日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 8 号
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特別論文
  • 神野 真帆, 渡辺 和広, 中野 裕紀, 高階 光梨, 伊藤 弘人, 大平 哲也, 野村 恭子, 堤 明純
    2023 年 70 巻 8 号 p. 465-473
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/08/29
    [早期公開] 公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

     情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)を活用したメンタルヘルスケアサービスが注目されている。予防効果が評価されているアプリケーションがある一方,エビデンスが不確かなものも乱立している。エビデンスの構築とともに,必要な対象に,適切なツールを届ける社会実装が求められている。

     ICTを用いたヘルスケアサービスについて,非薬物的な介入手法におけるエビデンス構築のための研究デザイン構築やサービス利用者による適切な選択のための基盤整備のための研究支援が始まっている。エビデンス構築および社会実装の側面からは,想定利用者の実生活での情報をモニタリングして不安・抑うつを予防するアプリケーションを,深層学習モデルを用いて開発している試みや,原子力発電所事故の被災地で,ニーズ調査,セキュリティの検討,ニーズに合わせたアプリケーションの設計,そのアプリケーションの試験運用といった形で,住民の安心・安全向上を目指したアプリケーションを開発している事例がある。諸外国では,ICTを利用したメンタルヘルスケアサービスの実装を進めるために,サービス提供者が適切なアプリケーションを紹介する際やサービス利用者が選択する際に指針となるアプリケーションを包括的に評価するモデルが提案されている。わが国では,そのようなモデルを実用化した評価項目を使って,利用者のニーズに合わせた適切なアプリケーションを紹介する試みが行われようとしている。

     ICTを利用したメンタルヘルスケアサービスのエビデンスの構築にあたっては,利用者のニーズや実際のデータに基づく開発とその評価が行われようとしている。一方で,非薬物的な介入手法におけるエビデンス構築のための研究デザイン(とくに評価手法や指標など)が十分に確立していないことは課題となっている。ICTを利用したメンタルヘルスケアサービスの社会実装を進めるためには,構築されたエビデンスを含め,ヘルスケアサービスの評価と選択ができる仕組みづくりの必要がある。

総説
  • 町田 征己, 井上 茂
    2023 年 70 巻 8 号 p. 474-482
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/08/29
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

    定義・現状 Vaccine hesitancyは「予防接種サービスが利用できるにもかかわらず,予防接種の受け入れの遅れや拒否が起こること」と定義され,日本ではワクチン躊躇やワクチン忌避と呼ばれている。近年,ワクチン躊躇は世界的な問題となっており,世界保健機関(WHO)は2022年に世界の小児予防接種率に過去30年間で最大の持続的減少がみられていることを報告した。また,日本においても新型コロナワクチンの接種控えやヒトパピローマウイルスワクチンの普及などは社会問題になっている。そこで本総説では,ワクチン躊躇に関するこれまでの研究を整理して概説する。

    関連要因 ワクチン躊躇には様々な要因が影響するが代表的なものとして,ワクチンや政府関係機関への信頼(Confidence),個人が認識している罹患可能性・疾病危険性(Complacency),予防接種の物理的・心理的利便性(Convenience)の3つからなるワクチン躊躇の3Csがある。社会人口統計学的要因とワクチン躊躇の関連に注目した研究も増えており,年齢,性別,社会経済的地位,人種,ソーシャル・キャピタルなどがワクチン躊躇に関連することが報告されている。また,近年では予防接種に特有で修正可能な要因に注目した「予防接種の行動的・社会的促進要因フレームワーク」がWHOによって開発され,対策を検討する際のモデルとしての活用が期待される。

    評価方法 ワクチン躊躇とその要因の評価方法として,様々な尺度が開発されているが尺度によって評価項目,妥当性,信頼性,日本語質問票の有無などが異なり,調査目的に合わせて適切なものを選択する必要がある。代表的な尺度の一つの7C scaleは,日本語版を含む十か国語以上の翻訳版が公開されており国際的に広く使用されている。

    対策 ワクチン躊躇への対策や介入策についても欧米を中心に様々な研究やガイダンスが報告されている。エビデンスに基づいた対策は大まかに,1. 行動科学に基づいた予防接種システムの強化,2. 組織的なモニタリングによるテーラーメイドなアプローチの実施,3. 医療従事者を支援するためのエビデンスに基づいたリソースの提供,4. メディアの活用・情報発信,に分けられる。これらの知見を踏まえて,日本においても,様々な側面から接種率向上に向けたアプローチを実施することが期待される。

資料
  • 高木 悦子, 小崎 恭弘, 阿川 勇太, 竹原 健二
    2023 年 70 巻 8 号 p. 483-494
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/08/29
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は全国における父親を主な対象とするポピュレーションアプローチ事業の実施状況とその内容について明らかにし,地域における父親への育児支援の可能性について考察することである。

    方法 本研究は2つの調査を実施した総合的な結果の分析である。第一次調査は2020年12月から2021年2月に全国1,741自治体に対し,郵送留め置き法による質問紙調査を実施した。第二次調査として,2021年8月から9月に主な対象者を父親として事業を実施し調査協力を得られた自治体を対象に,ヒアリング調査を実施した。

    結果 837(回収率48.1%)自治体を分析対象とした。多くの自治体が母子健康手帳交付時と両親学級の一部として父親への育児支援を実施していた。父親向けのリーフレットやパンフレットの配布(P=0.036),両親学級として父親の参加を奨励(P<0.001),父親が参加しやすい日時の設定(P<0.001),父親向けの内容を盛り込んだ内容(P<0.001)の項目で総人口7万人以上の自治体での実施の回答が有意に多かった。そのうち,「主な対象を母親ではなく父親とした育児支援を実施した」に回答した自治体は54自治体,全体の6.5%であった。実施していない自治体の約7割は実施の必要性を認識していた。ヒアリング調査を実施した21自治体では,妊娠中の事業10件と出産後の育児期の事業が12件,両方の実施が1件であった。実施内容は多岐にわたり,地域の強みを活かし,各自治体が工夫を凝らした内容になっており,参加者の評価は概ね良好であった。一方で参加者数の調整を課題とする自治体が多かった。

    結論 父親は家庭内での育児や家事への参加が奨励されているが,地方自治体で実施されている父親を主な対象とするポピュレーションアプローチ事業は知識や技術を習得する希少な機会となっていた。ほとんどの父親育児支援内容は,母親の支援者として実施されている。今後は父親を対象とした調査をもとに,自治体で実施できる支援事業モデルの提示が望まれる。

  • 谷 直道, 埴岡 隆, 樋口 善之, 太田 雅規, 赤津 順一
    2023 年 70 巻 8 号 p. 495-503
    発行日: 2023/08/15
    公開日: 2023/08/29
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

    目的 特定健診・保健指導の第3期改定で標準的な質問票に追加された咀嚼設問への回答と職業の関連について調査することを目的とした。

    方法 分析対象は,2021年4月から2022年3月までに日本予防医学協会で健康診断を受診した15~64歳の317,124人とした。咀嚼設問に対して,“何でもかんで食べることができる”と回答した者を咀嚼状態良好,“歯や歯ぐき,かみあわせなど気になる部分があり,かみにくいことがある”又は“ほとんどかめない”と回答した者を咀嚼状態不良として群間比較を行った。また,咀嚼状態を目的変数,職業分類を説明変数として,性別,年齢,Body Mass Index,飲酒,喫煙,運動,睡眠で調整した多変量ロジスティック回帰分析によってオッズ比と95%信頼区間を求めた。また,性別,年齢(40歳未満,以上)で層別化した解析を行った。

    結果 分析対象の平均年齢は43.5±11.3歳,女性が30.5%,咀嚼状態不良者は14.9%であった。咀嚼状態良好群に比べて不良群で保安,生産工程,輸送・機械運転,建設・採掘,運搬・清掃・包装等の職業に従事する割合が高かった。ロジスティック回帰分析の結果,咀嚼状態不良者の割合が最も低い職業であった専門的技術的職業に対する各職業のオッズ比(95%信頼区間)は,管理0.94(0.90-0.98),事務1.14(1.10-1.18),販売1.10(1.05-1.15),サービス1.24(1.18-1.30),保安1.39(1.24-1.55),生産工程1.44(1.39-1.49),輸送・機械運転1.61(1.54-1.68),建設・採掘1.44(1.33-1.57),運搬・清掃・包装等1.63(1.56-1.70)で咀嚼状態不良との有意な関連が示唆された。とくに,輸送・機械運転や運搬・清掃・包装等の職業のオッズ比が高く,この結果と同様の傾向が男性および40歳以上の女性で観察された。いずれのモデルでも農林漁業の職業では有意な関連は認められなかった。

    結論 咀嚼状態不良者は保安,生産工程,建設・採掘に加えて,とくに輸送・機械運転,運搬・清掃・包装等の職業に従事している者が多い可能性が示唆された。40歳未満の男性でも同様の傾向が観察されたことから,これらの職業に従事する者には早い段階から歯科保健指導を検討する必要性がある。

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