日本公衆衛生雑誌
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69 巻, 2 号
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原著
  • 杉本 昌子, 槇田 浩祐, 吾妻 有貴, 福田 典子, 先田 功
    2022 年69 巻2 号 p. 117-124
    発行日: 2022/02/15
    公開日: 2022/03/02
    [早期公開] 公開日: 2021/11/10
    ジャーナル フリー

    目的 マンモグラフィ(MMG)単独検診の推進に向けて,問診内容を含めた住民検診データを用いて,視触診で見つかるMMG非検出乳癌の実態を明らかにし,乳癌との関連要因を検討することで,視触診省略によるMMG非検出乳癌への対応策について示唆を得ることを目的とした。

    方法 西宮市においてデータ化が可能であった2014, 2016, 2017年度の乳がん個別検診のデータベースから,個人情報をすべて削除し,連結可能匿名化したデータファイルを用いた。MMG非検出乳癌は,視触診判定のみで要精密検査(MMG判定はカテゴリー2以下で異常なし)となった者のうち,精密検査で「乳癌」と診断された者により把握した。乳がん検診の精度管理指標(プロセス指標)は,受診者全体に加え,視触診判定のみで要精密検査となった者についても算出した。乳癌と各項目との関連は,χ2検定またはFisherの正確確率検定等により分析した。

    結果 受診者13,504人のうち,要精密検査者は1,247人(9.2%)であった。精密検査の結果,乳癌と診断された者は44人(3.5%)であり,このうち,MMG非検出乳癌は4人であった。また,プロセス指標はいずれも許容値を満たしていた。MMG非検出乳癌症例を検討したところ,4例中3例は乳房で気になることとして「しこり」と答えていた。乳癌と各項目との関連を分析した結果,乳癌と有意な関連が認められた項目は,「乳房で気になることの有無」であり,「しこり」と「分泌物」に有意な差異が認められた。

    結論 MMG非検出乳癌の4例中3例はしこりを自覚しており,しこりと分泌物の自覚症状は乳癌と有意に関連していた。視触診省略によるMMG非検出乳癌への対応策として,これらの自覚症状に着目した受診勧奨の啓発,問診の徹底と観察,医師への伝達など多職種による連携,ならびにブレスト・アウェアネスの普及が重要であることが示された。

  • 宮川 雅充, 濱島 淑恵, 南 多恵子
    2022 年69 巻2 号 p. 125-135
    発行日: 2022/02/15
    公開日: 2022/03/02
    [早期公開] 公開日: 2021/11/10
    ジャーナル フリー

    目的 日本においても,家族のケアを担っている子ども(ヤングケアラー)が相当数存在することが指摘されている。しかしながら,ケア役割の状況が彼らの精神的健康に与える影響に関する調査研究はほとんど行われていない。本研究では,高校生を対象に,精神的苦痛とケア役割の状況との関連を分析し,ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に与える影響について検討した。

    方法 埼玉県の県立高校(11校)の生徒4,550人を対象に質問紙調査を行った。調査では,家族の状況とともに,彼らの担うケア役割の状況を尋ねた。また,Kessler 6項目精神的苦痛尺度(K6)の質問も尋ねた。なお,高校生が質問内容を容易に理解できるように,K6の公式日本語版の一部に変更を加えたものを用いた。精神的苦痛とケア役割の状況との関連を,交絡因子の影響を調整した回帰分析(重回帰分析および順序ロジスティック回帰分析)により検討した。

    結果 本質問紙調査では,3,917人から有効回答を得た。本稿では,分析で使用する変数に欠損値がなく,年齢が15歳から25歳であった3,557人を分析対象とした。なお,3,557人のうち19歳の者は23人(0.6%),20歳以上の者は5人(0.1%)であった。34人(1.0%)が幼いきょうだい(障がいや疾病等はない)のケアを担っていた(ヤングケアラーA)。また,190人(5.3%)が,障がいや疾病等のある家族のケアを担っていた(ヤングケアラーB)。残りの3,333人(93.7%)は,家族のケアを行っていなかった(対照群)。2つの回帰分析は,同様の結果となり,いずれの分析においても精神的苦痛とケア役割の状況との間に有意な関連が認められた(それぞれ,P=0.003,P<0.001)。順序ロジスティック回帰分析の結果では,ヤングケアラーBの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.572であり,対照群と比較して有意に高かった(P<0.001)。一方,ヤングケアラーAの精神的苦痛(K6)のオッズ比は1.666であり,対照群との間に有意な差は認められなかった(P=0.084)が,オッズ比は対照群よりも高く,ヤングケアラーBと近い値であった。

    結論 ケア役割がヤングケアラーの精神的健康に影響を及ぼすことが示唆された。

  • 田近 敦子, 井手 一茂, 飯塚 玄明, 辻 大士, 横山 芽衣子, 尾島 俊之, 近藤 克則
    2022 年69 巻2 号 p. 136-145
    発行日: 2022/02/15
    公開日: 2022/03/02
    [早期公開] 公開日: 2021/11/10
    ジャーナル フリー

    目的 厚生労働省は2014年の介護保険法改正を通じて,本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた取組も進めるとし,通いの場づくりを中心とした一般介護予防事業を設けた。しかし,通いの場への参加による介護予防の効果を複数の市町を対象に検証した報告は少ない。本研究の目的は通いの場参加による要支援・要介護リスクの抑制効果を10道県24市町のデータを用い検証することである。

    方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が10道県24市町在住の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013・2016年度の2時点の自記式郵送調査データを用いた。目的変数は要支援・要介護リスク評価尺度(Tsuji, et al., 2018)の合計点数(以下,要介護リスク点数)5点以上の悪化とし,説明変数は通いの場参加の有無とした。調整変数は2013年度の教育歴,等価所得,うつ,喫煙,飲酒,手段的日常生活動作,2013年度の要介護リスク点数(性・年齢を含む),さらに独居と就業状況を加えた9変数とした。統計学的分析は全対象者,および前期・後期高齢者で層別化したポアソン回帰分析(有意水準5%)を行った。感度分析として,要介護リスク点数を3点,7点以上の悪化とする分析も行った。

    結果 対象者3,760名のうち参加者は全体で472人(前期高齢者316人,後期高齢者156人),12.6%(11.8%,14.5%)であった。参加なしに対して参加あり群における要介護リスク点数5点以上の悪化の発生率比は全対象者で0.88(95%信頼区間:0.65-1.18),前期高齢者で1.13(0.80-1.60),後期高齢者で0.54(0.30-0.96)となり,後期高齢者で有意であった。また,要介護リスク点数3点や7点以上の悪化を目的変数とした感度分析でも同様の結果であった。

    結論 非参加者と比較し,通いの場参加者において,要介護リスク点数5点以上の悪化は,後期高齢者で46%抑制されていた。とくに後期高齢者が多い地域に対して通いの場づくりを進め参加者を増やすことが,介護予防を推進する上で有効である可能性が示唆された。

  • 戸ヶ里 泰典, 阿部 桜子, 井上 洋士
    2022 年69 巻2 号 p. 146-157
    発行日: 2022/02/15
    公開日: 2022/03/02
    [早期公開] 公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は日本国内の成人男女を対象として,第1にHIV陽性者に対するパブリックスティグマの実態,第2に標語「Undetectable=Untransmittable(ウイルス量検出限界値未満なら感染しない:U=U)」に関する情報とパブリックスティグマとの関連,第3にパブリックスティグマの変化とHIV陽性者に向き合ってきた経験との関連を明らかにすることを目的とする。

    方法 国内インターネット調査会社モニターを対象として,性的指向がヘテロセクシャルで,HIV陽性でなく,知り合いにHIV陽性者がいない20歳代から60歳代の男女を対象とした横断研究デザインのオンライン調査を2019年9月に実施し,2,268人を分析対象とした。パブリックスティグマは精神障害者向けのビネットをHIV陽性者向けに改変した社会的距離尺度により測定した。社会的距離は,「隣近所になる」「あいさつしたり話したりする」「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」など6項目とした。回答者に「U=U」に関する情報を提供し,提供前後での社会的距離の各項目の受け入れの変化を「非受入のまま」「受入⇒非受入」「非受入⇒受入」「受入のまま」の4カテゴリで扱った。

    結果 「あいさつしたり話したりする」以外の項目では情報提供により社会的距離は短縮された(男性のオッズ比1.76~4.18,女性のオッズ比2.25~7.00)。また,「非受入のまま」が多かった項目は「あなたの親せきと結婚する」が男性で57.5%,女性で58.1%,次いで「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」が男性で37.0%,女性で37.3%であった。多項ロジスティック回帰分析の結果,男女ともに「あなたの親せきと結婚する」については男女ともにHIV陽性者と向き合った経験が関連しており,「受入のまま」に比して「非受入のまま」はHIV陽性者に関するテレビ・ラジオなどの番組視聴,映画や演劇の観劇,小説や本の読書の経験が少なかった(男性オッズ比0.38~0.63,女性オッズ比0.50~0.56)。

    結論 HIV陽性者に対する社会的距離は,家族や子育てなどプライベート面で遠い傾向にあること,「U=U」の説明により社会的距離は各項目で短縮化する可能性が高いこと,HIV陽性者に対しメディア視聴・鑑賞,読書など主体性のある経験が社会的距離の近さに関連することが分かった。

資料
  • 岩佐 一, 中山 千尋, 森山 信彰, 大類 真嗣, 安村 誠司
    2022 年69 巻2 号 p. 158-168
    発行日: 2022/02/15
    公開日: 2022/03/02
    [早期公開] 公開日: 2021/11/10
    ジャーナル フリー

    目的 「心的外傷後成長(posttraumatic growth)」(以下,PTG)は,「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがきや奮闘の結果生じるポジティブな心理的変容」であり,心的外傷の体験者に対する心理的支援に活用されている。本研究は,東日本大震災を経験した福島県住民におけるPTGの自由記述を分類し,その傾向を調べること,基本属性とPTG自由記述の関連,「放射線健康影響不安からの回復」とPTG自由記述の関連について検討することを目的とした。

    方法 2016年8月に,20~79歳の福島県住民2,000人に自記式郵送調査を行った。PTGの有無について質問した後,PTGの自由記述を求めた。基本属性として,年齢,性別,教育歴の回答を求めた。震災直後と調査時点における,放射線健康影響に対する不安を問い,対象者を「不安なし」群,「不安から回復」群,「不安継続」群に分割した。Posttraumatic Growth Inventory(Tedeschi & Calhoun, 1996)における5つの領域(「他者との関係」「新たな可能性」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」)に基づき,さらに西野ら(2013)を参考として,「防災意識の高揚」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」を加えた8つのカテゴリにPTG自由記述を分類した。

    結果 916人から回答を得て,欠損の無い786人を分析対象とした。女性と64歳以下の者では,「他者との関係」「人生への感謝」を回答した者が多かった。教育歴が高い者では,「他者との関係」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」を回答した者が多かった。「不安から回復」群において,「原子力問題への再認識」を回答した者が多かった。

    結論 女性や若年者では,家族・友人関係,地域との結びつきを実感する等の報告や,日常生活に対する感謝の念が生じる等の報告がなされやすかった。教育歴が高い者では,国や電力会社,全国紙等が発する情報を鵜呑みにせず批判的に吟味するようになった等の報告や,震災後自身の精神的な強さや成長を認識できた等の報告がなされやすかった。放射線健康影響不安から回復した者では,原発やエネルギー問題に対して新たな認識が生じた等の報告がなされやすかった。

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