日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 12 号
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原著
  • 嶋根 卓也, 三砂 ちづる
    2004 年 51 巻 12 号 p. 997-1007
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,中学生における有機溶剤乱用の実態を把握し,乱用者に共通した生活背景を明らかにした上で,有機溶剤乱用への“gateway drug”(ある薬物 A の使用がより依存性,毒性の強い薬物 B の使用に結びつくという考え方)としての喫煙および飲酒を検討することを目的とした。
    方法 埼玉県内 3 校の中学校の生徒を対象に,倫理面に配慮しながら,質問紙調査を無記名自記式にて行い,計2,049人(有効回答率93.2%)から質問紙を回収した。有機溶剤乱用経験の有無により,対象者を 2 群に分類し,常習的な喫煙・飲酒行動が有機溶剤乱用への“gateway drug”となっているかを検討するために,①有機溶剤と喫煙および飲酒との関連性,②使用順序,③多変量解析による検討,の 3 つの側面から解析を行った。
    結果 ①有機溶剤乱用経験率は,全体の1.1%であった。経験率は女子よりも男子の方が多く(男子の1.9%,女子の0.3%),学年が上がるにつれて増加する傾向がみられた(1 年0.6%,2 年0.8%,3 年2.1%)。②単変量解析において,有機溶剤乱用と喫煙および飲酒との間には関連がみられた。③使用開始年齢不明者の者が多く,有機溶剤,喫煙,飲酒の使用順序を把握することはできなかったので“gateway drug”仮説は検証できなかった。④多変量解析の結果,有機溶剤乱用へのリスクを高める要因として,常習的な喫煙行動,家族から喫煙を勧められた経験がある,夕食を一人で食べる頻度が高い,乱用現場を目撃した経験がある,友人に乱用者がいる,などが挙げられた。⑤飲酒と有機溶剤乱用との関連は,多変量解析後にはみられなくなった。
    結論 中学生の間にも有機溶剤乱用は依然として広がっており,中学 1 年生においても乱用経験者がみられることから,より早期での予防教育の必要性を再認識した。また,有機溶剤乱用経験者は,仲間からの影響を強く受けていることや,家族とのコミュニケーションが乏しい状態にあることが示唆され,「仲間からの誘いをいかに断るか」といったライフスキルトレーニングや家族関係を視野に入れた社会的心理的なケアの充実が今後有効であると考えられた。“gateway drug”仮説を検証するための有機溶剤・喫煙・飲酒の使用順序は明らかにできなかったものの,常習的な喫煙行動は,有機溶剤乱用と強く結び付いていると思われる。一方,飲酒と有機溶剤乱用との関連は,喫煙が交絡因子になっていると予想され,飲酒単独では“gateway drug”とはならないと示唆された。
  • 米山 京子, 池田 順子
    2004 年 51 巻 12 号 p. 1008-1017
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 食事からのカルシウム(Ca)摂取量の増大は長期授乳婦の骨密度低下を阻止し得るか,また,長期授乳により低下した骨密度の回復について,骨代謝を考慮して検討する。
    方法 1 年間以上の授乳婦について,授乳中の Ca 摂取量を食事指導により増大させた群(M 群)と授乳中に乳・乳製品を殆ど摂取しなかった群(N 群),および非授乳群(C 群)について,超音波法による骨密度測定および尿,血液(M, C 群のみ)中の骨代謝指標の測定を出産後 1~12週に開始し,その後半年に 1 回の頻度で最長 2 年間追跡測定,それらの変化を 3 群または 2 群間で比較検討した。
    結果 1. M 群の Ca 摂取量は平均1,032 mg/日で,日本人の授乳婦の栄養所要量に較べ幾分少なかった。
     2. 骨密度変化のパターンは 3 群間で有意に異なり,1 年後に N 群では有意に低下(−8.0%),C 群では有意に上昇したが,M 群では有意な変化は認められなかった。開始時の骨密度値および出産回数を考慮して,1 年後の骨密度変化率は 3 群間および M, N 群間で有意であった。
     3. 1 年半後の骨密度変化率は 3 群間で有意差は認められなかった。
     4. M 群では開始時および半年後の尿中 Hydroxyproline/Creatinine は N 群より有意に低く,1 年後の尿中 Calcium/Creatinine は有意に高かったが,C 群とは両指標とも有意差は認められなかった。
     5. M 群では 1 年後までの血清中 Bone alkaline phosphatase は C 群の半年後の値に較べ有意に高く,1 年後までの Osteocalcin も高い傾向であった。
    結論 授乳に対して Ca 摂取量が充足されれば,1 年以上の長期授乳でも骨密度低下はみられない。長期授乳により骨密度が低下した場合も平均的には離乳後半年で開始時まで回復するが,授乳期間中の骨密度の極端な低下は母児双方にとって好ましくない。
資料
  • 大倉 美佳
    2004 年 51 巻 12 号 p. 1018-1028
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 行政機関に従事する保健師に対して専門家から期待される,経験年数ごとの非常に重要な実践能力を明確にすることを目的とした。
    方法 専門家の意見を集約するためデルファイ法を用いた。専門家は,保健師免許を有し,次の条件を満たす者を教育,管理,実践の分野から選定した。教育分野は看護系大学地域看護学教授。管理分野は都道府県・政令指定都市の保健師集団における最上位の職位で,管轄内の保健師を統括・指導・管理している者。実践分野は行政機関での保健師経験年数10年以上で,1 人以上の後輩を指導する立場で,効果的な保健師活動の実践者の条件を満たし,管理分野の専門家より推薦された者。選定基準に一致した209人の専門家に調査協力を依頼した。
     第 1 回調査は,知識,技術,態度を枠組みとし,保健師に重要な実践能力の列挙を依頼した。第 2 回調査は,経験年数 4 区分ごとに第 1 回調査の回答から抽出された各実践能力に対する重要度を尋ねた。第 3 回調査は,第 2 回調査結果に同意できるか否かを尋ね,合意の基準を同意率90%と設定した。
    結果 参加同意者は63人(教育分野14人,管理分野23人,実践分野26人),回答数は第 1 回調査63人,第 2 回調査52人,第 3 回調査44人であった。
     本研究の結果,7 領域,47項目の経験年数ごとに重要な保健師の実践能力が明らかになった。
     7 領域とは看護過程展開能力,地域保健活動展開能力,ヘルスケア提供能力,マネジメント能力,情報活用能力,対人関係形成能力,豊かな人間性である。
     非常に重要な実践能力は,①1~3年ではヘルスケア提供能力,豊かな人間性の 2 領域の 4 項目,② 4~10年では看護過程展開能力,地域保健活動展開能力,ヘルスケア提供能力,情報活用能力,豊かな人間性の 5 領域の10項目,③11~20年では 7 領域すべての36項目,④21年以上では情報活用能力を除く 6 領域の31項目であった。すべての経験年数にヘルスケア提供能力と豊かな人間性が期待されている。
    結論 経験を積むに従い,基本的看護ケアから地域活動の展開,管理的能力へと段階的に広く高度な能力が要求されている。
  • 福田 英輝, 新庄 文明, 中西 範幸, 高鳥毛 敏雄, 多田羅 浩三
    2004 年 51 巻 12 号 p. 1029-1035
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 多様な健康状態を有する高齢者に対して,一人ひとりの健康状態を記録する健康手帳の活用は,住民一人ひとりが行う自主的な健康づくりを支援する市町村の保健事業のひとつであると考えられる。本研究の目的は,市町村の保健事業が,健康の多様化に即応して的確に推進できているかどうか,明らかにすることである。
    対象と方法 全国市町村の老人保健事業担当課を対象として,1998年度における健康手帳の交付事業の実績について調査を行った。有効回答があった2,445市町村を分析の対象とした。健康手帳の記載機会として「健康教育・相談の機会」「健康診査の機会」「家庭訪問の機会」および「福祉サービスの利用時」の 4 項目を取り上げ,各項目に対して「多い」と回答した市町村の割合,および健康診査結果の健康手帳への「記入あり」とした市町村の割合,および記載機会が「多い」とした回答数と健診結果の健康手帳への「記入あり」とした回答を加算した健康手帳の活用指標が「4 項目以上」であった市町村の割合について,老年人口(65歳以上人口)割合区分,人口区分,老健事業対象者あたりの保健師数区分,および基本健診受診率区分別に分析を行った。
    結果および考察 健康手帳への記載機会の各項目に対して「多い」とした市町村の割合,健診結果の健康手帳への「記入あり」とした市町村の割合,および健康手帳の活用指標が「4 項目以上」であった市町村の割合は,65歳以上人口割合区分,保健師数区分,および基本健診受診率区分が大きいところほど大きかった。多変量ロジステック回帰分析の結果,健康手帳の活用指標が「4 項目未満」に対する「4 項目以上」のオッズ比は,65歳以上人口割合区分,および保健師数区分が大きなところほど有意に大きかった。
    結論 市民一人ひとりの健康づくりを支援する市町村の保健事業は,老年人口割合が高くなるにつれて推進されている実情が明らかとなった。健康手帳の活用をさらに進めるためには,一定の保健師数の確保が必要であることが示された。
  • 越田 美穂子, 稲岡 由美子, 岩月 優和, 岡山 美穂, 竹原 めぐみ, 富田 康子, 弘中 恵, 三輪 哲, 曽根 智史, 守田 孝恵
    2004 年 51 巻 12 号 p. 1036-1047
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 高齢者福祉施設での効果的な情報伝達を行うために必要な要因を明確にし,そのための施設と専門機関の対応の改善を提言することを目的に,保健所から送られた情報媒体による,施設内での伝達経路や方法とその促進・阻害要因を分析した。
    方法 保健所管内で「疥癬対応マニュアル」を配布した高齢者福祉施設を対象に面接および自記式質問紙調査を行った。
     質問紙調査は,管内66施設を対象に郵送法で実施した。対象者は管理者および実務者リーダー66人(回収率84.8%)と,実務者831人(回収率53.1%)であった。内容は,①疥癬の対応経験の有無,②疥癬予防研修会への参加,③「疥癬対応マニュアル」の評価・活用状況,④情報収集手段,⑤情報伝達の現状と意識など,管理者用20項目,実務者用18項目とした。
     面接調査は,5 施設の管理者およびリーダーと実務者10人に半構成的に実施した。内容は,①具体的な仕事内容,②疥癬の対応策の有無,③「疥癬対応マニュアル」送付の周知,④マニュアルの活用方法,⑤保険医療関連の情報伝達の流れ,⑥情報伝達に関係する要因の 6 点で,データから関連する内容をコードとして抽出・カテゴリー化し分析を行った。
    結果 質問紙調査の結果から,情報伝達には施設の種別や職種の違いなどで伝達方法に差が見られ,また管理職と実務者でも情報入手方法や期待する役割などで違いがあった。とくに管理者は情報に優先順位をつけることを重要視していたが,実務者は情報伝達の場作りを期待していた。更に,施設内ではよく情報交換を行っているが,対外的なネットワークを持つ人は少なかった。
     面接調査結果からは,管理者と実務者間で上下に流れる情報伝達システムの存在と,その基盤として個人の資質が関与していた。また,システムに影響する要因として,①関心を高めるための要因,②勤務体制・業務量,③施設内外のネットワーク,④情報循環を促進する要因,⑤情報伝達のための予算化,⑥人を介する伝達,⑦施設の種別,が抽出された。
    結論 高齢者福祉施設は,①関心を高めるための職員教育,②組織・職種に応じた情報伝達システムの構築,③情報伝達を促進する環境づくり,④専門機関との積極的な対応ネットワークづくりを,一方保健所などの専門機関は,①連携のための継続的なネットワークづくり,②人を介しての双方向の情報伝達,③情報への関心を高めるような従事者教育,を行なうことが効果的な情報伝達システムのために重要である。
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