日本公衆衛生雑誌
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65 巻, 6 号
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特別論文
  • 多田羅 浩三
    2018 年 65 巻 6 号 p. 255-265
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/29
    ジャーナル フリー

    公衆衛生の誕生 フランクは,メディカルポリースの体系構築を提言した。チャドウィックは,「全数対応」の体制を公衆衛生法によって発足させた。ラムゼイは,公衆衛生を担う保健医官は,救貧法体制から独立した身分とする必要があると言った。シモンは,「公」の制度を担う「私」の知恵の重要性を強調した。

    日本の公衆衛生 1871年から1873年まで欧米を訪問し,各地の経験から学んだ長与専斎の起草による「医制」が1874年に発布された。

     『医制八十年史』の「公衆衛生」の章の「第一節保健衛生」の「第一項栄養」は,高木兼寛に関する,次の文章で始まっている。

     「わが国の栄養改善は脚気対策に始まった。‥高木兼寛は当時海軍の糧食が白米のみを主としていることに注目し,麦と米を等分に混入するという方法で兵食改良の必要性を訴えるに至った。‥これらはいずれも脚気の原因が食事の不完全にあるとして栄養問題の解決を一歩前進させたものである。」

     わが国の公衆衛生の扉は,薩摩の医師高木兼寛によって開かれたと理解できる。

     農商務省の嘱託医石原修が,1910年に工場衛生調査の結果を報告し,工場法が1911年に制定された。

     1937年に,都道府県,大都市による保健所の設立を規定した保健所法が制定された。

     1947年,東京大学,新潟大学,大阪大学に公衆衛生学教室が設置され,日本公衆衛生学会が発足した。

     1978年,アルマ・アタ宣言が発表され,厚生省は国民健康づくり計画を発表した。1982年,老人保健法が制定され,1994年,保健所法が改正され地域保健法となり,1997年に全面施行された。

     アメリカで1990年,Healthy People 2000の発表があり,厚生労働省は2000年,「健康日本21」を発表,2002年健康増進法を制定した。

    集団医学への道 大阪大学の松澤佑次教授が,1994年に「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」が,冠動脈疾患などの上流にある病態であることを報告した。2005年,メタボリックシンドローム診断基準検討委員会が,メタボリックシンドローム評価基準を発表した。厚生労働省は,特定健診・保健指導を2008年から実施した。特定健診の対象集団を「集団医学」の対象とし,集団の構成員の疾病の制圧につながる基本の因子を明らかにすることで,その結果をもとに保健指導を行うことが,公衆衛生には求められている。

原著
  • 豊島 裕子
    2018 年 65 巻 6 号 p. 266-276
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/29
    ジャーナル フリー

    目的 介護福祉士の職業性ストレス反応を,生理学的手法で評価した。個人のストレス反応量だけでなく,各種業務に対するストレス反応も合わせて評価した。

    方法 老人保健施設に勤務する介護福祉士35人を対象に,ホルター心電計で記録した就労中心電図より周波数解析で求めた交感神経機能変動で,職業性ストレスを評価した。時間ごとの業務内容を業務日誌に記録し,各ストレス反応値と比較した。合わせて,終業時採取唾液中クロモグラニンA(CgA)を測定した。

    結果 測定当日,前日とは異なるシフトで就労していた群は終日ストレス反応最高値(1日の中で最も強いストレス反応を惹起する業務中のストレス反応値)が26.2±12.0と,前日と同一シフト群の16.1±6.5に比して有意に高値だった(P<0.05)。CgAも同様の結果だった(10.8±14.6 pmol/mg蛋白,2.3±1.2,P<0.05)。また,日勤帯では,業務別ストレス反応値(その業務中の総ストレス反応)と業務別ストレス反応ピーク値(その業務中のストレス反応のピーク値)は,多職種とのかかわり(148.9±27.0,29.8±9.1),口腔ケア(82.4±16.7,15.4±8.7)で有意に高値だった。入浴介助でも業務別ストレス反応ピーク値が20.5±9.6と有意に高値だった。夜勤帯では業務別ストレス反応値と業務別ストレス反応ピーク値は,口腔ケア(口腔ケア:100.1±23.1,17.6±8.6),更衣介助(102.8±22.8,19.8±11.7)で有意に高値だった。シーツ交換の業務別ストレス反応値と業務別ストレス反応ピーク値は,(夜勤:120.6±23.3,25.7±10.9;日勤:65.0±10.6,16.4±10.9)と,夜勤で有意に高値だった。

    結論 心電図による交感神経機能を指標としたストレス反応評価は介護福祉士のストレス反応評価に有用と考えた。CgAも同様に有効と考えた。シフト勤務切り替わり日には通常よりストレス反応が強まることが示唆された。介護福祉士は,多職種連携業務,口腔ケアで強いストレス反応を起こしていた。さらに,これら業務では瞬間的に交感神経機能が極めて高い状態になることもわかった。また,入居者の体に直接触れる業務では,ストレス反応が強いこともわかった。シーツ交換は,夜間にのみ強いストレス反応を引き起こしていた。

  • 吉田 由美, 安齋 ひとみ, 糸井 志津乃, 林 美奈子, 風間 眞理, 刀根 洋子, 堤 千鶴子, 奈良 雅之, 鈴木 祐子, 川田 智惠 ...
    2018 年 65 巻 6 号 p. 277-287
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/29
    ジャーナル フリー

    目的 本研究では,医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへ行われている支援と必要としている支援について明らかにすることを目的とする。

    方法 対象は,がん患者会団体からがんピアサポーター活動中の研究参加候補者の紹介を受け,研究参加への同意が得られたがんピアサポーター10人である。質的記述的研究方法により,インタビューガイドを用いたインタビューを2014年7月から10月に実施した。逐語録よりコードを抽出し,サブカテゴリー化,カテゴリー化した。得られた結果を研究参加者に確認し内容の確実性を高めた。本研究は目白大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。

    結果 研究参加者は40歳代から70歳代の男性2人,女性8人の計10人であり,医療機関でがん患者や家族の個別相談,電話相談,がんサロン活動を行っているがんピアサポーターであった。医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへ行われている支援として,4つのカテゴリー【がんピアサポーター同士での学び合いと支え合い】【利用者から得る学びと元気】【がんピアサポーターの自己研鑚】【病院と行政からの協力】が生成された。がんピアサポーターが必要としている支援として,7つのカテゴリー【がんピアサポーター同士の学びと支えの環境】【がんピアサポートに関する学習】【確かで最新の情報】【社会のがんに関する理解と協力】【活動や患者会団体に対する経済的支援】【がんピアサポート活動のしくみの改善】【がんピアサポ—ター養成講座の質保証】が生成された。

    結論 がんピアサポーターへ行われている支援として,がんピアサポーター同士が相互に支援し合い,利用者から学びと元気を獲得し,自己研鑽し,周囲からの協力を得ていた。必要な支援として,がんピアサポーター同士がさらに向上していくための学びの場と支える環境,活動を支える確かで最新の情報を求めていた。また,相談等の場面で対処困難な場合もあり,病院など周囲からの助言や情緒的な支援を必要としていた。社会のがんに関する理解と協力,活動や患者団体に対する経済的支援,病院におけるがんピアサポーター配置の制度化やがんピアサポーター養成講座の質保証など多面的な支援が望まれていた。医療機関を活動の場とするがんピアサポーターへの支援はまだ十分ではなく,上述のような,さらなる支援の必要性が明らかになった。

資料
  • 佐野 智子, 森田 恵子, 奥山 陽子, 伊藤 直子, 長田 久雄
    2018 年 65 巻 6 号 p. 288-299
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/29
    ジャーナル フリー

    目的 加齢性難聴は大きな健康課題のひとつであり,早期の発見が望まれる。難聴の簡易スクリーニング検査として,指こすり音聴取検査があるが,これまでは加齢性難聴を対象として検討されてこなかった。本研究の目的は,従来の方法を改良した「指こすり・指タップ音聴取検査(Finger Rub/Finger Tap screening test: FRFT検査)」を提唱し,加齢性難聴のスクリーニング検査として,その有効性を検討することである。

    方法 健康状態を比較的維持し,地域で自立した生活を送っている65歳以上の高齢者を対象とした。介護予防事業(運動教室)の参加者のうち調査協力に同意した73人を対象とし,FRFT検査と純音検査を実施した35人(70耳)を分析対象とした。FRFT検査は,耳からの距離5 cm,30 cm,60 cmの条件で,指こすり音および指タップ音を2回ずつ提示し,その反応を記録するものである。正答を1点,誤答および無答を0点として得点化した。純音検査の結果から4周波数平均聴力を算出し,平均聴力とFRFT合計得点のスピアマンの順位相関係数を算出した。FRFT検査得点を検定変数として,receiver operating characteristics(ROC)解析を行い,感度・特異度からFRFT検査の妥当性を検討した。状態変数は,軽度難聴以上の有無と中等度難聴の有無の2種類で行った。

    結果 純音聴力とFRFT合計得点に有意な負の相関(r=−0.79, P<0.01)があり,併存的妥当性が確認された。ROC解析により,FRFT合計得点は感度97.6%,特異度71.4%で26 dB以上の難聴を検出可能であった。また,60 cm条件を含めない短縮版(5 cm条件と30 cm条件の合計)でも,感度95.2%,特異度71.4%で26 dB以上の軽度難聴を検出できた。

    結論 FRFT検査によって,加齢性難聴のスクリーニングが可能であることが明らかになった。非検査耳を遮蔽することなく,軽度難聴以上を検出することができる,非常に簡便で,非侵襲性の高い,優れた検査であることが示された。また,音響分析によって,指こすり音は高音漸傾型の難聴に,指タップ音は低音障害型や全般的に聴力低下がみられる耳垢栓塞にも有効である可能性が示唆された。

  • 佐藤 陽子, 千葉 剛, 梅垣 敬三
    2018 年 65 巻 6 号 p. 300-307
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/29
    ジャーナル フリー

    目的 妊婦や小児におけるサプリメント利用は安全性確保の観点から注目される。そこで未婚,もしくは未妊娠の若い女性として大学生を対象に,心理的要因のひとつのパーソナリティ特性とサプリメント利用行動との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 2015年10月~11月に,属性,サプリメントの利用状況,サプリメントに対する肯定的態度,食生活リテラシー,主要5因子性格検査(Big Five)によるパーソナリティ特性を質問項目として,無記名自記式質問紙調査を実施した。対象は東京都および埼玉県内の女子大学・短期大学に在籍する学生230人とし,228人から回答を得た。このうち解析対象項目に欠損のない124人を解析対象者とし,パーソナリティ特性と他項目との関連を検討した。解析にはMann-Whitney検定,Spearmanの順位相関係数,χ2検定,Kruskal-Wallis検定を用いた。

    結果 サプリメント利用者は19.4%であり,利用者は非利用者よりも外向性得点が高かった。パーソナリティ特性とサプリメントに対する肯定的態度,食生活リテラシーに関連は認められなかった。

    結論 パーソナリティ特性がサプリメント利用行動に与える影響は限定的であると考えられた。

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