日本公衆衛生雑誌
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55 巻, 1 号
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原著
  • 上田 真寿美, 足達 淑子, 羽山 順子, 山上 敏子
    2008 年 55 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,将来医師となる医学生を対象に,行動科学に基づく睡眠改善教育プログラムを作成・実施し,睡眠と睡眠障害への対処法に関する知識の変化を観察することによって睡眠の改善に関する効果的な医学教育を検討することである。
    方法 対象は医学部医学科の2002年および2003年の 6 年生とした。2002年の 6 年生には90分の講義と 2 週間の体験学習からなるプログラムを,2003年の 6 年生には講義のみのプログラムを実施した。講義では慢性不眠の行動療法について小冊子を用いて解説した。体験学習としては改善目標行動の設定および睡眠と行動のセルフモニタリングを行った。講義後と 2 週後に対象者の睡眠に関する知識,治療への態度,睡眠,睡眠に関連する生活習慣の変化を観察し,2 群(プログラム)間で比較した。
    結果 対象者の睡眠に対する知識は両プログラムともプログラム前よりも後で有意に増加した。また,体験学習を伴うプログラムでは患者への対処法に関する知識が講義前,講義後,体験学習を経るにしたがって変化し,行動療法による睡眠指導が「だいたいできそう」と考える学生が約 6 割に達した。また,体験学習群の睡眠は,「入眠時の悪夢」,「日中の眠気」,「熟眠感」,「起床時の気分」の有意な改善が認められた。また,睡眠関連の習慣でも「昼寝」,「居眠り・うたた寝」,「朝食の摂取」で有意な改善がみられた。一方,講義のみ群でも就床時刻や睡眠時間の不規則性に改善が認められた。
    結語 睡眠改善に対する簡便な教育プログラムを構築・提供することは,睡眠に関する知識や対処法に関する知識の向上および睡眠改善に有効であることが示唆された。また,体験学習の実践を含む行動科学的指導法は医学教育に有効であることも示唆され,さらなる実践研究と普及啓発が必要と考えられた。
資料
  • 松原 建史, 柳川 真美, 黒柳 洋介, 幸田 貴美子, 江上 裕子, 小池 城司, 神宮 純江
    2008 年 55 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 福岡市健康づくりセンターの健康度診断を受診した者の
     1) 体力測定 5 項目における体力レベルの実態と加齢変化について検討すること
     2) 性別・年齢階級別における体力測定 5 項目の 5 段階評価基準を策定すること
    方法 対象は福岡市とその近郊に居住している者で,健康度診断を受診した20歳代~70歳代の6,287人(男性1,972人,女性4,315人)であった。体力測定は,筋力(握力),筋パワー(脚伸展パワー),柔軟性(長座位体前屈),平衡性(閉眼片足立ち),敏捷性(全身反応時間)を行った。全てのデータは年齢階級別(10歳ごと)と性別に分けて解析を行った。
    結果 握力は男女とも40歳代で最高値を示し,その後,加齢と伴に直線的に低下していた。脚伸展パワーは男女とも20歳代で最高値を示し,その後,加齢と伴に直線的に低下していた。長座位体前屈は男性では20歳代から30歳代にかけて大きく低下していた以外は,わずかな低下であった。女性では20歳代で最低値を,50歳代で最高値を示していたが,その変化は小さかった。閉眼片足立ちは男女とも20歳代で最高値を示し,その後,加齢と伴に直線的に低下していた。全身反応時間は男女とも20歳代と30歳代はほぼ同レベルで,その後,加齢と伴に直線的に低下していた。
    結論 脚伸展パワーと閉眼片足立ちの加齢による低下が大きかったことから,寝たきり予防の観点からも,これらの体力レベルを維持・向上させる取り組みが必要である。
     本研究により策定した性別,年齢階級別の体力測定 5 項目の 5 段階評価基準は,福岡市の健康度診断で健康づくり運動の普及や継続に向けた支援を行う際に,有効なツールとして活用されている。
  • 星 淑玲, 近藤 正英, 大久保 一郎
    2008 年 55 巻 1 号 p. 19-29
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 2001年に市区町村による高齢者インフルエンザ予防接種が開始された。公的施策の評価に際しては,財源,利用率などの動向を迅速に把握することが有用である。本予防接種に関しては厚生労働省が市区町村を対象とした悉皆調査法によって接種率等の把握を行ってきているが,本研究では簡便な標本調査法を用いて,全国の費用負担および接種率の平均値の年次推移を明らかにし,かつ,標本調査法の有用性を検討した。
    方法 居住高齢者数が記載された市区町村表が入手できることを利用し,全国の22,671,944人の高齢者から単純無作為抽出法によって300標本を抽出した。同一市区町村の居住者が接種を受ける際に伴う費用が同額であることと,市区町村別の接種率は当該市区町村に居住する個人の接種確率とみなせることを利用し,居住市区町村当局を対象に費用負担と接種率に関する調査票を郵送法によって実施した。統計分析は分散分析および回帰分析を用いた。
    結果 回収率は94.0%であった。1 人当たりの費用の全国平均値の推移(2001-2005年度)は,個人負担額が1,134円,1,136円,1,139円,1,129円,1,148円;公的負担額が2,972円,2,955円,2,966円,2,954円,2,941円;全体費用が4,194円,4,169円,4,178円,4,156円,4,142円であった。各費用の年次推移に有意差は認められなかった。接種率の全国値の推移(2001-2004年度)は29.9%,37.8%,46.1%,49.6%で有意な上昇が認められた。
    結論 接種開始以来 5 年を過ぎた高齢者インフルエンザ予防接種の個人負担額,公的負担額,全体費用(個人負担額と公的負担額の合計)の全国平均値は本研究によって始めて推定された。いずれの費用項目の全国平均値の年次推移にも有意な変化がなかった。また,悉皆調査によって公表された接種率と比較した結果,本研究で考案した単純無作為標本調査法は有用であることが示された。
  • 曽我部 夏子, 丸山 里枝子, 佐藤 和人, 五関(曽根) 正江
    2008 年 55 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 男子学生を対象として,喫煙者の食生活状況および食生活の実態を把握することを目的とした。
    方法 男子学生277人を対象に,自記式調査票を用いて,食行動や食態度,食品摂取頻度や生活習慣に関して調査を行った。さらに,踵骨音響的骨評価値測定,身長,体重,体脂肪測定,握力測定を行った。
    結果 本対象者の喫煙率は22.4%であった。体格や握力,骨量では,喫煙者と非喫煙者との差はみられなかった。食生活状況では,「食事を決まった時間にとっている」,「食生活を点検する習慣を持っている」,「健康であるために役立つ食生活のサポートを受けたいと思う」,「かっこよくあるために役立つ食生活のサポートを受けたいと思う」の項目が,喫煙者は非喫煙者に比べて,「はい」と答えた者の割合が有意に低かった(それぞれ P<0.05)。欠食状況については,喫煙者が非喫煙者に比べ,欠食する者の割合が有意に高値を示した(P=0.002)。さらに,飲酒習慣がある者の割合は,喫煙者で有意に高く(P=0.001),運動習慣がある者の割合は,喫煙者が有意に低かった(P<0.001)。
    結論 男子学生において喫煙者は,非喫煙者に比べて,食生活が不規則で,欠食率が高いこと,また食生活に対する意識が低いことが示唆された。
  • 平井 寛, 近藤 克則
    2008 年 55 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防事業(特定・一般高齢者施策)の開催場所として想定される保健センター,老人福祉センター等の施設の利用状況に関連する要因としての交通手段と距離の重要性を明らかにし,介護予防事業の参加促進のために考慮すべきことを探ることを目的とする。
    方法 A 県 B 町の要介護認定を受けていない65歳以上の全高齢者5,759人を対象として自記式アンケート調査を行い,2,795票を回収した(有効回収率48.5%)。平均±SD 年齢72.3±6.2歳,サンプル全体に占める女性の割合は50.0%であった。目的変数として町施設の利用頻度,説明変数として基本的属性(性,年齢)手段的 ADL(instrumental activities of daily living; IADL)の自立度,「特定高齢者」該当の有無,老年うつ病スケール(GDS15項目版),主観的健康感,利用可能な交通手段,居住地区から町施設までの直線距離,調整変数として就労の有無,治療中の疾病の有無を用いた。分析手法はカイ二乗検定,多重ロジスティック回帰分析の 2 つである。カイ二乗検定では「週 1 回以上利用」,「月 1~2 回以上利用」,「年数回以上利用」の 3 つの利用頻度別に各要因との関連をみた。多重ロジスティック回帰分析では,まず年齢のみ調整した分析を行い,つぎにその分析で男女いずれかで有意な関連のあった変数を同時投入した。
    結果 カイ二乗検定,年齢のみ調整の多重ロジスティック回帰分析ともに,身体・心理的要因が望ましい状態にある群に対し,良くない群で有意に町施設利用が少ないことが示された。また町施設までの直線距離が短い者に比べ長い者で町施設の利用が少ない傾向が男女とも共通してみられた。多変量解析では,うつ・IADL との町施設利用との関連はみられなくなった。距離と町施設利用の関連は男女ともにみられ,町施設までの距離が250 m 未満の群を基準とすると1,000 m 以上の群は,町施設利用のオッズ比は男女とも0.4前後に低下していた。交通手段と町施設利用の有意な関連は女性のみでみられた。
    結論 介護予防事業の開催場所として想定される,保健センター・老人福祉センター等の町施設の利用は男女とも,施設までの距離が短いほど有意に多かった。また女性では利用可能な交通手段が豊かであるほど利用が多いという有意な関連が見られた。介護予防事業やその他の健康増進のための事業への参加を促進するためには,距離や交通手段などアクセスのしやすさに配慮する必要があると考えられる。
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