日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 8 号
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原著
  • 吉岡 二三, 東 恵美子, 中島 孝江, 橋本 正史, 豊島 協一郎, 小町 喜男
    2004 年 51 巻 8 号 p. 583-591
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 気道アレルギーの疫学調査結果に対し回帰二進木解析(CART)を適用し,ヤケヒョウヒダニアレルゲンに対する感作(Dp 感作)のリスクを増大させている生活環境要因を明らかにした。その成果を,個人を対象とした Dp 感作の予防指導に応用することの可能性について,妥当性,実行可能性の両面から検討した。
    方法 健康成人女性386人を対象として,生活環境についてアンケート調査した。ヤケヒョウヒダニ特異的 IgE (Dp-IgE)を合わせて測定し,陽性を Dp 感作あり,陰性を Dp 感作なしとした。アンケート調査した生活環境は,①窓の開閉状況,②本人および家族の喫煙状況,③夏の冷房時間,④居間の床材(板材/畳/カーペット),⑤室内(台所)でのカビの発生,⑥住宅の構造(鉄筋/木造),⑦幹線道路からの距離,⑧燃焼型ストーブの使用,⑨掃除の頻度,などで,生活環境要因以外に気道アレルギー疾患(気管支喘息,アレルギー性鼻炎)の既往歴を訊いた。統計解析は CART のほかに多重ロジスティック回帰分析(MLRA)を行った。今回の解析では,対象をまず気道アレルギー疾患の既往のある群(既往あり群,n=118)と既往のない群(既往なし群,n=268)に分け,Dp 感作あり/なし(1/0)を目的変数,喫煙を含む生活環境要因のある/なし(1/0)を説明変数にして CART および MLRA を実行し,それぞれの群で生活環境要因の関与を検討した。
    成績 CART の結果に関し,既往あり群となし群の回帰二進木(樹木)は MLRA で調整オッズ比の有意性が最も高かった要因で最初に分岐した。以降も MLRA でオッズ比の有意性の比較的高かった要因で順に分岐したが,枝ごとに関与する要因が異なった。既往あり群(Dp 感作リスク:19.5%)では台所でのカビの発生の有無で最初に分岐し,カビの発生あり群のリスクは45.5%,発生なし群のリスクは13.5%になった。カビの発生あり群は毎日掃除の有無で分岐し,毎日掃除をしない群ではリスクが75%まで上昇し,さらに家族喫煙があるとリスクが100%に増加した。一方,カビの発生なし群は窓の開閉状況によって分岐した。既往なし群(10.8%)は夏の冷房時間で最初に分岐し,6 時間を超える長時間冷房群のリスクは16.7%,超えない短時間冷房群のリスクは6.9%であった。長時間冷房で居間の床が畳であればリスクは8.3%になり,畳でなければリスクは20.8%に上昇した。また,短時間冷房で居間の床が板でないときリスクは4.0%まで低下した。
    結論 CART による解析により,複合的な要因の Dp 感作への関与の違いを樹木図の上に表すことができた。このような樹木図に基づいて,対象者の個々の生活環境に応じた Dp 感作の予防指導が可能となることが示唆された。
  • 福田 由紀子, 福田 元敬, 林 英次郎, 岩 亨, 伊藤 隆之, 田中 豊穂, 中川 武夫
    2004 年 51 巻 8 号 p. 592-602
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 発作性上室性頻拍(PSVT)でカテーテル・アブレーション(CA)を受けた患者の生活状況,頻拍発作の自覚,治療前後の Quality of Life(QOL)とうつ状態の変化を調査し,患者の QOL の状況を明らかにする。
    方法 1995年 2 月~1999年 1 月に PSVT にて CA を受けた全患者103人(Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群86人,房室結節回帰性頻拍(AVNRT)27人)を対象として,2000年 6 月,自記式質問紙法により患者の状態,CA に対する患者評価,CA 前後の QOL と Self-rating depression scale(SDS)のアンケート調査を行なった。このうち21人は,住所不明等で返送され,調査可能だった者は82人であり,有効回答数は59人(有効回答率72.0%)である。
    成績 分析対象者の平均年齢は50.5±15.8歳,疾患割合は,WPW 41人,AVNRT 18人,医療者による治療評価は根治率100%であった。
     59人のうち,CA 後に頻拍発作自覚が無くなった者は47人(79.7%)であった。また,CA 前には59人全員が 2~4 週に 1 回通院していたが,CA 後に全く通院しなくてよくなった者は32人(54.2%),生活制限をしていない者は45人(76.3%)であった。患者評価では,59人(98.3%)が CA を肯定的に評価していた。
     非特異的健康状態 QOL,社会的および主観的指標 QOL は,CA 前に比し CA 後に有意に QOL が改善したと考えている者が多く,その結果,QOL 得点は CA 後のほうが高かった(非特異的健康状態 QOL : P<0.001,社会的および主観的指標 QOL : P<0.05)。
     SDS は,CA 前に比し CA 後に有意にうつ傾向が改善したと考えている者が多く,その結果,CA 後に減少した(P<0.001)。
    結論 1. CA 後に頻拍発作自覚は消失または減少,通院回数の減少,生活制限の緩和がみられた。
     2. CA 前後で QOL(身体症状 QOL,社会的および主観的指標 QOL),うつ傾向は改善したと考えている者が多かった。
     3. CA への患者評価では,肯定的に評価している患者が98.3%を占め,CA を受けた患者が CA 治療を受容していることが明らかとなった。
     4. 医療関係者は,CA が PSVT の QOL とうつ状態を改善させることを認識して,患者の支援に務めることが重要である。
  • 加藤 良寛, 武田 文, 三宅 健夫, 横山 英世, 大井田 隆
    2004 年 51 巻 8 号 p. 603-611
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 1) 断酒会会員の抑うつならびに心理社会的要因の状況を明らかにする。2) 抑うつに関連する心理社会的要因を明らかにする。
    方法 某県内 7 か所の断酒会会員184人を対象に無記名自記質問紙を用いて調査を実施した。調査項目は属性,抑うつ尺度(SDS),生育家庭環境尺度,セルフエスティーム尺度,コーピング尺度(5 尺度:積極的な問題解決,逃避,他者からの援助を求める,諦め,行動・感情の抑制),首尾一貫感覚尺度(SOC)とした。
    成績 1. 抑うつ平均得点は男子31.8点,女子35.8点で,男子の抑うつレベルは一般職域とほぼ同程度であった。コーピングは,「逃避」および「諦め」の行動が企業従業員より高い傾向を示した。セルフエスティームの平均得点は33.3点,首尾一貫感覚の平均得点は118.7点で,いずれも一般市民に比べ低い傾向にあった。
     2. 抑うつと断酒会会員歴,セルフエスティーム,首尾一貫感覚,コーピングの「諦め」および「積極的な問題解決」との間に有意な相関関係が認められ,断酒会会員歴が短い者,首尾一貫感覚が低い者,自尊心が低い者,コーピングの「諦め」行動をとる者,ならびに「積極的な問題解決」行動をとらない者ほど,抑うつ得点が高かった。
    結論 断酒会会員の抑うつレベルは,一般職域とほぼ同程度であったが,自尊心,首尾一貫感覚,適切なコーピングが低い傾向にあった。断酒会会員歴が短く,自尊心ならびに首尾一貫感覚が低いほど,また積極的なコーピング行動を取らないほど,抑うつが高かった。
  • 金 憲経, 吉田 英世, 胡 秀英, 湯川 晴美, 新開 省二, 熊谷 修, 藤原 佳典, 吉田 祐子, 古名 丈人, 杉浦 美穂, 石崎 ...
    2004 年 51 巻 8 号 p. 612-622
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 農村地域高齢者における尿失禁発症者の生活機能の特徴および尿失禁発症の危険因子について,縦断的データに基づき,総合的に検討する。
    方法 本研究は,東京都老人総合研究所の長期プロジェクト研究「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」の一環として行われたものであり,対象者は1996年度村の総合健康診査で尿失禁がないと答えた者のなかで,4 年後の追跡調査を受けた男性314人,女性446人,合計760人である。質問紙を用いた面接調査法より既往歴,転倒・骨折歴,主観的健康感,基本的 ADL,老研式活動能力指標による高次生活機能,尿失禁の有無などを調査した。身体機能の測定は握力,片足立ち(開眼,閉眼),歩行速度(通常,最大)であり,血液検査より血清アルブミン濃度,総コレステロール,中性脂肪,HDL コレステロールを求めた。
    結果 4 年後の尿失禁の発症率は,男性7.0% (22/314),女性12.3% (55/446)であった。正常群と尿失禁発症群間の初回調査時の形態,身体機能,血液成分を比較した結果,男性尿失禁発症群は年齢が高く,体重の値は低かった。また,バランス能力が悪く,歩行速度が遅いとの特徴とともに,血清アルブミン濃度や総コレステロール値も有意(P<0.05)に低かった。女性尿失禁発症群は,年齢が高く,身長は低かった。握力,開眼片足立ち,閉眼片足立ち,通常速度歩行,最大速度歩行の成績は尿失禁発症群が正常群より有意に悪かったが,血液成分には有意差がみられなかった。尿失禁発症の危険因子は,男性で年齢(1 歳上がる毎に:OR=1.23, 95%CI: 1.11~1.38),血清アルブミン濃度(0.1 g/dl 上がる毎に:OR=0.70, 95%CI: 0.54~0.88),女性で握力(1 kg 上がる毎に:OR=0.92, 95%CI: 0.86~0.98),社会的役割(1 点下がる毎に:OR=1.81, 95%CI: 1.19~2.73), BMI (1 kg/m2 上がる毎に:OR=1.10, 95%CI: 1.01~1.20),喫煙状況(非喫煙者に対する現喫煙者:OR=7.53, 95%CI: 1.36~41.63)であった。
    結論 農村地域高齢者の尿失禁発症率は男性より女性で高かった。尿失禁発症の危険因子は,タバコ,BMI,社会的役割など改善可能性の高い変数が抽出されたことから,地域高齢者の尿失禁発症の抑制につながる生活習慣の形成と尿失禁の改善を目指す取り組みが必要であるとの知見を得た。
  • 須賀 万智, 吉田 勝美
    2004 年 51 巻 8 号 p. 623-630
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 職域定期健康診断データを用いてメタボリック症候群の各リスク要因の集積の特徴を調べる。
    方法 都内某事務系事業所の健康管理センターにおいて1991~1993年度の定期健康診断を受診して,その後 5 年間連続して定期健康診断を受診した40~59歳男性8,194人から以下の 2 つの対象集団を抽出した。(1)1996~1998年度のメタボリック症候群発症者148人を抽出してメタボリック症候群発症 5 年前までレトロスペクティブに追跡した。各リスク要因を継続して保有していた割合(継続保有率)を求めた。(2)1991~1993年度の 3 リスク要因保有者1,100人を抽出して 3 リスク要因保有 5 年後までプロスペクティブに追跡した。カプランマイヤー法により 3 リスク要因のパターンごとにメタボリック症候群非発症率曲線を求めて,ログランクテストにより各パターン間の有意差を検定した。比例ハザードモデルを用いてメタボリック症候群の発症に関する調整ハザード比と95%信頼区間を算出した。なお,メタボリック症候群の定義は①肥満(Body Mass Index 25 kg/m2 以上),②高血圧(収縮期血圧140 mmHg 以上または拡張期血圧90 mmHg 以上または降圧剤の服用),③糖尿病(空腹時血糖110 mg/dl 以上),④高脂血症(総コレステロール220 mg/dl 以上または中性脂肪150 mg/dl 以上)の 4 条件を満たす場合とした。
    結果 メタボリック症候群発症者に関する解析において,メタボリック症候群発症前 5 年間の各リスク要因の継続保有率は肥満>高脂血症>高血圧>糖尿病の順であった。また,3 リスク要因保有者に関する解析において,メタボリック症候群発症率は肥満+高血圧+糖尿病群>肥満+糖尿病+高脂血症群>肥満+高血圧+高脂血症群>高血圧+糖尿病+高脂血症群の順であった。年齢と喫煙と飲酒と運動を調整したハザード比(95%信頼区間)は高血圧+糖尿病+高脂血症群を基準にして,肥満+高血圧+糖尿病群が4.4 (2.9~6.9),肥満+糖尿病+高脂血症群が3.2 (2.1~4.9),肥満+高血圧+高脂血症群が2.1 (1.4~3.0)であり,3 リスク要因のなかに肥満が含まれるパターンほど,また,糖尿病が含まれるパターンほどメタボリック症候群発症率が高かった。
    結論 メタボリック症候群の発症にあたえる肥満の影響が注目され,3 リスク要因保有者のメタボリック症候群の発症において肥満の役割が大きいと考えられた。
資料
  • 酒元 誠治, 古家 隆, 堀之内 恭子, 興梠 郁子, 鈴木 泉, 久野(永田) 一恵
    2004 年 51 巻 8 号 p. 631-640
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 独居高齢者に配食サービスを提供することが,高齢者の栄養状態の改善につながるかどうか検討する。
    方法 対象は,宮崎県 T 町に在住の生活自立独居高齢者74人(女性,70~90歳,平均80.2歳)である。3 か月以上にわたって配食サービスを昼又は夕食として週に 3 回以上受けている独居者と配食サービスを受けていない独居者,同居者がいる在宅高齢者について身体計測,生化学検査,食事調査を実施し,配食サービスの有無によるこれらの違いを比較した。
    結果 今回の対象者は身体計測値からは栄養状態が良好であると思われた。しかし,独居高齢者のうち,配食サービスを受けていない者の血清総タンパク,血清アルブミンが低く,栄養改善が必要であると思われた。独居者であっても,配食サービスを受けている者のこれらの値は,同居者がいる者とほぼ同じであった。食事調査では,独居者は菓子類の摂取が多く,配食サービスを受けているものはさらに油料理の摂取が多いことがわかった。
    結論 独居高齢者は,提供された食事を食することにより,脂質の摂取量が増加し,血清生化学指標の改善につながったのではないかと考えた。配食サービスは,独居高齢者の栄養改善に役立つ可能性がある。
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