日本公衆衛生雑誌
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52 巻 , 4 号
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総説
  • 藤原 佳典, 杉原 陽子, 新開 省二
    2005 年 52 巻 4 号 p. 293-307
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
     急速に少子高齢化が進むわが国においては高齢者の社会活動をいかにして,社会全体の活性化につなげるかが問われている。高齢者ボランティアの活用はその方策の一つとして注目されているが,わが国において高齢者ボランティアと心身の健康に関する研究は緒についたばかりである。
     本研究では,すでに30年以上も前からボランティア活動への参加が健康に及ぼす効果について研究がなされてきた北米における研究を概観することにより,以下の点が明らかになった。①高齢者のボランティア活動は高齢者自身の心理的な健康度を高める。②ボランティア活動は死亡や障害の発生率の抑制といった身体的健康を高める効果が示されているが,心理的効果に比べて先行研究の数が乏しい。③性や人種,健康状態,社会経済状態,社会的交流の多寡等によってボランティア活動の効果が異なる可能性がある。身体的な健康に対しては高年齢の者ほど効果は強いが,社会的交流の活発な者,不活発な者のいずれが,より強い効果を得やすいかは議論が分かれる。④ボランティア活動の内容による心身の健康への効果の相違を分析した研究は数少ない。⑤心身の健康に最も好影響を及ぼす量的水準は,概ね活動時間が年間40~100時間程度とするものが多いが,必ずしも一致せず,現時点で時間やグループ数についての至適水準を示すことは難しい。⑥ボランティア活動に参加すると心理的,身体的および社会的要因が改善することにより心身の健康度を高めると考えられてきたが,これらの要因の媒介効果は比較的弱く,メカニズムに関しては未解明の点が残されている。
     以上を踏まえ,わが国の地域保健事業のプログラムの一つとして高齢者ボランティアの活用を考慮した場合に,まず優先されるべき研究課題は高齢者の健康維持・向上に望ましいボランティア活動の内容,従事時間や所属グループ数の探索であろう。一方,ボランティア参加者はもともと健康度が高い可能性があるので,今後は長期間の追跡や介入研究によるエビデンスを蓄積する必要があろう。
     地域保健事業への導入を検討する際には,地域活動に関心が薄いとされる層の健康づくりの方策にもつながる可能性があるが,これらの層がボランティア活動へ参加・継続しやすくするためにはできる限り低年齢で,生活機能が高いうちから,ボランティア活動を啓発する機会を提供していくことが,望ましいと言えよう。
原著
  • 鶴田 来美, 藤井 良宜, 前田 ひとみ, 村方 多鶴子, 加藤 貴彦
    2005 年 52 巻 4 号 p. 308-318
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,2002年6月~7月に宮崎県日向市の入浴施設で発生したレジオネラ症集団感染後の精神的健康状態を把握し,健康被害者の心のケア対策を検討することを目的とした。
    方法 宮崎県日向市の循環式温泉入浴施設を2002年 6 月20日から 7 月23日までの期間に利用し,医療機関から保健所に報告のあったレジオネラ症患者および疑い患者295人のうち研究の趣旨を理解し調査への参加に同意が得られた153人を対象に,2002年10月12日から12月 5 日までの間に,訪問による面接調査を行った。精神的健康は,DSM-IVの PTSD 診断基準に基づいて調査項目を作成し,「ストレス状態」を捉えた。また,日本版 GHQ 精神健康調査票(GHQ28)を用い,神経症症状のハイリスク者と「身体的症状」,「不安と不眠」,「社会的活動障害」「うつ状態」の 4 要素の症状出現を捉えた。これらと,事前知識や情報の有無,日常生活への影響および経済支援の有無との関連を検討した。
    成績 PTSD の診断基準に準じた「ストレス状態」にある者は,27人(17.6%)であった。GHQ28による神経症症状のハイリスク者は39人(25.5%),4 要素別にみると「身体的症状」44人(28.8%),「不安と不眠」21人(13.7%),「社会的活動障害」18人(11.8%),「うつ状態」5 人(3.3%)であった。「ストレス状態」については,疑い患者において,人間関係の変化との関連が有意であった(P=0.022)。また,GHQ で捉えた神経症症状のハイリスクについては,確定患者において経済支援(P=0.009),疑い患者において原因調査(P=0.035)との関連が有意であった。
    結論 集団感染発生から 3~4 か月後の調査で,精神的健康が損なわれている状況がみられた。健康被害者の心のケア対策としては,人間関係や経済的問題に配慮したケアが必要で,発生直後から 1~2 か月ではなく,継続した対応が望まれる。
公衆衛生活動報告
  • 重松 良祐, 中西 園弓, 北村 純
    2005 年 52 巻 4 号 p. 319-327
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 マンパワーや運営資金の比較的少ない自治体においても一定の効果をあげることのできる,運動アドバイザー養成システムを報告すること。さらに,養成後の支援や行政との協働を目指したプロセスとその成果を報告すること。
    方法 三重県南勢志摩県民局の管轄下にある17市町村を対象地域とした(平均老年人口割合23.4%)。当局保健福祉部によって養成される運動アドバイザーを伊勢の地にちなんで「健康御師(けんこうおんし)」と名付けた。健康御師の候補者(本報告の対象者)は各自治体の推薦を受けた者とした。1 年目に基本的な養成講習会を開き,一定回数以上参加した者を健康御師と認定した。養成講習会は講義と実技で構成した。講義では運動の効果や長期的な運動プログラムの組み立て方を伝えた。実技では,日本体育協会の「中高年者の運動プログラムに関する総合的研究」のガイドラインを伝えた。2 年目には発展的な講習会を開き,(1)運動リーダーとして自治体の運動教室等で仲間に対して支援できる能力を養う,(2)地域で運動仲間を増やしていくためにグループづくりやイベント企画などの能力を養う,ことを意図した。また,健康御師同士のネットワーク構築や,健康御師としての活動を具体化するディスカッションを含めた。
    結果 2 年間で137人を健康御師として認定することができた。アンケート調査から,参加者の93.8%がこの講習会を有意義と感じていた。全体の27.7%が実際に運動教室を主導するようになり,14.3%が今後伝えていきたいと考えていた。健康御師たちは,各自治体でオリジナル体操を自主的に創作し普及するようになったり,ウォーキングイベントを企画し実行したりするようになった。さらに他自治体で運動イベントを開いたり,その地域の健康御師に運動プログラムを伝達するなど,自治体の枠を越えた健康づくりへ発展していくようになった。
    結論 このような運動アドバイザーの養成と活動を支援するシステムは他地域においても展開できると思われ,住民主体の健康づくりムーブメントを促進すると考えられる。
  • 佐藤 厚子, 北宮 千秋, 李 相潤, 面澤 和子
    2005 年 52 巻 4 号 p. 328-337
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は母親の育児不安の実態を把握し,新生児訪問指導事業(以下,訪問指導)の評価を育児不安軽減の観点から行い,今後の課題を得ることを目的とした。
    方法 対象者は H 市保健センターの 4 か月健康診査に来所した母親であり,児の出生時体重が2,500 g 以上のものとした。研究期間は平成15年 1 月から 3 月までの 3 か月間であり,自記式質問紙による調査を行った。
    結果 訪問指導に対する対象者の評価は高く,育児不安軽減につながっている重要な事業である可能性が示唆された。多くの対象者が訪問指導を受けたことで育児方法が分かり,指導者と話をして気持ちがすっきりした,育児について心配になったとき相談できる場所があることが分かったと答えた。育児不安があると答えた対象者は全対象者の78.1%,訪問指導を受けた対象者は54.4%であり,育児不安がある対象者の方が多く指導を受けていた。育児不安内容は体重が増加しているか,ミルクの量は適切かで訪問群・非訪問群に有意差があった。育児の手伝いは大多数が夫であった。夫の手伝いがあっても育児不安がある対象者が有意に多かった。育児書や雑誌から情報を得ているとした対象者は育児不安がある傾向があった。訪問指導や医療機関から情報を得ているとした対象者は少なかった。訪問指導を受けなかった理由は H 市からの連絡がなかったと答えた対象者が多かった。
    結論 H 市における訪問指導は対象者のニードに適合しており,その目的をほぼ達していると考えられる。対象者の事業評価は高く,育児不安軽減に効果的である可能性を示唆した。今後の課題として事業アピール方法の改善が望まれる。
資料
  • 中谷 素子, 東 あかね, 池田 順子, 中澤 敦子, 田中 恵子, 入江 祐子, 松村 淳子, 杉野 成, 小笹 晃太郎, 渡邊 能行
    2005 年 52 巻 4 号 p. 338-348
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 地域住民の生活満足感は,主観的健康感と関連があることが示されている。主観的健康感が良い場合や良くない場合に,生活満足感の良否がどのような生活習慣と関連するのかを,性別年齢階級別に明らかにすることを目的とした。
    方法 平成10年11月に実施した,京都府民健康づくり・栄養調査の有効回答者である15歳以上の男女4,746人を解析対象者とした。生活満足感と主観的健康感の回答分布を観察した。主観的健康感の良い「健康群」と良くない「非健康群」とで層化して,生活満足感と生活習慣との関連を,クロス集計し,オッズ比とその有意性を算出して検討した。なお,解析はすべて性別年齢階級別に行った。
    成績 1. 性別に年齢階級ごとに全体を100%としてみたところ,生活満足感の回答分布では,男女とも「大変満足」と「まあまあ満足」を合わせた割合は加齢とともに増加傾向にあり,主観的健康感の回答分布では,男女とも「大変健康」と「まあ健康」を合わせた割合は加齢とともに減少傾向にあった。生活満足感と主観的健康感の良否を組み合わせた 4 群の回答分布をみたところ,「健康-非満足群」は若年者に多く,「非健康-満足群」は高齢者に多かった。
     2. 個人の特性として,職,独居,介助,疾病,BMI,健康づくりへの関心についての 6 項目と,生活習慣として朝食,夜食(男性),間食(女性),家族そろっての夕食,野菜たっぷり,定期的運動,自由時間,飲酒,喫煙に関する 8 項目について検討結果を示した。健康群,非健康群ともに,健康に好ましい生活習慣の保有割合は男女とも年齢階級が高くなるとともに増加していることが多かった。
     3. 健康群でも非健康群でも,「家族そろっての夕食が週 3 回以上」,「定期的運動月 1 回以上」などの健康に好ましい生活習慣の保有割合が,多くの年齢階級で満足群の方で有意に高かった。
    結論 主観的健康感の良否に関わらず,生活満足感の良い人は,健康に好ましいいくつかの生活習慣をもっていることが多かった。健康に好ましい生活習慣の保有割合は加齢とともに増加していて,生活満足感の良い人の分布が加齢とともに増加していることに影響していると考えられた。
  • 下開 千春
    2005 年 52 巻 4 号 p. 349-355
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 乳幼児を持つ保護者の小児救急医療への不安の高まりが指摘されている。そこで本研究では,保護者の救急医療への不安の実態を明らかにし,保護者の不安の要因を探ることを目的とした。
    方法 対象は,埼玉県 I 市,H 市,K 市,M 町の住民基本台帳から無作為に抽出した 6 歳未満の乳幼児をもつ保護者(主に母親)473人(有効回収率27.3%)。2003年10月に自記式質問紙を用いて郵送法による調査を行った。子どもの救急医療に関する不安内容,かかりつけ医の有無,かかりつけ医の緊急時対応の可否,過去に救急時に診察を断られた経験の有無などについて尋ねた。保護者の救急医療への不安度を尺度化し,属性や居住地の医療環境要因,個別の医療環境要因との関係を重回帰分析を用いて検討した。
    結果 子どもの救急時には,どこかの医療機関ではみてもらえると保護者は思っているが,特定の医療機関を想定できないため,小児科医やかかりつけ医による十分な治療が受けられないといった質的な内容に対して不安を抱いていることが示された。家族のサポートが得られにくい核家族や父親の通勤時間が長い保護者では,救急医療への不安度は高くなっていた。かかりつけ医療機関数がない(または少ない),かかりつけ医が夜間・休日の診察を受け付けていない(または受け付けているかどうか不明),急病時に相談できる薬局や薬剤師がいない,過去に子どもの急病時に診察を断られた経験がある場合や,6 歳未満人口千人当たり小児科医師数が少ないという居住地の医療環境でも不安度は高いことが示された。
    結論 行政や医療機関には,かかりつけ医など身近な一次医療圏の救急時対応の整備や医療機関における診療情報の共有などによって,保護者にとって安心して子育てのできる医療環境の充実を図ることが求められる。保護者には,救急時対応が可能なかかりつけ医を持つことや医療機関の救急時対応に関する情報を日頃から得ておくことなどにより,いざというときのための安心を確保することが求められる。
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