日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
66 巻, 12 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
公衆衛生活動報告
  • 佐藤 太一, 小栁 淳, 藏田 純子, 楠城 香織, 櫻本 万紀子, 山田 万里, 藤巻 嘉須美, 高橋 郁美
    原稿種別: 公衆衛生活動報告
    2019 年 66 巻 12 号 p. 737-745
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 育児の中で発達障害に関して子どもに感じる気になることや育てにくさ(以下,「ちょっと気になる」)を抱える保護者が,相談先を知り,相談できるようになることは,保護者の育てにくさの解消や子どもの理解にとって重要である。新宿区では,「ちょっと気になる」について保護者向けパンフレットを作成し,その有効性を,保護者への質問紙に基づき評価したため報告する。

    方法 2016年4月~6月の1歳6か月児,3歳児健診の対象者の保護者1,164人に,健診案内送付時にパンフレットと無記名自記式質問紙を同封し,健診当日に回収した。質問項目は,KAPモデルを参考に,保健所・保健センター職員により構成する作業部会で検討した。保健センターが「ちょっと気になる」の相談先であることの理解状況は属性により分析し,「ちょっと気になる」への態度については,パンフレットを読む前後の変化があるか分析した。また,周囲に「ちょっと気になる」について困っている保護者がいた場合の態度についても集計した。自由記載の回答は内容に基づき分類した。

    活動結果 1歳6か月児,3歳児健診対象者の保護者,各269人(43.5%),358人(65.7%)の回答を得た。保健センターが「ちょっと気になる」の相談先であることを「パンフレットを読んでわかった」が398人(67.5%)であった。出生順位や健診区分による有意差は認められなかった。パンフレットを読む前では子どもの「ちょっと気になる」について,「保健センターに相談」が14人(6.8%)だったが,パンフレットを読んだ後は61人(29.5%)となり,有意に増加していた。現時点で「ちょっと気になる」がない保護者の,周囲に「ちょっと気になる」について困っている保護者がいた場合の態度は,「気持ちを理解したい」243人(62.6%)と回答したものが多かった。自由記載では,今後の周知活動への要望や,パンフレットの効果に関する記述が見られた。

    結論 パンフレットは,保護者がわが子に「ちょっと気になる」がある場合,相談先を理解してもらい,相談することを前向きに捉えてもらうために有効ではないかと考えられる。また,周囲の保護者にとっても「ちょっと気になる」子とその保護者への関心を高めた可能性がある。パンフレットをすべての保護者に配布することは,地域で子育てをしていく際の安心感を与えるものであることが示唆された。

資料
  • 加藤 美生, 石川 ひろの, 奥原 剛, 木内 貴弘
    原稿種別: 資料
    2019 年 66 巻 12 号 p. 746-755
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 複数の国や地域で事業展開する研究開発型多国籍製薬企業は,社会的貢献の対象である患者団体との繋がりが深い。社会的貢献の内容は多岐にわたり,寄付金や協賛費などの直接的資金提供から,企業主催の講演会などに伴う費用などの間接的資金提供,患者団体への依頼事項(原稿執筆や監修,調査)への謝礼,さらには社員による労務提供がある。研究開発型企業の場合,ユーザーである患者の声を生かし,より患者に寄り添った医薬品の開発が求められる。そのため,企業と患者団体との関係性に関する透明性を担保することは,あらゆるステークホルダーにとって重要である。本研究の目的は研究開発型多国籍製薬企業の社会的貢献活動と患者団体の関係の透明性を確保するための情報開示動向を,日米欧の業界団体規程を軸に把握することである。

    方法 欧州製薬団体連合会(EFPIA),米国研究製薬工業協会(PhRMA),日本製薬工業協会(JPMA)による「製薬企業と患者団体との関係の透明性」に関連する規程の記述内容について,「透明性」「対等なパートナーシップ」「相互利益」「独立性」の4概念を用いて質的帰納的に分析した。

    結果 記述内容のほとんどは「透明性」に関していた。最も具体的に記載されていたのはEFPIAの規程であり,患者団体の制作物内容への影響を与えないことや企業主催あるいは患者団体主催のイベントやホスピタリティに関する記載があった。3団体の規程とも財政支援や活動項目の目的や内容について,記録をとることを課していた。しかし,透明性の確保のための情報公開については,PhRMAでは必須とせず,JPMAでは明確な更新スケジュールについて明記がなかった一方,EFPIAでは年1回公開情報の更新を義務付けていた。「対等なパートナーシップ」については,相互尊重,対等な価値,信頼関係の構築などのワードが共に抽出された。いずれの規程も「相互利益」についての言及がなかった。「独立性」に関しては,いずれの規程も患者団体の独立性を尊重または確証することが記述されていた。

    結論 各団体が規程を示し,各会員会社による自発的な情報開示を推奨していたが,団体によりその詳細の度合いが異なっていた。業界団体の規程は会員会社のポリシーの基となることから,できるだけ詳細にかつ地域を超えて,同様の情報開示内容や規程が揃えられることが望まれる。

  • 黒谷 佳代, 金田 恭江, 大渕 智美, 瀧本 秀美
    原稿種別: 資料
    2019 年 66 巻 12 号 p. 756-766
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 食育基本法に基づき,全都道府県が食育推進計画を作成し,食育を推進している。一方,市町村の食育推進計画の作成割合は100%に到達していない。その背景には適切な情報提供の不足が挙げられる。本研究では,都道府県計画の情報から,市町村計画の策定に寄与する情報を抽出することを目的とした。

    方法 2018年12月現在,各都道府県で公開されている現行および前回の食育推進計画の情報を収集した。現行計画については,計画名,計画の位置づけ,期間,基本理念,基本方針,基本施策,具体的目標に関するデータを抽出した。また,前回計画の具体的目標を「目標達成」,「改善したが目標未達成」,「変化なし」,「悪化」,「評価不可」として評価した。

    結果 現行計画を食育基本法に基づく独立した計画として作成していた都道府県は74.5%,他施策を兼ねたものが25.5%であった。計画は5年間のものが72.3%と最も多く,基本理念に「健康」や「健全な食生活」を含む計画は72.3%で,基本施策実施担当部局を明記した計画は25.5%であった。現行計画の具体的目標(n=1,180)は,国の第3次食育推進基本計画の生活習慣病予防・改善の食生活や子供の朝食欠食に関連した項目が多かったものの,国と同じ目標値を設定しているものはわずかであった。また,具体的目標の策定時値の出典が明記されていたのは80.0%であったものの,目標値の設定根拠が明記されていたのは24.5%であった。前回計画の具体的目標(n=1,197)のうち,目標達成項目は24.7%,悪化項目は22.1%あった。各都道府県の目標項目のうち,50%以上の項目が達成されていた都道府県は6つで,評価と考察がきちんと実施され,次期計画策定に生かされていた。目標達成項目は,朝食,共食,食事バランスなどの食生活,生活習慣病の予防・改善,地産地消の推進に関するものが多く,悪化項目も同様であった。数値目標値の場合,策定時値を基準にした目標値の比は,目標達成項目に比べ,悪化項目の方が1に近かった。

    結論 食育計画の評価を踏まえた次期計画策定が,達成可能な目標設定につながることが示唆された。また,目標項目および目標値の設定根拠,出典,担当部局などの具体的な情報を都道府県食育推進計画に記載することで,市町村計画策定に役立ち,市町村の食育推進関係者の理解の向上につながるだろう。

  • 的場 由木, 斉藤 恵美子
    原稿種別: 資料
    2019 年 66 巻 12 号 p. 767-777
    発行日: 2019/12/15
    公開日: 2019/12/25
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,都市部の生活支援付き民間宿泊施設に新規入所した生活困窮者の健康状態の特徴を年代別に明らかにすることである。

    方法 対象者は,都市部の生活困窮者に居住・生活支援を提供しているNPO法人の宿泊所・自立援助ホームの新規入所者(2012年4月1日~2015年3月31日)341人とした。調査項目は,入所時の記録から,性別,年齢,障害支援区分,要介護度,利用開始時の健康状態,施設利用に至る経緯等とした。利用開始時の健康状態の特徴について,年代別に検討した。

    結果 対象者の9割以上は40歳以上の中高年齢層であり,生活保護を受給している単身男性が多く,病院や施設からの退所後に帰住先がないことや身体機能の低下や認知症状の悪化を理由に宿泊施設利用に至っていた対象者が多かった。また,40歳未満の対象者は依存症や統合失調症,知的障害・発達障害の割合が高く,40歳代から50歳代は,精神疾患に加え,生活習慣病の割合が高かった。さらに,60歳以上の対象者は,認知症や視聴覚系の疾患等の老化に伴う疾患の割合が高かったが,利用開始時の疾病が不明の割合も高かった。

    結論 本調査の結果から,民間宿泊施設に新規入所した生活困窮者の多くが,利用開始時にすでに精神的・身体的な疾患や障害を有していることが明らかとなった。年代別に異なった生活支援ニーズを有していることが示唆されたことから,今後,民間の宿泊施設入所者の年代別の課題に応じた生活支援を提供する仕組みを検討する必要がある。

会員の声
feedback
Top