期まで緩やかに減少した。これに対し山田町ではⅠ期で約700人のピークを示したのち,Ⅱ期で100人まで急激に減少し,Ⅲ期では緩やかに減少した。この推移の違いは,宮古市ではⅠ期で29施設(全体の93.5%)の稼動医療機関を避難者が早期から受診したこと,山田町ではⅠ期で 1 施設(20%),Ⅱ期で 3 施設(60%)と少ない医療機関の再開にあわせて医療支援チームが救急トリアージなどを機能分担する体制を導入し,受診者の地元医療機関への移行を進めたことが要因と考える。
     避難者における医療支援チーム受診者の割合は,宮古市ではⅠ期からⅢ期を通じほぼ 5%を下回り,山田町ではⅠ期の19%からⅡ期で 5%を下回り,Ⅲ期は 2~3%となった。また,Ⅲ期で宮古市では健康管理支援などの医療必要度の受診者が80%以上を占め,宮古市と山田町の 1 日あたり救急搬送人員(人口 1 万対)も発災以前と同水準となっていた。このことは,遅くともⅢ期の早い段階での避難者の医療需要の低下,安定化を示唆した。
     以上から,災害の急性期以降の医療救護活動の調整においては,地元医療機関と医療支援チームとの機能分担の導入と医療需要のモニタリング結果に係る情報をマネジメントすることで,より適切なタイミングで医療救護体制から地元主体の医療提供体制に移行させる判断を支援することができると考える。
    結論 東日本大震災において宮古保健所が担った医療救護活動の調整過程を検証し,急性期以降の医療救護活動の調整における留意点と情報マネジメントの仕組みを整備する重要性を示した。
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