日本公衆衛生雑誌
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66 巻, 9 号
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特別論文
  • 吉益 光一, 藤枝 恵, 原田 小夜, 井上 眞人, 池田 和功, 嘉数 直樹, 小島 光洋, 山田 全啓, 窪山 泉
    2019 年 66 巻 9 号 p. 547-559
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的 精神科救急医療体制の構築と関連する法律の整備に関して,現代の日本における課題を明らかにし,解決策を探ること。

    方法 日本公衆衛生学会モニタリング・レポート委員会精神保健福祉分野のグループ活動として,2014年度から2017年度にかけて精神科救急および措置入院に関する情報収集を行った。各年次総会に提出した報告書を基に,必要に応じて文献を追加した。

    結果 地域における精神科医療資源の偏在や,歴史的な精神疾患に関する認識の問題なども絡んでいるため,全国均一的な救急医療システムの構築のためには越えなければならないハードルは高い。また,強制入院の中で最も法的な強制力が強い措置入院制度に関しては,その実際的な運用を巡って全国でも地域差が大きいために,精神保健福祉法に,より具体的な記載が盛り込まれるとともに,厚生労働省から一定のガイドラインが提示されている。とくに近年は凶悪犯罪事件との関連を巡って,社会的にも関心が高まっており,一部では措置入院の保安処分化を懸念する声が上がっている。精神疾患は今や五大疾病の一つに位置づけられているが,その性質上,生活習慣病などに比べて,疫学的エビデンスが圧倒的に不足しており,これが臨床や行政の現場での対応に足並みが揃わない主要因であると考えられる。

    結論 日本公衆衛生学会は,医療・福祉・行政などに携わる多職種から構成される学際的な組織である強みを活かして,多施設共同の疫学研究を主導し,措置入院解除および退院後の予後に関する,すべての関係自治体が共有しうるデータベースとしての疫学的エビデンスの構築を推進する役割を担っている。

原著
  • 野藤 悠, 清野 諭, 村山 洋史, 吉田 由佳, 谷垣 知美, 横山 友里, 成田 美紀, 西 真理子, 中村 正和, 北村 明彦, 新開 ...
    2019 年 66 巻 9 号 p. 560-573
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的 兵庫県養父市にて,2011年よりフレイル予防を目的としたアクションリサーチに取り組んできた。その方策は,「行政区ごとにフレイル予防教室を創る」というものである。最大の特長は,教室の担い手の問題を解決するために,「研修を受けたシルバー人材センターの会員が仕事として市内の各地区に出張し,教室を運営する」ことである。本研究では,このフレイル予防施策(養父モデル)の効果および他地域への応用可能性を示すことを目的とした。

    方法 ポピュレーションアプローチの評価モデルであるPAIREMの枠組みに沿って,1拠点目を開設した2014年から2017年までの3年間のプロセスおよびアウトカム評価を行った。アウトカム評価にあたっては,2012年および2017年に市内在住の高齢者を対象に郵送調査法による悉皆調査を実施した(回収率:90.7%,85.7%)。

    結果 (1) Plan(計画):運動,栄養,社会プログラムからなる週1回60分,6か月間,全20回の教室を基本コースとし(途中,1.5か月間,全6回の短期コースも創設),終了後は自主運営化を図ることとした。1年目は3地区,2年目以降は10地区ずつ教室を開設することを目標とした。(2) Adoption(採用):3年間で154行政区中36地区(23.4%)が教室を開設した。(3) Implementation(実施):基本または短期コース中の教室出席率の中央値は75.0%であった。(4) Reach(到達):教室参加者は719人であり,参加率は実施地区では32.8%,市全体でみると8.1%であった。(5) Effectiveness(効果):傾向スコアマッチング後のフレイルの有病率は,非参加群では2012年から5年間で13.7%増加したのに対し,参加群では6.8%の増加にとどまった。また,追跡調査時におけるフレイルの有病オッズ比は,非参加群に対して参加群では0.65(95%信頼区間0.46-0.93)と有意に低かった。(6) Maintenance(継続):基本または短期コース終了後も96.2%(25/26拠点)の拠点で週1回の活動が継続された。

    結論 フレイル予防教室を行政区ごとに設置するという地域ぐるみの取り組みにより,参加者のフレイルの有病リスクが低減した。また,教室は各地に広がり,到達度,継続率が高かったことから,養父モデルは有効かつ他地域への応用可能性の高いモデルであることが示唆された。

  • 小玉 かおり, 伊藤 俊弘
    2019 年 66 巻 9 号 p. 574-581
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,がん患者の休職関連要因およびQOLを明らかにし,わが国のがんと就労の問題に対する示唆を得ることを目的とする。

    方法 北海道内で通院治療中の成人がん患者(20~64歳)に,自記式質問票による調査を実施した。調査項目は基本属性,がん関連属性およびQOL(SF-12v2日本語版)とした。

     就労者を休職群と仕事継続群に分類し,QOLは8下位尺度とこれらから集計した3つのコンポーネントサマリーを比較検討した。各がん関連因子に対する休職の有無の関連について,基本属性の傾向スコアを算出して調整変数とし,このスコアを休職の有無とともに独立変数へ投入することで,がん関連属性に対する休職の有無をロジスティック回帰分析または重回帰分析を用いて検討した。

    結果 有効回答が得られた147人のうち就労者は79人で,このうち休職群が29人(36.7%),仕事継続群が50人(63.3%)であった。休職関連要因について傾向スコアを用いたロジスティック回帰分析にて解析した結果,「告知から6か月未満」における休職群のオッズ比は「6か月以上」に対し17.9倍高いことが示された(P=0.001)。また,「手術を受けていない者」は「手術を受けた者」よりもオッズ比が3.9倍高くなる傾向が示された(P=0.011)。

     休職群のQOLは,8項目中7項目で国民標準値よりも低値を示した。仕事継続群との比較ではすべての項目で休職群の平均値が低く,このうち6項目は有意な低値を認め,とくに日常役割機能(身体・精神)に顕著であった。休職群のコンポーネントサマリーは,仕事継続群よりも役割/社会的側面(RCS)および身体的側面(PCS)のスコアが有意に低値であった。

    結論 就労中のがん患者を休職群と仕事継続群に分け,休職関連要因およびQOLを検討した。その結果,休職群は「がん告知から6か月未満」および「手術を受けていない者」が関連しており,さらに休職群のQOLは仕事継続群に比して低く,とくに身体的側面(PCS)と役割/社会的側面(RCS)が低いことを認めた。以上から,がん患者の就労支援には,これらの特性に配慮することが必要であることが示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 田口 敦子, 備前 真結, 松永 篤志, 森下 絵梨, 岩間 純子, 小川 尚子, 伊藤 海, 村山 洋史
    2019 年 66 巻 9 号 p. 582-592
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的 地域で介護予防活動を行う住民を養成する,介護予防サポーター養成プログラムの多くは,市町村の経験値で組み立てられている現状がある。そのため,必ずしも効果的・効率的に養成を行えている市町村ばかりではない。本稿では,まず,文献検討を行い,養成プログラムのプログラム内容や評価指標等を定める視点を明らかにした。その上で文献検討を基に養成プログラムを作成し,効果を検討した。

    方法 養成プログラムの文献検討を行い,その結果を基に養成プログラムを作成した。岩手県大槌町を対象地域とし,2017年6~9月に地域包括支援センターの保健師3人と研究者4人とで,養成プログラムを作成した。その後,2017年10~11月に養成プログラムを実施した。評価では自記式質問紙を用い,毎回の終了後に満足度等を尋ねたプロセス評価と,全プログラム前後に,地域課題の理解度等を尋ねたアウトカム評価を行った。

    活動内容 文献検討から,養成プログラムは,企画者によって予め介護予防サポーターに求める活動が定まっているタイプ(タイプA)と,活動内容を参加者と一緒に具体的に考えていくタイプ(タイプB)の二つに分けられた。プログラム内容の特徴として,タイプAでは,プログラム終了後に介護予防活動に移るための具体的な知識や技術の習得を目的とした内容が多かった。タイプBでは,地域課題の認識を高める講義や演習,先駆的な活動の見学等,プログラム終了後の介護予防活動の内容を住民が考えて具体化できるような内容が多かった。

     文献検討を踏まえ,大槌町では,地区の状況に応じた介護予防サポーターの活動方法を参加者が検討し取り組むことが重要であると考え,タイプBを参考に養成プログラムを検討した。アウトカム評価では,解析対象は12人であった。男性2人,女性10人,年齢は71.4±10.0歳[範囲:53-88]であった。プログラム前後のアウトカム指標の平均値の変化は,地域課題の理解度では3.1→4.1(P=0.046),自分自身の介護予防に取り組む自信では3.4→4.0(P=0.035)と有意に上昇していたが,地域の介護予防に取り組む自信では3.1→3.5(P=0.227)であり有意差は認められなかった。

    結論 文献検討で養成プログラムの目的や内容,評価指標等の視点を明確にし,その結果を基に実施したプログラムで一定の効果を得ることができた。

資料
  • 黒谷 佳代, 新杉 知沙, 千葉 剛, 山口 麻衣, 可知 悠子, 瀧本 秀美, 近藤 尚己
    2019 年 66 巻 9 号 p. 593-602
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的 子ども食堂はボランティア等に運営され,子どもの社会的包摂に向けた共助のしくみとして注目されている。主なターゲット層である小・中学生の保護者を対象とした子ども食堂の認知に関する調査により,子ども食堂の地域における活用に関連する要因を明らかにすることを目的とした。

    方法 小学校1年生から中学校3年生の保護者3,420人(平均年齢42.6歳)を対象に,2018年10月にインターネット調査を実施した。属性,子ども食堂の認知と認識,利用経験,今後の利用希望とその理由を質問項目とした。対象者を二人親低所得(世帯年収400万円未満)世帯父親,二人親中高所得(400万円以上)世帯父親,二人親低所得世帯母親,二人親中高所得世帯母親,ひとり親世帯父親,ひとり親世帯母親に分け,群間の差は χ2 検定により検定を行った。

    結果 子ども食堂の認知割合は全体の69.0%で,男性に比べ女性で高く,とりわけ二人親中高所得世帯母親で79.7%と高かった(P<0.001)。メディアで子ども食堂を知った者が87.5%で,子どもが一人でも行けるところ・無料または数百円で食事を提供するところ・地域の人が関わって食事を提供するところという認識や,安い・賑やか・明るいなどポジティブなイメージを持つ者が多かった。しかし,子ども食堂を知っている者のうち,子ども食堂に本人もしくはその子どもが行ったことのある者はそれぞれ4.5%,6.3%であった。今後,子ども食堂に子どもを行かせてみたいと思うと回答した者は全体の52.9%で,世帯構成による利用希望に違いがみられ,低所得世帯とひとり親世帯母親では利用希望者が過半数である一方,中高所得世帯とひとり親世帯父親では過半数が利用希望しなかった(P<0.001)。その主な理由として,必要がない・家の近くに子ども食堂がない・家で食事をしたいなどがあったが,少数意見として生活に困っていると思われたくない・家庭事情を詮索されそう・恥ずかしいという理由があった。また,中高所得世帯では子ども食堂にかわいそうというイメージを持つ者が多かった。

    結論 本研究の小・中学生の保護者は子ども食堂に対してポジティブ・ネガティブの両方の認識をしており,その内容は世帯状況により異なっていた。理解の定着と普及のためには子ども食堂への負のイメージの払拭や子ども食堂へのアクセスの確保などの対応が必要と思われる。

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